噂の迷宮、入場許可
下水探索において、知識神、冒険神の神殿に大きな寄与をしたとして、俺たちは表彰された。
これはつまり、町の広場で大々的に褒められたというわけだ。
中堅を越えた冒険者は、誰でも大体こういう経験があるらしい。
こういう舞台を通過儀礼として、初心者冒険者から中堅冒険者になっていくわけだ。
しかし俺たちは冒険暦なんか、まだまだ初心者なんだけどな。
「き、緊張するわね……!」
「レベッカ、武者震いか」
「緊張して震えてんのよ!」
町の真ん中の広場は、それなりに人通りが多い場所である。
午前中は市場が開かれており、午後からは出店が出てくる。
イベントがあるというので、今日の人通りはいつにも増して一段と多い。
誰もが俺たちの表彰式を見に……というわけではなく。
俺たちが釣り上げた古代魚が、皮、肉、内蔵、骨の解析が終わり、剥製として残すことになったのだそうで、いらん肉は料理にして振る舞われることになったのだ。
タダ飯である。
ということで、常に腹をすかせている冒険者や労働者たちがどんどん集まってくる。
「えー、そなたたちは我が人類の知識に、偉大なる功績を残した。よって表彰するー」
「あっ、はい!」
俺はパーティリーダーだからして、みんなを代表して受け取らねばならない。
進み出たら、手足が一緒に出た。
なんだ、俺もすごく緊張しているじゃないか。
「ロッド、かっこいいよ、がんばってー」
小声でアリサが応援してくる。
レベッカの助けを得られるようになってから、色々な女の子らしいお洒落を楽しんでいる彼女。
今日はちょっとフォーマルな神官服だ。
ひらひらした生地は、華奢な彼女によく似合う。
俺は彼女に向けて、ちょっとガッツポーズ。
元気をもらって表彰の盾を受け取る。
これは、知識神が象徴する動物であるふくろうを象った、小型の盾だ。
実用性のある装備にもなっていて、毎年リニューアルされている。
中堅冒険者の一部には、これを愛用している者もいるという、使える記念品なのだ。
「……で、あるからしてムニャムニャ」
眠くなるような表彰の言葉を、知識神の司祭が告げている。
後ろでレベッカがあくびをする声が聞こえた。慌てた様子のジョージが小声でたしなめている。
で、広場の連中は俺たちなんかガン無視して、配給される古代魚のスープに舌鼓を打っているわけだ。
漏れ聞こえてくる声によれば、やや大味ながらスープに深みがあって旨いとか。
興味あるなあ。
「……ということで、お主らにはじゃがいも迷宮の探索権を副賞として与えるものとする……!」
意識がそれているうちに、重要なことを言われた。
じゃがいも迷宮の探索権だって!?
じゃがいも迷宮というのは、先日の冒険で俺たちが発見した謎の迷宮のことだ。
じゃがいも畑の下から発見されたから、通称じゃがいも迷宮と呼ばれている。
可愛らしい名前とは裏腹に、大変入り組んだ広大な迷宮で、すでに中堅冒険者たちに、未帰還者が出ているらしい。
モンスターも住み着いているとか。
「やったぞ」
俺が後ろに向かってサムズアップすると、仲間たちが同じく、サムズアップで返してきた。
ようやく、俺たちはあの迷宮に挑戦する権利を得たのだ。
あとは、知識神司祭の言葉は上の空だった。
そんなわけで、壇上から開放された俺たち。
配給されている古代魚のスープなんかを突きつつ、屋台でくるみ入りパンを買ってきてお昼にする。
「権利を得たっていうけれど、どうすればいいんだろ。まずは情報収集かな」
ジョージは古代魚の肉が少々硬く思えるらしく、匙で丹念にほぐしている。そんな動作をしながら、目線だけをこちらに向けて言うのだ。
「そうだな。迷宮が開かれてから結構経っているし、みんな共有している情報があるかもしれない。色々調べてみようぜ」
「賛成!」
アリサが両手を上げる。
勢い余って、彼女が手にしていたスープの器が空を飛んだので、慌ててレベッカが飛びついて事なきを得た。
「あっぶない……! 気をつけてよ。アリサ、ちょっとは力のコントロールができるようになったからってさ」
「ごめーん」
ほう……。
アリサはあのパワーを自分のものにして来ているらしい。
今後にちょっと期待だなあ……。
それで、迷宮にあるという例の指輪が手に入ったら……そうしたら……。
「ロッド、ロッド、なんだか顔が緩んでるけど……?」
「あ、ご、ごめん、何でもない」
思わず下心が顔に出てしまっていた。
結構、俺って思ったことが顔に出てしまうのかもしれない。
鼻の下が伸びてなかっただろうか。
ちょっと心配だ。
「ロッド、その盾が通行証になるんだろう? ちょっと僕にも見せてくれないか? へえ……これは何というか、木の盾に薄い金属を貼り付けてあるんだな」
ジョージに貸すと、珍しそうに上に掲げ、仔細に盾を調べている。
非力なことには定評があるジョージが、軽々と持ち上げられるのだから、この盾は随分軽い。
防御力に関してはあまり期待できないかな。
それでも、俺が使うならばこれは受け流すことができるわけだし、盗賊の盾としては充分。
「へえ……って、えええ!? ちょっと、ちょっとロッド!」
「なんだ? いきなり大声あげて」
「この金属、薄く張ってあるなって思ったけど……この光沢ってミスリルだよ!」
「は!? 本当か!?」
「本当だよ。魔法で固定化してあるから、この木枠から外れないけれど、間違いない。一応権威ある知識神の加護がかかってるから、売り払ったら確実に天罰が下るね」
「金にはならないミスリルかあ」
ミスリルっていうのは、伝説的な金属だ。
発掘された時点で魔法を宿していて、その上にさらに魔法をかけることで、特殊な効果を顕すことができる。
それがこんな記念品に使われているなんて……。
「でも、こんなにペラペラなら、ミスリルだってそんなに効果無いんじゃないかな。売れたって、ミスリル箔っていう感じの厚みじゃ笑われちゃうよ」
アリサが冷静に突っ込んできて、俺もジョージも、もっともだ、と思った。
ちょっとした飾り程度のミスリル銀仕様ということだろう。
やっぱりこいつは、使える記念品として活用するのが良かろうということになった。
レベッカは最後まで、俺たちの話の内容が分からなかったようだが。
ひとまず、食事が終わった後、表彰と共にもらった報奨金でみんなの装備を見に行くことにした。
レベッカの革鎧は新調していたが、さらに追加で報酬が入ったから、ちょっと欲が出たのだ。
あわよくば、俺の鎧も良いものにして、レベッカには頑丈な篭手あたりを見繕いたい。
「おう、いらっしゃい。最近羽振りがいいみたいじゃないか」
武具屋の親父さんはすっかり顔なじみになってしまった。
何せ、アリサ関連のアレやコレやで、装備がよく壊れるのだ。
高いものは買わないが、それなりのものを何度も買い替えに来ている。
「今回は買い替えじゃなくてね。鎧関連なんだけど……盗賊用のと、それと彼女の篭手があれば」
「ははあ。そっちの彼女は両手斧使いかい? そうすると、手指は出てる方がいいよなあ……どれどれ」
手指が出てるとは言っても、実際は布を巻いて指先を守るのだ。
だが、篭手で覆ってしまうと、親指を除く四本の指をまとめて覆うことになる。
これでは、繊細な武器運びは出来ないというわけだ。
パワー一辺倒で押す戦士ならいい。
だがレベッカは女戦士だから、パワーでは男の戦士に劣る。その分を、工夫や技で補う。そのためには指先がある程度自由になっている必要があるわけだ。
しばらくして、武具屋の親父さんが持ってきたのは、なんだか可愛らしい色合いのふわふわもこもこした篭手だった。
「こっ、これは一体……!!」
レベッカが目を白黒させる。
あまりに可愛い篭手なので、アリサも興味を惹かれたらしい。
「それ、私も欲しいかも……!」
「こいつはな、桃色猿の腕を丸ごと使った篭手だ。あいつら、この体毛に魅了の魔力を集めて、旅人を誘惑して荷物を奪うんだな。ってことで、この篭手には若干だが魅了の魔法がかかってる」
「へえー! 魅了がかかってて、するとどんなメリットがあるんです?」
ジョージまで首を突っ込んできた。
親父さん、重々しい顔で頷く。
「相手が男やオスならな、たまーに魅了の魔法でちょっと気が緩むんだ。だから攻撃が当たりやすくなる。ただし、こいつをつけてるとオスの魔物を惹きつけるからな。狙われやすくなるという弱点もある」
メリットとデメリットがある防具というわけか。
そのせいか、魔法がかかった防具だというのに、提示された値段はお手頃だった。
俺はレベッカを見る。
「どうする?」
「……ほ、欲しい」
「よし、じゃあ買った!」
「毎度あり!」
手に入れた篭手に頬ずりをするレベッカ。
何だかウットリしている。
まさか魅了の魔法がかかってるんじゃないだろうな……。
「あれはメスの腕だから、女には魅了はかからないはずだがなあ」
親父さんも首を傾げている。
その横で、アリサが、
「レベッカ、私にもすりすりさせて……! 触らないから! レベッカがすりすりさせてくれたらいいから……!」
なんて言って飛び跳ねている。
本当に魅了の効果じゃないんだろうか。




