ヴィルマ・ヒエムス・セプテントリオの呟き
セプテントリオ国の第一王子コンラートの奥さん視点です。
アンニーナとエーベハルトはプロヴェンツァーレ国に帰っている時のお話。
「また行ってしまった・・・。」
私達の自室の暖炉の前で項垂れるように落ち込む旦那様に近づき、そっと肩に手を添えた。
旦那様は私に甘えるように自分の頭を後ろにいる私に預けるようにもたれかかった。
「あまり話をすることができなかった・・・。」
そりゃそうでしょう。エーベ君の最愛と引き離しておまけに軟禁状態にして彼に自分の公務の一部をお願いしているんだから。エーベくんもお仕事の話は最低限してくれるけど旦那様がプライベートな話をしようとした瞬間その場を離れちゃうんだもんね。
「エーベ君がお話してくれなかった原因は旦那様が一番理解しているのでしょ?」
「グッ」
変な音を出しながら頭を垂れてしまっている旦那様の背中が小さく見えるわ~と思いながら幻覚ではない旦那様の黒い靄を頭をポンポンと叩きながら払っていく。
「また漏れていたのかい?」
「うん。少しだけね。私が払えるぐらいだから大丈夫よ」
私は、旦那様が生み出す魔力の塊を少しだけ払うことができる。
元々そのような能力はなかったのだけど、旦那様と相思相愛になった時にそれは発現された。
発現というよりは旦那様に与えてもらった能力と言った方が正しいのかもしれない。
王妃教育をうける中でこの国の王族の愛に対する執着のえげt・・・深さを一番始めに学ばされる。
それは、愛するものの裏切りや王族の勘違いによって国が傾いたりするからだった。
「嘘でしょ?」 はい、私も始めはそう思いましたよ。貴族としては高位に所属していた私の家族でさえ我が国の王と王妃はいつも仲睦まじいな。ヴィーも大きくなったら王様夫妻のように相思相愛の相手を見つける必要があるな」と父様と母様が微笑みあいながら私に話してくれたのを思い出す。
もちろん、私の両親も夫婦仲はいいと思う。
今考えれば王族に近い血筋だから・・・。なにかしら残っていたのかもしれないって思った。
とりあえず落ち込んでいる旦那様を元気づけたいんだけれどもすぐに会いに行ける立場でもないしやはりまめにお手紙交換をするのが一番いいのかもしれないわね。
そう考えながら私はまだ項垂れている旦那様の膝の上に座った。
二人きりの時はそうしないと拗ねてしまうからなんだけど・・・。さすがにこの年でこれをするのは少し恥ずかしいのよね。
でも、効果は覿面みたいで少し機嫌が良くなった。後ろからギュッと私を抱きしめながら私の項あたりに自分の頭をグリグリと押し付けて甘えてくる。
「・・・。今まで何十年も一緒に過ごしてきたのだからお兄ちゃんに少しぐらい時間を割いてもいいと思うんだよ」
「そうですね。それを言葉にしてからエーベ君ときちんと話し合って時間を作ってもらえば良かったのでしょうね」
「・・・。言わなくても兄弟だったら分かると思ったんだもん」
「それ、夫婦の間で一番亀裂を生む考え方ですよ?私には言葉にしてくださいね」
お願いしますよ。国が亡んじゃいますよ?
「アンニーナちゃん、いい子だったじゃないですか。旦那様はそんなに気に入らなかったのですか?」
「・・・。いい子だったと思う。時々こちらに帰郷させてくれていればもっと早く気付いたとも思う」
「でも、エーベ君はアンニーナちゃんの侍従兼側近として働いていたのでしょ?そして、この国出身って知らなかったのでしょ?」
「・・・。うん。普通は他国出身の側近なんて傍に置かない」
「エーベ君もプロヴァンツァーレ国の貴族として働いていたんでしょ?」
「そうでした・・・。」
まあ、アンニーナちゃんのお父様が許可していたからできた裏技だとは思うのだけど、そんな状況でまだまだ若い彼女にそこまで気を回せって言われても難しい話のような気がするわ。
「旦那様もご学友時代からの側近がまさか他国の人だったなんて思いもよらないでしょ?」
「・・・。一応調べるかも」
「そうですね。旦那様なら違和感を覚えた時点でそうなさりそうですね」
「今度、アンニーナちゃんにお手紙を書いてプロヴァンツァーレ国に遊びに行きましょう?」
「・・・。」
「できないって思っているでしょ?実は、ちゃんとアンニーナちゃんとお約束をしましたから大丈夫ですよ」
「そうなの?」
旦那様は頭をあげて座っている私の顔を覗いた。ちょっと距離的に近すぎますけどね。
「ええ、『いつでもお待ちしてます』って言ってもらえたわよ」
「・・・。そうか・・・。でも、エーベはなんて思っているか分からないから。また今回みたいに一人で暴走してしまうかもしれないし・・・。」
「あらあら、ご自分でも暴走した自覚はおありだったのですね?」
あっ、心の中で言ったつもりが声に出してしまっていました。
「う~、すみません」
「私に誤らなくてもいいのですよ。旦那様は十分に反省していると思っていますから」
私はそう言うと旦那様の膝から立ち上がった。旦那様は小さく「あっ」と寂しそうに声を上げた。
「旦那様想いの私からプレゼントがあります」
「プレゼント?」
「はい、これをどうぞ」
私は一枚の手紙を旦那様に渡した。
「これは!!」
「はい、エーベ君からのお手紙です。ちゃんと仲直りした後に書かれたみたいですよ。それを読んで元気を出して明日からのお仕事もがんばってくださいね」
きっとこの手紙は一人で読みたいだろうと思い私は一足お先に寝室に向かうことにした。
「ヴィル」
「はい?どうしました旦那様?」
旦那様は立ち上がると私をそっと抱きしめた。
「ありがとう。本当にありがとう」
私も抱きしめ返しながら
「愛する人は大切にしていきましょうね。」
「うん」
旦那様は再び暖炉の前のソファーに腰を掛けると自分の名前が書かれていた宛名を優しく撫でていた。
「おやすみなさい。コンラート」
私は自分に聞こえるくらいの音量でそっと呟いた。
【補足】
ヴィルマは家族や親しい友人から「ヴィー」と呼ばれています。
コンラートは自分だけの愛称が欲しいと我儘を言って今まで呼ばれたことのない「ヴィル」と
呼んでいます。アンニーナがヴィルマさんと仲良くなっても「ヴィーお姉義様」と呼ぶことに
なるでしょう。コンラートさんは面倒な人ですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。




