冬麗の陽気とうらはらにガチギレ王族に喧嘩を売る 前編
少しセンシティブな表現が含まれています。ご注意ください。
「えっ?はっ?なんで?書類作業してんの?」
久しぶりに私の部屋にやってきたマリウスさんが今の私の姿を見て驚いていた。
「それがですね。母国に今の状況を報告したらこれらが送られてきたんですよ」
バレリアがソファーに座るマリウスさんと机で作業している私にお茶を入れてくれた。
「アンニーナ様って本当にお仕事大変なんですね・・・」
頬に手をあてながら可愛そうな子を見る目で私を見ながら机の上に山積みになっている書類を眺めていた。確かに、バレリアと一緒に各国を巡っている時はその国の偉い人と会話をして最終決断は自国へ持ち帰る。そして休暇の日は一緒に城下町に降りてご飯を食べたりお土産を買ったりしていただけだもんね。
魔物を退治しているところも一度ぐらいしか見たこと無いし。これはバレリアに危険が及ぶかもしれないからそれでいいとは思っているんだけど。
「そうですね・・・。まあ、直系王族だとこれくらいはこなさないといけないのでしょうね」
マリウスさんは今の私の状況を理解してくれたらしく書類の量だけを確認して必要以上に近づかなかった。いや簡単な計算のダブルチェックとか手伝ってくれてもいいんですよ。
「そういうものなのですね」
「確かにバレリアには私のプライベートな部分をサポートしてもらっているから普段の姿とか中々みないよね。ちょっとは頑張っているのです!」
私はエヘンと胸を張って書類の間からバレリアの方を見た。
「まっ、今日も王女様はご機嫌麗しくて良かったです。じゃあ、僕は失礼するよ」
といってバレリアが出したお茶も口を付けずそのままソファーから立ち上がろうとしたとき
「うっ」
マリウスさんが突然胸元を抑えながらソファーに倒れこんでしまった。
「マリウス様大丈夫ですか?」
バレリアは慌ててマリウスさんに近づいて様子を確認しようとするが
「ああ、ちょっと眩暈がしただけだよ。ごめんね。僕も仕事のし過ぎかな?」
と言って再びソファーから起き上がろうとするが胸元を掴んだまま動こうとしなかった。
私も心配になってきて、バレリアに何か拭くものを持ってくるように指示した後マリウスさんの傍に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
私が近くに来たことも気づかないくらい苦しんでいたので驚いた。
「少し苦しそうなので首元を緩めますね」
私は一応マリウスさんに確認をした後、ボタンをはずしていくと
「えっ?」
鎖骨辺りまで見たことのある文様が描かれていた。
「これって、呪われているの?」
以前私の手首に長年描かれていた魔法陣は美しい模様になっていたが、マリウスさんの上半身に描かれていた文様は意味が分からないがトゲトゲしい模様だった。
マリウスさんはがんばって自力で息を整えようとしていたけどあまりにも苦しかったのか何かを掴もうと片手が空を切っていたので私は思わずその手を握ってしまった。
マリウスさんの苦しんでいる姿がまるでメリーディエース国で初めてエーベハルトを見た状況に似ていた為私は少し混乱していた。
「アンニーナ様!しっかりなさってください!」
とバレリアに叱咤され、少し冷たい布巾を手渡された。
私は直ぐにマリウスさんの額の脂汗をそっと拭きとった。同時に少しだけ癒されるように魔力も送った。
これって、まさかエーベハルト王子の仕業なの?
この国でこんな芸当をするのは彼ぐらいしか思いつかなかった。
そして、マリウスさんがこんな呪いにかかった原因はきっと私にあるのだろうと考えるととても彼に申し訳なく思った。
「すまないね。こんな情けない姿を王女様に見せてしまうなんて」
マリウスさんはようやく自分で起き上がることができた。
「これは・・・。」
「ん?」
「これは、エーベハルト王子にやられたのですか?」
「王女様、何を言っているのか僕にはわからないんだけど」
マリウスさんは苦笑いをしながら私の質問に対して返事をはぐらかした。
「だって、今日も距離感が変だったし初日は私の事〝アンニーナちゃん〟って呼んでたじゃないですか!なるべく私と距離を置いて少しでも呪いを軽くしようとしてるんでしょ?」
「そんなことないよ。今日はお仕事してたしね。やっぱり女性の名前を気軽に呼ぶのは良くないかなって思っただけだよ」
「このままだと私と関わる異性の人が無差別でこんな事になるかもしれないじゃないですか!」
正直マリウスさんが苦しそうにしている姿を見て心が締め付けられる思いだった。だって成人男性が苦しむってよっぽどのことだと思うのよ。
私は、少し元気になったマリウスさんを見てこのままではいけないと思った。
だから
「マリウスさん!」
「なんだい?」
いつも一瞬マリウスさんを見るとエーベハルト王子の面影を探してしまう自分に呆れてたりしたんだよね。
立ち上がったマリウスさんの後ろに私は付くと片方の腕をひねり護身用に持っていた懐刀を取り出した。
「アンニーナ様!それは!」
そう、一応ね。自害用に持たされているわけですよ。仕方がないじゃん。自分と国民を選べって言われた時にどっちをとるの?って言われたら私達は皆同じ答えを出すはず。
「いだぁっ!折角発作が落ち着いたのにぃ~!」
マリウスさんは不意を突かれたので驚きながら片腕を取られた形になった。
「バレリア、貴方は当分身を隠せるように自室にこもっておきなさい。私はこれから王太子に会いに行くわ」
「ええ!突然どうしたんですか!」
そうだよね。バレリアも驚くよね。
「うん、マリウスさんを人質にとってこのふざけた長兄と少しお話合いに行ってくるから!大丈夫!後でお父様たちにはきちんと謝罪するしね」
「さっ、マリウスさん。この部屋を出ますよ。抵抗したら本気で刺しますからね!」
私は短刀だけど確実に内臓を傷つけられる場所に刃先を当てながらニコリと微笑んだ。
「あ~あ、ついにアンニーナちゃんを怒らせちゃったか。でも、ちょっと楽しそうだから僕も参戦させてもらおうかな」
マリウスさんはそう言うと一緒にドアの付近まで行った。
「開けてくれ!緊急事態だ!」
中で看守が慌てながらドアを開けたので
「これより、マリウス・セプテントリオを人質にコンラート王太子への謁見を要求する!」
ほとんど人のいない塔で私の声だけが響いた。
最後までお読みいただきありがとうございました。




