新たな仲間と祝勝会
アリサが釣り上げた古代魚は、とても上質な皮をしていたらしい。
肉にしろ、骨にしろ、本の情報以外で本物に触れられるという事で、知識神の神殿の人たちのみならず、町の魔術師たち、武具屋に道具屋、鍛冶師までもがわいわいとやって来た。
うわさを聞きつけて商人まで覗きに来ている。
「こんなものが下水道にいるということは、たくさん捕まえればいい商売になりそうですな」
「いや、かなり強いんで危ないと思いますよ」
商売っ気丸出しの商人に、俺はちょっと引きながら答えた。
俺たちはまず、メリルを護衛した規定の料金をもらい、ローン返済分を引かれた金を手に入れた。
後日、古代魚の価値換算などが行なわれて、俺たちの取り分が決定するらしい。
とりあえず今手に入った金だけで、並の革鎧は手に入れられそうだけど。
「あたしはまとまったお金が入るまで待ちたい。だって、ちょっといい鎧欲しいし」
「気持ちは分かるなあ」
レベッカの意見があったので、この報酬でしばらくまったりと過ごす事にした。
メリルが別れ際に、
「皆さんの腕前、よく見させてもらいました。あれならば、迷宮への挑戦権を得られるかもしれません。申請かけておきますね」
と言ったので、アリサは一瞬目を丸くして、おおーっと乙女らしからぬ咆哮と共に拳を突き上げた。
「やった! やったよロッドー! ついに私たち、あの迷宮に潜れる!」
「……かもしれない、だな。だけど、いやあ、ここまで来たなあ」
「迷宮に潜れるのはいいんだけど、何か思い入れがあるの? まあ、僕としては新しい迷宮を探索できるっていうのは大変な魅力なんだけど」
「そうだなあ。それについては、酒場でゆっくりしながら説明する事にしよう」
俺たちは一路、酒場へ向かう。
その前に。
女子たちがお湯を使って下水の臭いを落とすというので、別れたのである。
「いやあ、しかしアリサは本当に色々なことに詳しくて、びっくりしたよ。彼女、色々失敗をしたって聞いたけど、活躍しどころを間違わなければ有能なんじゃないかな」
「そうそう、それだよな」
道すがら、ジョージと話をする。
「世の中、あの圧倒的パワーに騙されて、アリサの本当の良さを知らないんだ。いや、知っているのは俺だけでいいんだが」
「ははは、ロッド、欲望がダダ漏れだねえ。僕はほら、実地の知識ばかりだから、ああいう書籍から得た知識は新鮮でさ」
「ジョージは案外実践派なんだな」
「そうもなるよ。世の中の古い知識はさ、知識神の神殿が牛耳っちゃってるんだ。それというのも、魔術師っていう職業を作り出した魔神様が、よりによって至高神様に反旗を翻して魔王になっちゃったからなんだけど……」
酒場に入り、席を取る。
食べ物は予約しておいて、女子たちが戻ってくる頃に出してもらうようお願いして……。
「お待たせ!」
弾んだアリサの声がした。
振り向いた俺は、多分驚きのあまり、変な声をあげていたのだろう。
周り中の冒険者が俺に注目して、ドッと笑い、すぐ後に指笛を吹いたりして囃し立て始めた。
だって、こんなの驚くなと言う方が無理だ。
アリサは今まで見たことがないような、女の子らしい薄緑色をしたワンピースの衣装に身を包んでいたのだ。
そういう服って、着ようとすると破れてしまうとか言ってなかったっけ。
そう思って、ドヤ顔をしているアリサの斜め上を見たら、レベッカもドヤ顔をしていた。
ああ、なるほど。
同性の仲間が増えるというのはそう言う事なのだ。
レベッカが、アリサに着せてくれたということだ。
「ねえ、どう? どうかな、ロッド」
アリサがくるりと回って見せた。
普段はまとめられている黒髪が、ふんわりと広がる。
石鹸の香りがした。
「う、うん、いいと思うよ。に、似合ってる」
俺はそれだけ搾り出した。
そして内心で自分をこの馬鹿野郎、朴念仁! と罵倒する。
だって、アリサのワンピース姿は、似合ってるなんてものじゃない。まさに反則だって思うくらいの可愛らしさだった。
あんなに腕は細かったんだ。
スカートの裾から見える足は白かったのか。
そして、首筋がとても眩しい。
「いやあ……。素材は絶対にいいと思ってたけど、想像以上だよね……。本当、力の超神様は残酷なことをするよ」
ジョージも、しみじみと呟く。
「ほらロッド、彼女をエスコートしてやりなよ? あいにくと、ここは紳士淑女が集まるパーティの会場じゃなくて、冒険者のむくつけき野郎どもが集まる酒場だけどね!」
レベッカの冗談めかした言い方に、酒場はワッと盛り上がった。
「違えねえ! だけどよ、小汚ねえ冒険者も仲間を祝福する度量くらいはあるぜ! おお捕り物だったらしいじゃねえか、おめでとう!」
「ひよっ子冒険者どもの成功に、乾杯!」
「かんぱーい!」
あちこちで、ジョッキとジョッキが打ち鳴らされる。
たちまち、酒場はお祭りみたいな空気になってしまった。
もうすでに、みんな俺たちが古代魚を釣り上げてきた事を知っているのだ。
「よーし、それじゃあうちのパーティリーダーのロッドが、あんたたちに今日は一杯奢るってさ! 一杯だけだよ! まさか、あたしらひよっ子に集ろうなんて輩はいやしないだろうけどね!」
レベッカの言葉で、また酒場の冒険者たちが受ける。
「全くだ! それじゃあお言葉に甘えて、エールを一番でかいジョッキで頼むわ!」
「俺も!」
「つうかこの店、エールか薄めたワインしかねえからなあ……」
「あーん!? てめえうちの店の酒に文句があるなら飲ませねえぞ!?」
「ええええ、そんな殺生なあ……」
笑い声があちこちで聞こえる。
俺の対面に、アリサが腰掛けた。
ちょっと彼女の笑顔がぎこちない。
俺だってそうだ。見慣れた顔のはずなのに、全く別人の相手をしているようで挙動不審になる。
「二人とも、いつまでも見詰め合ってないでさ」
ジョージが笑いながら、俺の肩を叩いた。
「音頭を取ってくれなきゃ。リーダーの一声がなければ、僕たちはいつまでも食べ始められないだろ?」
「お、おう」
俺は立ち上がった。
そして、
「みんなのお陰で、冒険は成功した! これで、次は例の迷宮に挑戦できるかもしれない。俺たちの探してるものもそこにあると思う」
「もちろん、ついていくよ! あんたたちといると退屈しないみたいだね!」
レベッカがジョッキを掲げる。
「ああ、頼む! 心強いよ。だが、これからの冒険はもっと危険になる。だから気を引き締めていこう! ……というところで……乾杯!」
「乾杯!」
「かんぱい!」
「かんぱーい!」
ジョッキが打ち鳴らされた。
アリサはでかいジョッキを持って、自分から動かずに待機の姿勢。
彼女からジョッキをぶつけられたら、吹き飛んでしまうからな。
俺が彼女のジョッキとジョッキを合わせると、アリサはこちらを上目遣いで見ながら、
「これからもよろしくね、ロッド」
そう囁いた。
「こちらこそ」
俺は言葉を返すと、並々と注がれたエールを飲み干すのだった。
……やっぱり、薄めたぶどう酒の方が好きだなあ……。




