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新たな仲間と顔合わせ

「ねえ、ちょっとあんたたち!」


 バァーンと音を立ててテーブルが叩かれて、俺とアリサがビクッとする。

 さっき目が合った、金髪革鎧の女の子だ。

 近くで見てみると、アリサよりも頭一つくらい背が高くて、肩幅も広い。

 なるほど、戦士って感じだ。


「あんたたちも二人っきりで、でもパーティなんでしょ?」


「あ、ああ、そうだけど。で、君は誰だ?」


 俺はちょっと気圧されながらも、ここはアリサの目の前だ。格好をつけようとする。

 すると、金髪の彼女はおお、と言う感じの顔をした。


「あー、そっか、忘れてたわ。あたしはレベッカ。北の雪国から来た戦士よ。で、こいつはあたしが途中で拾った魔術師のジョージ」


「ど、どーも。あのさレベッカ、いきなり本題から切り出すのよくないよ。まずは世間話からさ……」


 レベッカと名乗った少女の背後から、ひょこっと気弱そうな少年が現れた。

 二人とも、さっき冒険神のカウンターでパーティ結成を断られていたはずだ。

 それを、神官のお姉さんが俺たちに押し付ける体を取ったわけである。

 冒険神の神官が、向こうでよろしくねー、と手を振っている。

 おのれー。

 俺は、アリサが怖がっているのではないかと心配してちょっと確認してみた。

 すると意外や意外。

 彼女は何やら目をキラキラさせているではないか。


「ねえロッド! これって凄いことだわ。きっと知識神様のおぼしめしに違いないって私は思うの! だってだって、私たちは二人きりで、前衛とか魔法とか足りなかったじゃない? そうやって悩んでいたことを解決できる人たちが、今目の前にいるのよ!」


 あ、これはいかん。


「いやちょっとアリサ、相手の性格とか相性とかな」


「採用です!!」


「うわーっ」


 パーティリーダーは俺なのだが、アリサがぐーっと親指を立てて見せると、金髪の女戦士レベッカは一拍置き、天を仰いで、


「よっしゃー!」


 叫んだ。


「あっ、あ、あの、すみません、どうも大変なことに」


 ジョージという名の魔術師がペコペコ謝ってくる。

 いやいや、こちらこそ。


「で、パーティリーダーはあんたなのかい、知識神の神官さ……」


 レベッカが笑顔でアリサに呼びかけようとして、固まった。

 俺もいやーな予感を感じて視線を向ける。

 最近すっかり見慣れてきた、逆三角形に鍛え上げられたボディの光り輝くマッチョマンが腕組みをしてサムズアップしているではないか。

 ちょうど、ポーズがアリサと一緒だ。


「ええと……武神か何かの神官様かい?」


「ええっ!? 違いますよう! 私は知識神の神官ですぅ」


 アリサが頬を膨らませて抗議をした。

 だが、アレを見て知識神だと思うような人間はおるまい。百歩譲って戦神とか武神、蛮神だろう。


「明らかに蛮神様以上のパワーを感じたけどねえ……」


 そうだ、彼女は蛮神の信者なのだった。

 蛮神というのは、北方や南方で、貨幣によらない文化を築いている部族たちが崇める職能神の一つだ。

 野生を生きるための知恵とか、肉体能力を重んじる神で、あまり文明的に生きるべきではないと信者たちに説いている。

 なるほど、レベッカがパーティリーダーになれなかったのも頷ける。

 冒険神の神殿は幸運神神殿と繋がっているから、貨幣否定派の蛮神とは仲が悪いのだ。


「知識神様! 知識神様ですぅー! 間違っても力の超神様じゃないからねっ」


 むきになって重要ワードを口にしてしまうアリサ。

 だが、これにはレベッカもジョージも、笑顔で返した。


「あっはっは、そりゃあそうだろう? 力の超神様なんて言ったら、それこそ蛮神様より上の雲の上のお方じゃないかい。それが人間についてて、しかも姿までフランクに見せるなんてこと……こと……」


「うん、僕も僕の中の常識が、あれを分析してはいけないって言ってるよ。レベッカ、見なかったことにしよう」


 本能レベルで気づいているな。

 俺は話を切り替えるために声をあげた。


「その話はここまでにしよう。俺がパーティリーダーのロッド。盗賊だ。そして、アリサ。神官だ」


 何の神官かは伏せる。

 そしてレベッカもジョージも突っ込まない。


「そうかい、あんたがリーダーなんだね。よろしく」


 レベッカが手を差し出してきたので、俺も握手を返す。

 女だてらに戦士をやってるだけあって、なかなか凄いパワーだ。

 ただ、肉体の構造からして、女は戦士に向いていない。どれだけ鍛えても、盗賊の男よりちょっと強いくらいの力にしかならない場合がほとんどなのだ。

 そんな訳で、女性で戦士をやる人は、力任せの武器ではなく槍や飛び道具など、非力さを補える武器を使う事が多い。

 その点、レベッカは背中に弓を背負っている。

 だが、なんだか大きな斧も背負っている。あれは男でも持て余しそうなサイズに見えるんだが。


「レベッカは、蛮神の神官としての素養もあるんだ。だから、実戦になると蛮神から力を借りて戦うんだよ」


 ジョージが説明をしてくれた。

 なるほどである。

 そういうジョージは、いかにもインテリという雰囲気のヒョロッとした魔術師だ。

 野性的なレベッカとは真逆だな。


「僕も、それなりに魔法を扱えるから頼りにしてくれると嬉しい。ただね、経験が全然ないから、状況判断なんかは自信がなくてね……」


「ジョージはビビリだからねえ! あっ、ここ座らせてもらうよ!」


 レベッカが勝手に俺の隣に座った。

 アリサがハッとして、ちょっとプクッと膨れる。

 可愛いんだが、ここは堪えて欲しい。

 そしてアリサの隣に、ジョージ。

 彼らも料理を頼んで、とりあえずパーティ結成の乾杯を行う。


「ぷはぁーっ! 都会の酒は洗練されてるねえっ!」


 レベッカがエールを一息で飲み干し、快哉をあげる。


「そ、そんなに一気に飲んだら回っちゃうんじゃないですか?」


「あー、アリサだっけ? 敬語はよしなよ。あたしら仲間じゃあないか! ってことで、あたしも普通に喋るから、あんたも普通に普通に!」


「あっ、はい! 私、その、お酒あんまり強くないから、エールでもぐーっと飲むのはどうかなって」


「あ、それはですね」


 ジョージが首を突っ込んできた。


「レベッカの部族は北国ですから、少量のアルコールを子供の頃から摂取するんです。暖房代わりに。なので、酒にはとても強いんですよ。ただし大体壮年くらいで肝臓壊して亡くなるんですけどね」


「人生太く短くってね! がっはっは!」


「痛い! レベッカ痛いよ!」


 洒落にならない話をしながら、テーブル越しにレベッカがジョージの肩をべしべし叩いている。

 何気に酒が回ってるんじゃないだろうか……と思ったら。


「あっ、落ちるぞジョッキ!」


「あっ!?」


 ジョージのテーブルからジョッキがずるりと落ちかけたのだ。

 俺からは遠いし、レベッカはジョージをぶっ叩いていて、叩かれているジョージも動けない……となると。


「ほっ!」


 アリサが手を伸ばした。

 その小指が、中身のたっぷりはいったジョッキに引っかかる。

 そして一瞬、ジョッキが停止したように見えた。


「へっ!?」


 レベッカが目を丸くする。

 彼女よりも一回り近く小柄な娘が、たっぷりエールのはいったジョッキを小指一本で受け止めたのだ。

 だが油断してはいけない。

 アリサは力のコントロールというやつが、すこぶる苦手なのだ。


「うっ」


 アリサが呻いた。


「いかん、二人とも離れろ」


 俺は素早く飛び下がった。

 だが、レベッカとジョージは間に合わない。


「えっ、どういう……」


「それって……?」


 とか言っている間に、アリサが耐えられなくなった。

 微かに小指が、ビクンと動く。それだけで充分だった。

 金属製のジョッキがひしゃげながら飛び上がった。

 回転しつつ、中身のエールをそこらじゅうにぶちまける。


「おおー……だが、コントロールがちょっとできるようになってるなあ」


 すでに酒場にいる他の冒険者は、アリサの怪力を理解している者が多い。

 みんなエールがかからない距離に移動するか、逆にエールのしぶきを頭から被って笑っている。

 笑えないのは我がパーティ新規メンバーの二人だ。


「なんだい、ありゃあ……。まるで、ジョッキが紙細工みたいに……」


「信じられない……! あんなことって……」


「……どうする? うちはこんな感じなんだが、お前らやっぱり、一緒のパーティになる?」


 俺は親切心から告げた。

 アリサは、あちゃあーという顔をしている。

 笑顔のまま固まっているけど、アレは後で絶対落ち込む顔だ。


「……や、やるわよ。やったろうじゃない!」


「僕は断然興味が湧いてきたよ。まあ、ご覧のとおり、レベッカは挑発されると熱くなるタイプだから」


 なるほど。

 俺はアリサの肩をポン、と叩いた。


「よ、良かったぁ……」


「そもそも、今回は俺たちが雇用する側だからな。ってことで、よろしく頼む」


 改めて、パーティ結成であった。

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