炎る日差しに立ち込める暗雲 Ⅴ
ハルトは私より背が低いと言っても成人男性だろう。
私とナタンの二人でようやく移動させることができた。
もちろん使用人たちを呼べばもっと楽に運ぶことができたと思うが、夜も遅くなってきている。
さすがに王女の部屋に連れ込むことに難色を示すだろう。
「カロル姉上、ハルトをどこに寝かしますか?」
いざ、部屋に連れてくると今度は寝かせる場所の問題が発生した。
「とりあえず、あの大きなソファーに寝かしておこう。ハルトは体が小さいから収まるはずだ」
「それ、ハルトに聞かれるときっと怒りそうですね」
「大丈夫、今は・・・ちょっとヤバそうな状況だが聞こえはしないだろう」
ナタンは緊急事態のこの状況を楽しんでいるみたいだった。
ハルトをソファーにそっと仰向けに寝かせる。
顔色が悪く息が浅そうだ。これは侍医を呼んだ方がいいのだろうか
「カロル姉上、ハルトの胸元だけ少し緩めた方がいいと思います。私が緩めても?」
「ああ、頼む」
ナタンは首まで閉じている服のボタンをはずしていく。
「姉上・・・これは・・・」
ナタンは私の服をそっと引っ張った。子どもの時に怖くなったら無意識にする行動だ
「どうした?ナタン」
ナタンが凝視している個所を見ると左肩から心臓に向かって黒い何かが絡みついているように見える
「これか・・・」
「何がですか!これって呪われてません?」
確かに、変な魔力がハルトの心臓の周囲を、もしかすると心臓に絡みついているんじゃないか?
「これは、私達ではどうにもできないわね。父上に相談しにいかないと」
「そうですね・・・。じゃあ、今から行きますか?」
「そうだな」
「ナタンは私の専属に眠ったから今日の仕事は終了と伝えてから父上の所へ来てくれないか?私は外から回って父上の所に行くよ」
「うん。分かった」
ハルトをこのままここに置いていくのは申し訳ないがなるべく使用人を挟ませたくないのでナタンと二人で行動することにした。
私は、バレリアをひっぱりながら自分の部屋に駆け込んだ。
「アンニーナ様・・・。」
バレリアも同じ状況を確認しているので私になんて声をかけていいのか悩んでいるみたいだった。
「まったく、ハルトのコミュニケーション能力の高さも問題だね!王族の人と仲良くなっちゃうなんて」
私は無理にテンションを上げながらバレリアに話しかけた。
「さあ、夜も遅くなちゃう。私は入浴してから寝る事にするわ。バレリアも手伝ってくれる?」
「はい、入浴の準備はユーリアが済ませてくれていると思いますのでそのままお入りください」
「うん、ありがと」
入浴後、寝る準備を済ませるとバレリアを早めに下がらせた。
「アンニーナ様・・・。」
「私達が見たことは秘密にしておいてね。この先どのようになるかは分からないけど現時点では私が口出しすべきことではないわ」
バレリアは少し視線を彷徨わせてから私を見ると
「はい、かしこまりました。おやすみなさい。アンニーナ様」
と言って部屋を出ていった。
多分、ハルトの事で何か言いたかったと思うけど私が先に釘をさしちゃった。
そして私はベッドに入る気にもなれず寝室に備え付けられた椅子に座る。
きっと目を瞑るとハルトの事ばかり考えてしまうかもしれない。
それがとても怖かった。
「はぁ~」
私は誰もいない部屋で一人溜息をついた。
そして何気なく左手首の魔法陣を見ると、ほぼ真っ黒に染まっていた。
「これ、このままだとどうなっちゃうのかな?私のこのドロドロとした気持ちと一緒に消えてなくなるのかな?」
考えを口に出したけどきっとそれは答えでないということも分かった。
このまま悩んでいても仕方がないのかもしれない。
「よし!ウジウジ悩んでいても仕方がないし本人に聞いてみるのが一番かも!」
私は部屋着の上に上着を羽織って部屋の外にでた。警護の人が慌て着いて来ようとしたが直ぐに戻ってくるのでここで待機するようにお願いした。
そして、近くにいた使用人にハルトの事を聞くとどうやらまだ部屋に戻っていないと言われた。
「そっか・・・。」
なんとなく居場所がわかるのでそこに行って確かめるしかないのか・・・。少し嫌だなぁ~。本当にハルトを手放す決断をしなければいけないのかもしれない。そう思いながらカロル王女の私室へと向かった。
カロル王女の部屋の前には警護の者が立っていなかった。
誰に取り次いでもらっていいのか分からずドアの前でウロウロしていると部屋の中から唸り声が聞こえてきた。
普段なら、ほんと~にそんな事しないんだけど私は小さくノックした後、そっとドアを開けた。
部屋の中には一瞬誰もいないように見えた。私は小さな声で「失礼しまぁ~す」と言いながらその唸り声の元を探した。
すると、ソファーの方から聞こえてきたのでそっと覗いてみると
そこには、黒髪の成人男性がそこで胸元を抑えながら苦しみ藻掻いていた。
私は焦りすぐに駆け寄りその男性の空いているもう片方の手を握った。
急に握られて驚いたのか体が一瞬ビクッと震えたが自分に害がないと思ったのかそのままの状態で再び苦しみ始めた。
「私、治癒魔法とかちょっと苦手なんだけど・・・。」
意外と王族は好戦的ではあるが治療面では向き不向きがある。
「とりあえず、拒否反応がないか確認してから魔力を流してみるか・・・」
少しずつ自分の魔力を流したが、お互い拒否反応が出なかったのでそのまま治療することにした。
すると、相手も楽になったのか息遣いが落ち着いてきた。
そして、少し目を開き私を見るととても驚いていた。私も驚いた・・・。
その綺麗な赤い瞳に引き込まれそうになった。今まで無くしていたものを思い出したような感覚?
男性がこちらをもう一度確認しようと首の位置をずらすと綺麗な長い黒髪がパサリと彼の視界を遮ったので私はそっと耳にかけてあげた。
「・・・・・。」
辛うじて口は開いていたが話した言葉は聞こえなかった。
だけど、私は彼の目から視線を外せなかった。なんなんだこの気持ちは・・・。
体調が落ち着いたのを見計らって私は名残惜しいけど彼の手を放した。そして、目的のハルトとカロル王女がいないので何も言わず部屋を出ていった。
前書きはカロル王女視点でした。
よそ見してたら投稿遅くなっちゃった。すみません。
超短編上げました。時間があったら読んでみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。




