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冒険・下水道探索2

 悲鳴をあげていたレベッカだが、そこはさすが戦士である。

 胸元を隠しながら、大きな斧を片手で拾い上げて、


「うわっ、なにこれ、すっごく斧が軽い! そらっ!」


 斧を振り回すと、スクリーマーたちが当たる端からブロッコリーの輪切りに変わっていく。

 強化されたレベッカの腕力でも、切断まではいかなかった相手だ。

 それが片手持ちの斧で一撃。

 アリサの回復魔法がとてつもない効果を上げたな。

 回復効果ではなくて、筋力増強効果だが。

 結果、あっという間にスクリーマーは蹴散らされてしまった。

 これで十匹。

 ほとんどのノルマを達成した形になる。


「圧倒的じゃないか」


「おいジョージもうやめろ」


 こいつはフラグというのを立てるのが癖なのか。

 俺は軽くツッコミを入れて、この魔術師を黙らせた。

 さて、戦闘が終わってしまえば辺りは静寂に包まれる。

 アリサがなんだか、かわいそうなくらい小さくなって隅っこに立っている。


「ごごご、ごめんなさいぃぃ」


「うん、回復魔法でああなるとか、あたしも想定外だったわ……」


「普通想像できないよね。あれ、なんなんだろう……」


 幸い、俺が用意してきた道具一式の中には布もある。

 これをレベッカの破れた胸元に貼り合わせて、応急処置とする。


「ロッド、見たらひどいよ!」


「ロッド、見ちゃダメだよ!」


「見ないでどうやって修繕するんだよ!?」


 ひどい無茶振りである。

 結局、レベッカが背中を向けて脱いだ服を、俺が縫うということで落ち着いた。

 このメンバーで、一番指先が器用なのが俺なのだ。

 レベッカは暗闇で細かい作業をすることに慣れていないし、アリサは縫い針をつまんで潰すからな。

 完成したレベッカの衣装は、胸元の鎧が欠損してしまっているのを、無理やり太い糸で繋ぎ合わせた形になった。


「新調しないとだねえ……」


「ご、ごめんなさい」


 アリサがひたすら謝っている。

 不可抗力なんだし、仕方がない。

 そういう事になって、先に進もうとなった。

 実際、起こってしまった事は仕方がないが、アリサの回復魔法(?)でレベッカがパワーアップし、スクリーマーに包囲された状況を打破できたのだ。

 結果オーライであろう。


「絶対、あれは知識神様の眷属じゃないよね?」


 下水道の奥へと進む最中、ジョージが俺に囁いてくる。


「やはり分かってしまったか……」


「いや、絶対に分かるから、あれ。治癒の効果はそこそこなのに、レベッカのパワーを増す効果は絶大だった。身体強化の魔法だって、あそこまで劇的なのは珍しいよ」


「体格そのものが変わるからなあ」


「こーらっ、男ども! 何をこそこそ言ってるの!」


 耳がいいらしいレベッカにたしなめられてしまった。

 だが、二人ともアリサのことを、恐れるとか厄介に思うとか、そんなことは無いようだ。これはちょっと嬉しい。

 この日は、奥まで進んであと二匹のスクリーマーと遭遇。

 危なげなくこれを退治して、ノルマ終了となった。

 奴らのブロッコリー部分を持ち込んで、退治の証明をもらう。

 これを換金すると、そこそこなお金になった。

 ただ……。


「革鎧を直すには、ちょっと足りないねえ……」


「ううっ、ご、ごめっ」


「いいさいいさ! そんなに謝んなさんなアリサ!」


 レベッカがアリサの頭をぽふぽふした。


「そうだな。謝り癖がついてきてるから、アリサは直したほうがいい。とりあえず革鎧の分を何とかできればいいんだよな」


 依頼が終わった夜、酒場で反省会である。

 十二匹分の換金で、この四人で三日間くらいはのんびりできる金になった。

 だが、鎧を買おうとなるとこれが半日分になってしまう。

 またすぐに仕事を探さねばならないということだ。

 俺たちはまだ若いから、体力的にも可能だと思うが、スクリーマー退治ですら不覚を取りかけた俺たちである。

 充分な休養を取らずに次の依頼に行って、また事故が起こらないとも限らない。


「うーむ……」


「うーむむむ」


「むむー」


「むむむー」


 四人で唸っていた。


「もういっそ、例の迷宮に挑戦するしか……」


 俺は呟く。

 例の迷宮とは、俺とアリサの初依頼で発見した、地下迷宮である。

 大量の魔力が漏れ出しているようで、迷宮の上に作られた畑では作物が変異し、モンスターのようになってしまっていた。

 今は迷宮から外れた所を畑にしているそうだ。


「だけどさ、あたしたちでどうにかなるようなものかい?」


「行ってみないことには分からないが……既に未帰還者が出てるとか聞くなあ」


「やっぱり、迷宮は一筋縄じゃいかないよね。僕も興味はあるんだけど」


「色々準備して、情報を集めて……やっぱり、迷宮への知識を深めないと危ないね」


 アリサの言葉にみんなが頷いた。

 いつかは挑戦してみたいものだが、それはもう少し先だろう。

 迷宮に挑む冒険者たちはあちこちから集まってきており、町は連日賑わっている。

 そもそも、最初はレベッカとジョージも迷宮の噂を聞きつけてやってきたのだそうだ。

 あまり盛り上がらない様子で、夕飯を食っていた俺たちであるが、突如ジョージが目を見開き立ち上がった。


「こ、これだーっ!!」


「うおわーっ!? どうした!?」


「なんだいいきなり!?」


「ひゃーっ」


 アリサがひっくり返った。

 俺は助け起こしに行く。その背後で、ジョージが依頼を張り出した掲示板へ駆け寄っていく気配がした。


「これ、これだよ! 下水道に謎の水棲生物が出ました、調査のために護衛を募集! これ!」


「へえ、下水に謎の……? あ、ロッド、アリサは大丈夫かい?」


「目を回してるけど大丈夫だろう。そうか、護衛か。調査隊なのかな?」


「それっぽいね。だけど、僕が注目したのはこの依頼のここ!」


 ジョージが指差したのは、報酬の文章だ。

 町の地下での探索みたいなものだから、近場だし報酬は安い。

 だが、水棲生物が複数いた場合、これを進呈すると書いてある。

 うん、進呈……?


「この生き物で鎧を作ってもらえばいいんだよ!!」


「……はあ?」


 レベッカがぽかんとなった。

 俺だってそうだ。

 何を言っているんだこの男は。


「水棲生物目撃情報は、遺跡部分の近く! もしかしたら、遺跡だって拝めるかもしれないぞ!」


「うひー……。あれ、なんだかジョージが興奮してる?」


 アリサが我に返ったようだ。

 大興奮のジョージを見て戸惑っている。


「これはもう止められないね……」


「どことなくアリサに似てるなあ」


「えーっ!」


 アリサが抗議してきた。

 だが、水棲生物とやらがどんなものかは分からないが、一体丸々進呈とは太っ腹である。

 スポンサーは知識神神殿と冒険神神殿。

 新たなモンスターであれば、その情報はそれなりに高く売り買いされる。

 水棲生物の皮や内臓が、加工に適していると知れれば、これもまた高く売れる。

 少々賭けのような要素が強いが、悪くない依頼だ。

 しかし……。


「なんでこの依頼はずっと放置されてきていたんだ?」


「うん。ちょっと前に貼り出されたものみたいだけど……。僕なら喜んで飛びつくのになあ」


「ああ、それはですね」


 声を掛けてきたのは、本日の業務を終了して帰る直前の、冒険神の神官だった。


「実は知識神の神殿でも意見が分かれてるらしくて、貼り出されたかと思うとすぐに剥がしに来たり、しばらく貼られていなかったりして、今日はたまたま残ってるんですよ」


「なんだそりゃ」


「ああ、神殿で今力を持ってるのは、保守派の人たちなの。だから、明らかにそこに新しいものがあるって分からない限りは、無駄なお金をかけて危険なところに行く必要は無いって、そういう……」


「そうなんですよねえ……。私たち冒険神は、冒険こそを尊ぶんですけれど……まあご覧のとおり、各神殿と提携しないとやっていけない万年資金難でして。今回の依頼も、もっぱらお金を出すのは知識神の神殿ですし、向こうのお偉いさんが渋っているのかと」


「なるほど……」


 神殿内での派閥争いみたいなものだろう。

 アリサの父親は、この好奇心旺盛な少女を育てただけあって、割りと革新派らしい。

 だが、主流派が新しいものを好まない保守派なら、さぞや肩身が狭かろう。


「それでまあ、私たち冒険神の神殿も、主だった神官たちは発見された新しい迷宮の調査に管理に大忙しでして。この依頼が決まれば、私が同行することになります」


「えっ!? あなたがですか!?」


 俺もアリサも驚愕だ。

 レベッカは露骨に嫌な顔をして、ジョージはなんとも言えない表情。

 この冒険神の神官は、俺がパーティを立てるときに受付をし、レベッカのパーティ設立を断り……と、冒険者になってこの方、パーティメンバー以外で一番会話している人物だからだ。

 一見して、妙齢の眼鏡を掛けた女性。

 だが、きっと実力はなかなかのものなのだろう。


「あの……もしかして、皆さんこの依頼を受けちゃったりします? 本気です?」


 あっ、行きたくなさそう。

 神官の表情を見て、レベッカがニヤッと笑った。


「もちろん、受けるさ! あたしたちは仕事が必要でね! 明日にでも出発したいくらいだよ!」


 この間の意趣返しか!

 神官の女性がポカーンと口を開けて、次いでがっくり肩を落とした。


「下水かあ……。臭いなかなか落ちないんですよねえ……皆さんみたいに」


 最後の一言で、うちの女性陣はギョッとして、慌てて袖や襟元のにおいを嗅ぎ始める。

 うーん、なかなかいい性格をしておられるようだ。

 さあ、休む間もなく新しい冒険が始まる……そんな予感である。

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