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彼女の回復魔法で筋力が上がる ~守ってあげたい、怪力神官~  作者: あけちともあき
第二章:エルフを巡る冒険(諸君が想像するようなエルフではない)
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冒険・エルフの遺跡3

 すっかりゴブリンたちの気配が無くなったあと、俺たちは遺跡の奥へと向かった。

 未だに遺跡がみしみし言っているのが大変怖い。

 だが、アブラゲさんが


「私の魔法で木の根を強化しておいた。しばらくは大丈夫であろう」


 と言うので、多分大丈夫だ。

 原因であるアリサは、すっかり知的好奇心全開で、放っておくとすぐに前に行ってしまう。


「まだ何があるか分からないからさ、アリサは下がっててくれ!」


「えっ、でもでも、ゴブリンはいなくなったし、もう大丈夫……わきゃあっ」


 言いながら、彼女は派手に転んだ。

 その足元で、アリサの足によって蹴られて千切れたと見えるロープが跳ねている。

 すると、周囲でけたたましい反響音が響いた。


「うわっ、これは……音を立てて侵入を知らせる罠か」


 多分、ゴブリンが作った罠だろう。

 だが、彼らがいなくなってしまった今、これはただうるさいだけの罠だった。

 それもしばらくすると収まってしまう。


「アリサ」


「ごめんなさあい」


 アリサがしゅんとした。

 彼女の警戒心の無さは、本当に冷や冷やする。天真爛漫と言ってしまえばそれまでだが、何よりも知的好奇心に駆られると、我を忘れてしまうようだ。

 彼女を助け起こそうとすると、


「あの、すがりついたら、こう、骨とか折っちゃいそうだから……」


 という事で、断られた。

 ちょっと寂しい。早くアリサの怪力をどうにかしてやらないとな。

 一息ついて、遺跡の探索を再開する。

 少し行くと曲がり角になっていて、その奥が広い空間になっていた。

 天井のあちこちがひび割れていて、外と繋がっているようだ。太陽の光がうっすらと差し込んできている。

 地面を見ると、石畳が掘り返されて、土がむき出しになっていた。


「これはゴブリン畑だね。ゴブリンの種を植えると、少しして赤ちゃんゴブリンが収穫できるの」


「ゴブリンって、本当に畑からとれるのか……」


「普通に生まれたりもするけど、一度に数を増やす時は畑を使うみたい。もともとゴブリンは妖精だから、人間とは違う増え方をするんだって」


「妖精って言うか野菜だな」


 この間のじゃがいもと言い、ゴブリンと言い、俺たちの冒険は野菜に呪われていたりするんだろうか。


「足元に気をつけるのだぞ。ふむ、ゴブリンはまだ土の中に埋まっているものがいるのか、いないのか」


 アブラゲさんも興味深そうに、足元を見て回っている。

 この穴だらけの広い空間を通り抜けると、彼の目的地らしい。

 俺たちは慎重にゴブリン畑を抜けていく。


「かつて、我らエルフも土から生まれる野菜であったと聞く」


「えっ!? そうなんですか!?」


 アリサが食いついた。


「そんなにびっくりするような話なのか? いや、俺もちょっとびっくりしたけど」


「知識神様が残した文献だと、エルフの人たちに関する記録がすっぽり抜けてるのよ。私たち人間の前に世界を支配していたって言う、オークの記録はちょっぴりあるから、もっぱら神話や歴史を研究する神官は、そっちがメインね」


「そんなものなのか。でも、その頃には人間はいなかったから記録がないとかじゃないのか?」


「いや、過去にもお主たちと同じような人間はいた。もっと原始的な生活をしていたがな。あの時代、我らエルフが世界の支配者だった。我らの文明は世界を覆い、全ての大地は森と共にあった。海にも我らの同胞が住まい、海のエルフたちが海藻の森を泳いでいたのだ」


 アブラゲさんが遠い目をした。


「まるで、その時代を見てきたような……。もしかして、アブラゲさんその頃から生きてたんですか?」


 アリサが尋ねる。

 昨日聞いた、世界が上書きされているという話に繋がっているんだろう。

 アブラゲさんは地面に空いた穴をひょいっと飛び越えると、


「我らの時代には、寿命と言うものが無かった。ゆえに、あの最後の日を生き延びた古きエルフは、死ぬことなく移り変わる時を見つめているのだ」


「ははあ……」


 よく分からない。

 どうとでも取ることができるような答えだ。

 だが、あまり語りたく無さそうな気配を感じたので、俺は黙っておいた。


「我らエルフが野菜であったという証拠は、論よりも如実に見ることができるぞ。さあ、奥の間へ」


 アブラゲさんが立ち止まった。

 そこは、壁だ。


「私は帰ってきたぞ。古き同胞よ」


 彼が言葉を告げると、壁であった場所がぼんやりと光った。

 そこが、ゴゴゴゴゴ、と音を立てて開いていく。

 開いて……あ、とまった。


「ぬっ、壁が歪んで開かぬ」


 アブラゲさんがとても焦った顔をする。

 微妙な隙間しか出来ていなくて、そこからは俺たちの誰も抜けられ無そうだ。

 アリサが辛うじて可能かもしれないが、多分尻がつっかえる。


「ロッド、今すごく失礼な事考えたでしょ」


「滅相も無い」


 俺は誤魔化しておいた。

 だが、壁が歪んで開かないというのは、やはり長い年月を経た遺跡が変形してしまっているせいだろうか。

 いや、多分アリサが遺跡を壊しかけたせいだろう。

 ではそんなアリサに頑張ってもらうほかあるまい。


「よし、アリサ、ゴー!」


「……ロッド、なんだか私の扱いが荒くなってないかなあ……」


 我が幼馴染は、納得がいかなそうな顔をしつつ、半開きの壁に手をかけた。


「ええいっ!」


 可愛らしい掛け声が響く。

 すると、彼女の体が一瞬、眩く輝いた。

 アリサの背中から見守るように、力の超神様の逆三角形ボディが顕現する。


『イエスッ!! ゴー、プッシュ!!』


 何やら力の超神様がポーズを決めながら吼える。


「はいっ! ぐぬぬーっ!」


 アリサの指先が、壁面に食い込んでいく。

 凄い力が加わっているのだ。

 そして、壁は扉のように開かれた……というわけではなく、アリサが握った辺りから無理やり引き剥がされていく。

 おお、謎の素材で出来た分厚い壁が、まるで柔らかい粘土のようだ……。

 無論、遺跡がミシミシ、メリメリと悲鳴をあげている。

 これは遠からず崩れる。


「はやくぅぅぅぅ」


 不思議な掛け声をあげつつ、アリサが壁をこじ開けるクライマックスに突入する。


「普通のっ、女の子にぃっ、なりたぁぁぁいっ!!」


 最後の一声と同時に、バリバリメキメキドカーンッ、と家ひとつ分くらいの壁が引っぺがされて、ついでに天井もはがれて、遺跡に生えていた木が頭上から落っこちてきた。

 同時に、「ゴブゥッ!?」「ゴブブーッ!?」という哀れなゴブリンたちの悲鳴が聞こえる。

 あいつら上に避難していたのか。

 あっ、二、三匹落っこちてきた。

 つまり、遺跡がどうなったかと言うと。

 俺たちの背後あたりが、アリサによってまるごと地面から引き剥がされたようになって、綺麗に青空が見えるようになってしまったのだ。

 ああ、こりゃあもう、この遺跡はおしまいだ。

 アブラゲさん、無意識の内になむなむ言っている。

 すまんな、本当にすまんかった。


「開いたわよ! 行こう!」


 なんだかキラキラした笑顔でアリサが振り返る。

 汗一つかいてない辺り、これでもまだフルパワーじゃないのだろう。

 すっかりフルオープンになってしまった奥の間に、俺たちは繰り出すことになったのである。

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