冒険・下水道探索1
「スクリーマーはね、その名前の通り、とてもうるさい鳴き声が特徴なの」
下水を行く、我らが一行。
俺が先頭で、真ん中にアリサとジョージ。しんがりはレベッカ。
下水道は薄暗く見通しが悪いから、後ろからの襲撃も警戒しなくてはならない。
外は快晴だと言うのに、ほのかに寒く、しっとり不快に湿った空気を感じながら、しかしアリサは大変元気だった。
「何ていうのかな。近くで叫び声を聞くと、あらかじめ覚悟しておかないとショックで動けなくなることがあるくらい凄い叫び。彼らは、その叫びで獲物を動けなくしてから捕食するの」
アリサは俺と同じく、この町の生まれだ。
そんなわけで、この町に巣食うもんスターに関しても大変詳しい。
知識神の神官であると同時に、そういう知識を溜め込むことが大好きな娘なのだ。
「見た目はブロッコリーみたいなんだけど、その中くらいに口があって、獲物を放り込むと、消化液でじっくりと溶かして栄養にするのよ。何でも食べるんだって。だから、彼らは下水道の掃除屋とも言われているわ」
「ほおー」
レベッカが何やら間抜けな声をもらした。
ジョージも、知識としてスクリーマーを知ってはいても、実物に関する細かな知識は少ないらしい。
ふむふむと頷きながら聞き入っている様子である。
「アリサ、俺もあいつらとは戦ったことがあるんだけど、どうもいくら斬っても突いても手応えが薄いっていうか。で、気がついたらいつの間にかあいつら倒れてるんだが」
「スクリーマーには痛覚がないって言われてるのよ。だから攻撃しても全然ダメージを受けてないみたいに見えるけれど……って、来た来た!」
アリサが行く先を指差した。
ブロッコリーのような怪物が、のこのことこっちに向かってきている。
いかんいかん、アリサの話に集中し過ぎていた。前衛失格だ。
「よし、じゃあ俺が仕掛ける!」
「ちょい待ち! あたしが一発射掛けるよ!」
言いながら、背負っていた弓を即座に構えたのはレベッカだ。
ジョージとアリサに割り込むように出てきて、矢を番えるなり即座に放つ。
一射目は外れ。
だが、レベッカはすぐにもう一本を番え、弓の位置を修正して放った。
見事に命中。
すると、スクリーマーが『もぎゃああああ』みたいな叫び声をあげた。
「うるせえっ!」
下水道に響き渡る叫び声である。
だが、あらかじめこいつらが叫ぶと分かっていれば問題ない。
矢を受けたスクリーマー目掛けて、踏み込む。
俺は抜き放った短剣で、スクリーマーのブロッコリー頭を何度か切りつけた。
うーむ。
さくさくと硬い繊維を斬り裂く感触はあるんだが、効いてるんだかどうだか分からない。
……と思ったら、スクリーマーは後方に向かって、どどん……! と倒れてしまった。
ぴくぴく痙攣している。
倒したらしい。
「……効いてたのか」
「スクリーマーは痛いっていうのが分からないけれど、別に頑丈なわけじゃないのよ。元々植物が動き回ってるようなものだから、動物に比べてすごく無理をしてるの。だからダメージを受けて繊維がたくさん壊れたり、野菜汁が流れ出しすぎると倒れちゃうのよ」
「なるほど……」
それが、スクリーマー退治が初心者冒険者御用達の依頼になる理由である。
ひとまず、倒した証拠にブロッコリー頭の一部を切り取って袋に入れておく。
「これで一匹だね。依頼は確か、最低十二匹倒してくれって言うものだったから」
「おや、全滅はさせなくていいのかい?」
ジョージの言葉に、レベッカが首をかしげた。
「スクリーマーは下水道をきれいにしているモンスターなの。だから退治しすぎると、下水の悪臭がひどくなったり遺跡の濾過が間に合わなくなって、地下水が汚れたりしちゃうわ。でも増えすぎると地上に出てくるから、こうやって決まった数を退治するの」
「都会ってのは厄介なものなんだねえ」
レベッカが溜め息をついた。
そんなノリで進んでいき、下水の通路であと二匹のスクリーマーを仕留めた。
奴らは動きがのろいので、近づいてくるまえにレベッカが牽制し、俺が速攻で倒す、というコンビネーションがはまる。
矢が思ったよりも消費されているから、報酬は彼女の矢を優先的に補充する為に使おう。
「楽なもんだね。こんなものならこの依頼、楽勝じゃないかい? あたしたち、すぐに凄い冒険者になれるかも」
「うん、まさに僕たちは圧倒的だね」
下水に降りてから全く仕事のないジョージが、そんな事を言った矢先だった。
ちょっと広い空間に出て、スクリーマーの群れと遭遇した。
「……これは物語神が言う、フラグっていうやつだね」
「分かってたらそれっぽいセリフを言うなよジョージ!」
相手の数は、ざっと見渡して五匹。
もちろん、スクリーマーには隊列なんていう概念はないから、わちゃわちゃと一斉に迫ってくる。
「よし、じゃああたしとロッドで前を支えて、抜けてきたスクリーマーはアリサが殴って倒す! これでいいね!」
「完璧な布陣だな」
「完璧じゃないよお!? なんで私がスクリーマーを殴り倒すのが規定事項になってるの!?」
アリサの猛抗議があった。
仕方ない。俺とレベッカで前線を支えよう。
そもそも、アリサは力が強いだけで、身のこなしは素人だからな。神官は体術の訓練もするらしいが、常にそこでは成績が最下位だったらしい。
「溢れてくるやつらは僕が対処するよ。アリサさんは回復魔法をお願い」
「うん、任せて!」
回復魔法があるから安心だな。
……おや。何かを忘れているような気がする。
かくして、我がパーティ初の集団戦が始まった。
俺のスタイルは、相手の攻撃の回避に専念しつつ、隙を見つけて短剣を突きこむものだ。
対するレベッカは、大きな斧を振り回して戦う。こいつは柄の部分を短くできるようで、今は短い状態。刃がやたらと大きく見える。
「蛮神様、力をお借りします!」
レベッカが呟くと、その瞬間、彼女の腕が一回り太くなった。
これで戦士としてのパワーを強めるわけだ。
「おりゃあああ!」
レベッカが切り込む。
斧はスクリーマーの一匹に深く突き刺さり、その動きを止めた。
スクリーマーがもぞもぞ動くが、あれはすぐに戦闘不能になるだろう。
俺は俺で、一匹を相手取ってヒット&アウェイ。
つんつん刺しては退いて、相手の空振りを見た後でまた踏み込んで刺す。
時間はかかるが、スクリーマー程度ならこれで充分。
そら、一匹倒した。
「荒ぶる闘神の一撃、燃える拳よ突き刺され!」
ジョージが魔法を唱える。
魔法も、神官の祈りと基本的には一緒らしい。違うのは、様々な神様の力を借りて魔法と言う形で使用するということだけ。
一つの神様に特化した祈りの方が効果は強いが、魔法の真価はその多様さにある。
これも、魔神が様々な職能神に営業をかけ、力を借りることができるようにしたためだという。
魔法使いはその分、使用した魔法の種類に応じて各神様に寄進をしなければいけない。
ほんの小額でいいらしいが、お金でなければ捧げ物と言う形で、該当する神殿へ食べ物の差し入れをしたりするそうだ。
魔法はお金がかかるのだ。だから多用はできない。
ジョージの魔法は、闘神の眷属を呼び出す。
頭の周囲をそり上げて、てっぺんだけ髪の毛を長く伸ばし、それを長い長い三つ編みにした鍛え抜かれた男の姿の眷属が現れ、『アイヤーッ!!』と叫びながらスクリーマーを殴り飛ばす。
拳は炎に包まれており、これがモンスターを焼き焦がすのだ。
初歩的な炎の魔法らしい。
これでスクリーマーは殴り飛ばされ、どう、と倒れこんだ。
野菜が焼けるいい匂いがする。
「よし、いけそうだな!」
俺が次なるスクリーマーを相手にしたときだ。
「ロッド、後ろ!」
アリサが叫んだ。
何、と思って振り返ると、頭上からスクリーマーが一匹降りてくるところではないか。
頭上に張り付いてやがったのか!
だが、その新手を相手にしようにも、俺の目の前には別のスクリーマーがいる。
これはまずい!
「どきな!」
すると、レベッカが俺を突き飛ばした。
俺はスクリーマーによる挟み撃ちからなんとか逃れたのだが……。
「うぐっ!」
左右からスクリーマーによる体当たりをくらい、レベッカが呻いた。
人間ほどの大きさがある、歩くブロッコリーである。その質量もかなりのものだ。
それに挟み込まれるようにされたのだから、レベッカは少なからぬダメージを受けているはずだ。
俺は立ち上がりざま、片方のスクリーマーに向かって短剣を突き刺した。
「このやろっ、このやろう!」
ざくざく刺すと、そいつはしおしおっとなって崩れ落ちる。
束縛から解放されたレベッカが、膝をついた。
俺は対面のスクリーマーを蹴りながら、レベッカの手を引く。
「アリサ、回復を!」
「うん! 癒しの祈りを……! 知識神様、加護をお与え下さい……!」
『オウケイ』
あっ。
違う、知識神さまだから。あんたじゃないぞ力の超神様!
なんでいきなり、アリサの祈りをショートカットして受け取ってるんだ!?
野太い声とともに、アリサの背後に神々しい輝きが生まれる。
そこに立つのは、オーガーほどの身の丈もある、逆三角形ボディのマッチョマンだ。
彼はズバッとポーズを決めると、溢れ出るばかりのパワー……いや、加護をアリサに注ぎ込む。
すると、彼女から光が放たれ、それがレベッカを包み込んだ。
「あっ……痛みが引いて行くよ……! ありがたい」
レベッカは笑みを見せた。
だが、そこで響き渡る、力の超神の天使たちによる合いの手。
『デカイ! デカイよ!』
『ナイスバルク!』
『ナイスカット!』
「は?」
首をかしげるレベッカだが、そんな彼女の肉体が、実に見事な筋肉美に変化していくではないか。
めりめりっと音がして革鎧が裂けて、その下の肌があらわに……。
「あっ」
「うおっ」
俺とジョージが思わず叫んだ。
そしてレベッカが、己の状況を把握し……。
「きっ、きゃあああああああああ!?」
悲鳴が下水道に響き渡ったのである。




