表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の回復魔法で筋力が上がる ~守ってあげたい、怪力神官~  作者: あけちともあき
第二章:エルフを巡る冒険(諸君が想像するようなエルフではない)
17/32

冒険・エルフの遺跡4

 遺跡の奥まった所へと踏み込んでいく。

 そこは、外界とつながっていた今までの遺跡と、全く違う雰囲気の場所だった。

 日に当たらない遺跡の空気は、冷たく淀んでいた。

 だが、ここは違う。

 密閉された空間のはずなのに、なぜだか空気は暖かく、植物のにおいがした。


「ここ……森になってる……!」


 踏み込んだアリサが驚きの声をもらした。

 彼女の言葉通り、足の裏が下草を踏みつけた感触がある。

 そこは薄暗くはなく、不思議なふんわりとした明かりが、どこからともなく差し込んでいる。

 まるで木漏れ日のような光の中、広がっていたのは思っていたよりもずっと広大な空間だ。


「なんで遺跡の中に森が……? アブラゲさん、ここって」


「エルフが古き時代に築いた都市なのだよ。イムを内に得る以前、我らは自然という外なる神と共存し、生きていた。我らの文明はこの世界と一体となり、どこまでも続いていった」


 どこか物悲しげに呟きながら、彼は先を歩いて行く。

 下草を掻き分けて先に先に。

 森だと思えたのは、壁を覆い尽くす蔦のような植物だった。

 それらはどこからか伸びていて、ふと目線でその先を追った俺は、思わずあっと声をあげた。


「なんだ、あれ……」


 蔦を伸ばしていた大本が、そこには存在していた。

 そいつはちょっとした大木なのだが、自然のままの樹木だとは思えない形をしていたのだ。

 言うなれば、まるで人間が木に変わってしまったような。


「ロッド、これ……耳、尖ってる。この木、エルフの人なんだよ」


「おお……!」


 それにしてはちょっと大きすぎる気がするんだけど。


「我らエルフは、人として生きることを選んだ者が都市を捨て、森に篭った。エルフとして文明と運命を共にした者は、こうして都市や自然と一体となり、森を構成する一部となっていった」


 アブラゲさんが木になったエルフに触れると、風が吹き抜けて枝葉がサラサラ音を立てた。


「戻ってくることになるとは思わなかったが……何もかも変わってしまった」

 

 遠い目をする彼を見て、俺はハッとした。


「もしかして、アブラゲさんもこの人たちと同じように……?」


 樹木になったエルフたちは、一体どれだけの時間を生きてきたのだろう。

 彼らには寿命が無いという。

 生きようと思ったら、永遠に生きられるのかもしれない。

 だが、アブラゲさんは永遠の命があるというのに、どこか寂しそうで、欲望のようなものを抱くことを己に禁じている風に見えた。

 死なないということは、辛いことなのかもしれない。

 ならば、何も感じない木になってしまったほうが、心は楽なのか。


「いや……私は彼らのぶんまで、世界を見届けると決めたのだ。まだまだ、街に戻ってくる事はできぬよ。何より私のイムが許さぬ」


 木となってしまったエルフは、何も話すことはない。

 ただ黙って、そこに佇んでいるだけだ。

 ふと、木の根元に絡みついて、何かが挟まっているのが見えた。

 長い年月を経て、すっかりボロボロになってしまっているが、丸くて人の頭ほどの大きさの……。

 そう、アブラゲさんがこの前蹴っていた、玉のようなものだ。

 このエルフも、玉を蹴って遊んでいたんだろうか。

 だとすると、アブラゲさんとも付き合いがあったりしたのだろうか。


「でも、この玉、すっごくよく出来てる……。今、こんなの作ろうと思っても無理だよ。素材もわからないし、どこにも継ぎ目みたいなものが全く無い」


 エルフの文明は、現代よりもずっと進んでいたんだろう。

 それに、この遺跡が都市だとするなら、これは風化して森と一体になっていたわけではなくて、最初から森と一体になるようにできていた……?

 ならば、どうしてエルフの文明は滅びてしまったんだろうか。

 考えてはみても、学がない俺には見当もつかない。

 そもそも、俺たち人間の世界が生まれる前の歴史は失われてしまっていて、多分知識神の一番えらい神官だって過去のことを知らないのだ。


「うむ、これはな。とある木から取れる樹液を繊維を編んで作った鞠を包み込むように覆ってだな……。と、いかんいかん」


 玉の構造についてアリサに講義していたアブラゲさんは、ハッとして立ち上がった。


「私がお主たちと共にやって来た理由があったのだった」


 彼は歩みを進めながら、説明を始める。


「我らエルフは、もはや世界の表舞台から降りた種族だ。緩やかに滅びゆく存在でしかない。だが……」


 目の前にあるのは、先ほどと同じようなエルフが木になったものだった。

 なんとなく伺えるが、木の形のラインが女性的な感じがする。

 アブラゲさんは木の前に立つと頭上の目線をやり……。


「ロッド、木を登ってもらえるかね? ほら、ちょうどあそこに成っている果実が見えるだろう」


「あ、はい。でけえ……」


「ロッドがあれを落とし、アリサが受け止めると良い。アリサ、潰さないようにな」


「はーい! ねえアブラゲさん、あれなんですか? なんですか?」


 アリサがまたも知的好奇心を刺激されたようである。

 ぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「うむ、あれはな……」


 説明が背後で聞こえる中、俺はひょいひょいと木を登っていく。

 うむ、なんだかエロい曲線のある木だから、取り掛かりが多くて登りやすいな。


「ロッドー! あんまりぺたぺた触ったらだめよー!」


「いや、しっかり掴まないと落ちるだろ!?」


 そんな話をしながら登りきると、目の前にちょうどその果実がある。

 色はオレンジ色。

 よくよく見ると、透き通っている。

 ……あれ?

 なんだこれ。中に、人が入ってる……?

 まさかこれって、


「よし、落としてくれ」


「はい! アリサ、しっかりキャッチしてくれよ!」


「どんと来て! ……おかしい。最近私の力持ちなところがうまく使われてるような気が……」


 彼女の呟きはスルーして、俺は果実と木を結ぶ辺りをナイフで切り落とす。

 しっかり手入れしているから、それなりに太い木の枝だって切断できる。

 すると、ポトッと大きな果実が落下していった。

 下でアリサが、手を大きく広げて立っている。

 果実は彼女の二の腕辺りに当たり、ボヨンッと弾んだ。


「おっと、とととと!」


 跳ね上がった果実を、アリサが追いかけてキャッチする。


「あっ」


 おい、なんだ今の あっ って!?

 何か、ぱじゅっと爆ぜた気がする。

 アリサやったな。


「せ、セーフ! 中身は無事だから!!」


 アリサが振り返ると、彼女の黒い髪から白い肌まで、全部オレンジ色に染まっていた。

 果実を抱きとめたときに、潰してしまったのだろう。

 で、そんな彼女の腕の中には、耳の尖った赤ん坊が抱えられている。


「それって……」


「エルフの最も新しい命だ。終わったと思っていた我らにも、生まれ来る命があるのだな」


 アブラゲさんが優しく微笑む。

 そうかー。

 エルフって、果実から生まれるのか。

 いや、人の姿だったら普通に生まれてくるんだろうか?


 ともかく、アブラゲさんの目的はこの赤ん坊を迎えに来ることだったのだ。


「お主たちでなければ、こうして無事にこの子を迎えられなかっただろう」


 赤ん坊を受け取ったアブラゲさん。

 俺たちを選んだのは、まあ、なんというか冒険者に染まりきってなかったからという理由らしい。

 この遺跡を金にしようとか、そう言う発想は出ないもんな。


「……ほう、そうか。ロッド、アリサ、私から……いや、彼女からお主たちへの報酬があるぞ」


「えっ、なんですか?」


「?」


「アリサ、お主のその力、抑える手段があるということだ」


「ええっ!?」


 アブラゲさん、木になってしまったこのエルフから何かメッセージを受け取ったらしい。


「それは、深い迷宮の底にある。先代の魔神が作り上げたという指輪。これがあれば、アリサの力を抑えきる事ができるだろう」


 これは凄い情報だ。

 俺もありさも、一瞬びっくりして何も言えなくなる。

 そして、


「うおおおお! やったあああ!!」


「うわああああああ!!」


 二人で手を取り合って喜ぼうとして、サッと離れる。

 いかんいかん。力が制御できないアリサと手を取り合ったら大惨事である。


「わっ、私、その指輪を手に入れたらまず、一番最初に……ロッドと手をつなぐ!!」


「おう、手をつなごう……!!」


 かくして、意思を固める俺たちなのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ