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彼女の回復魔法で筋力が上がる ~守ってあげたい、怪力神官~  作者: あけちともあき
第二章:エルフを巡る冒険(諸君が想像するようなエルフではない)
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冒険・エルフの遺跡1

 古代植物が群生する場所を抜けると、いきなり世界が拓けた。

 周囲の色彩は、見たことがないくらい深い緑。

 その緑に囲まれながら、遺跡が佇んでいる。

 遠目には、建造物だとわからない。

 というのも、青い色をしたその建物は、木々と同化して半ばまで森に覆われているからだ。


自然(じねん)なるものに抗おうとすれば、自ずと戦いになる。悠久の戦いだ。命あるものが、森という永遠の生命に勝てるはずもない。故、我らは自然とともに生きる道を模索した」


 アブラゲさんが言いながら、遺跡へとまっすぐ向かっていく。

 一体どれくらいの年月が経過した遺跡なんだろうか。

 森と一体化してはいたが、それは洞窟みたいなものではなく、明らかに石造りの神殿に見えた。

 真っ青な神殿。

 木漏れ日に照らされるそれは、とても神秘的な光景だ。


「むふーっ、前人未到の遺跡!!」


 アリサが興奮している。

 腐っても知識神の神官。

 二人がやる気満々で、さて遺跡に急ごう! となっている最中。

 俺は違和感を感じた。

 遺跡までの道が、獣道にしてはしっかりと踏み固められているような。

 動物が遺跡に出入りしていると言えばそれまでだが、無害な草食動物が屋根と壁のある閉鎖空間に入るだろうか。

 どっちかというと、穴ぐらに引っ込むような連中が好みそうな環境じゃないだろうか。

 クマとか。

 そして、クマ以外で動物以外とすると……そりゃあ、モンスターは洞窟やダンジョンが大好物だろう。


「二人とも、待った! 何か怪しい。慎重に行こう」


 俺の一声で、二人の動きがピタリと止まった。

 アリサがハッとした顔で、


「そ、そうだった……!! これって長い間放置されてた遺跡なんだよね? それじゃあ、何があるか分かんないじゃない……!」


「ふむ、私も外の世界の経験は浅い故、思慮が浅かったかも知れん。良かろう。ではロッドに従うとしよう」


 アブラゲさんもしっかりしているように見えて、基本は人里離れたところで暮らしている世間知らずみたいなものなのかもしれない。

 では、ここからはセオリー通りのダンジョン探索と行こう。

 俺は踏み固められた足元の道を、慎重に調べながら前進する。

 小さめの足跡が見える。動物のものじゃない。恐らくゴブリン。それから大きいものも。

 ゴブリンと一緒にいるなら、ホブゴブリンか何かだろう。オーガーほど大きくはない。


「す……進んで……大丈夫……?」


 恐る恐る、と言った風にアリサが尋ねてくる。


「別に小声にならなくてもまだい大丈夫だよ。なんつうか、モンスターが遺跡に入り込んでるみたいだ。多分、ゴブリンとホブゴブリン」


 ゴブリンは、いわばよく出るモンスター。

 正確の捻じ曲がった小鬼で、原始的な武器を使う。

 主に小動物を狩るか、人間の畑から野菜を盗んだり、家畜を奪ったりして暮らしている。

 ホブゴブリンはゴブリンの突然変異で、人間くらいの大きさがあるやつ。

 武器の扱いもゴブリンよりは上手い。


「我らの遺跡に小鬼どもが……。時の流れとは残酷なものである」


 アブラゲさん、なむなむ言うのは後にしよう。

 今は罠が無いかどうかを調べて……と。

 ゆっくり調べながら進んだ所、罠らしきものはなし。

 次に、入り口に取り掛かる。

 入り口にも、それらしきものは見当たらない。

 もっとベテランの盗賊なら手際がいいんだろうが、俺はまだまだ新米盗賊である。

 しっかり調べようと思うと時間がかかってしまう。

 アリサはすっかり緊張の糸が持たなくなったようで、その辺の草をつまんで遊んでいる。

 いや、あれは調べているのか?

 次々に根こそぎ引っこ抜いているように見えるが。

 アブラゲさんは泰然自若としている。そもそも、この人、時間経過とか気にしてるんだろうか。


「あっ、この草なかなか抜けない。うんとこ……しょっ」


 アリサがまた一本掴んで引っこ抜いた。

 いや、それは小さめの木を一本引っこ抜いてるんじゃないのか!?

 メキメキと、周囲の土地を盛り上がらせながら広く深く張られた根が引きずり出されてきて、釣られて周囲の大木まで大きく傾いで行く。


「ゴッ、ゴブゥッ!?」


 上から叫びながら何か落っこちてきた。

 あの緑色の肌をした小さいのは……ゴブリンだ!

 こいつ、俺たちを見張っていたのか?


「ひええっ、ぬ、抜きすぎちゃった」


「抜きすぎはいいからアリサ! 下がれ!」


 俺は腰から短剣を抜きながら走った。

 そろそろアリサのパワーで驚かなくなってきたぞ。

 むしろゴブリンが、ありえない力で木の上から振り落とされてびっくりしている。

 この隙に……!


「おりゃあ!!」


 俺はゴブリンに飛びかかった。

 奴は起き上がる途中で、俺の動きに反応できない。

 短剣が、ゴブリンの胸に突き刺さった。


「ゴブゥーッ!!」


 うぬう、非力な俺では短剣を突き立てられても、骨にぶつかれば奥まで押し込むことが出来ない。

 ゴブリンが痛みのあまりでたらめに暴れだして、拳が俺の腕を打つ。


「ロッド、離れるのだ。……招来……!」


 アブラゲさんの言葉に従い、俺は咄嗟に離れた。短剣はゴブリンに刺さったままだ。

 そこに、緑色の丸いものが飛んできた。

 緑色の丸いものは、ゴブリンの頭にぶつかると、ぼよんとバウンドして戻っていく。

 これをアブラゲさんが脛で受け止め、蹴り上げて膝の上に乗せ、さらに高く蹴り上げた。


「なむ……!」


「ゴブゥーッ!!」


 アブラゲさんの蹴りが、緑色の丸いものを勢い良く蹴り出す。

 それはゴブリンの胸に刺さった短剣にぶつかると、それを強く押し込んだ。

 そして同時に、ばさっと解けてゴブリンを包み込むように広がる。

 あれは……苔だ!

 苔を丸い形にして扱ってたのか。

 胸に短剣を押し込まれたゴブリンは、何か叫びながら白目をむくと、そのまま倒れて苔に覆われていった。

 俺は慌てて駆け寄り、短剣を引き抜く。


「アブラゲさんっ、そ、それなんですかっ」


 アリサは興味津々だ。

 さすがにゴブリンの死体からは目を背けているが、アブラゲさんの使った不思議な技が気になって仕方がない。


「我らエルフは、召喚の魔法を使う。特に、植物を呼び出す魔法だ。これはその一つ。マリモと呼ばれるウミゴケの一種を召喚して、打撃と同時に相手を拘束する魔法になる。安心して欲しい。苔は自然と一体化するから、環境に優しい」


 さすがエルフである。


「ただ、多くのエルフの魔法は相手の生命を奪う力を持たない。戦うということには、我らは向いていないのだ」


「それにしては、マリモを操る足技が凄かった気がしたんですが」


「何、私にも若い頃があったのだ。あの技でプロを目指していた」


「何のプロなんだろう……」


 疑問はともかくとして、これで遺跡の中にはゴブリンがいることが明らかになった。

 慎重に進むにしろ、やはり俺たちの戦闘力不足はどうしようもないな。


「エルフの魔法には、相手を拘束するものが幾つかある。これでやり過ごしながら行くとしよう。危険となれば引き返すもやむなしだ」


「確かにそれが良さそうですね」


「ううーん……私は奥の方まで見てみたいけど……やっぱり厳しいかなあ……」


 アリサがちょっと不満げである。

 だが、彼女もそのパワーで洞窟を一つ破壊した経験があるので、自由に動き回るというわけにはいかない。


「それじゃあ、出来る限り相手は拘束で対処。手に負えなくなったら、すぐに撤退ということで」


「心得た」


「はーい」


 俺は遺跡内部に突入すべく、ランタンに火を灯す。

 やっぱり、戦士がメンバーに欲しいなあと思いながら、遺跡探検行が幕を開けるのだった。

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