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彼女の回復魔法で筋力が上がる ~守ってあげたい、怪力神官~  作者: あけちともあき
第二章:エルフを巡る冒険(諸君が想像するようなエルフではない)
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エルフとの旅路

 食料よし。

 装備よし。

 その他消耗品よし。


 俺は指差し点検をした後で、広げた荷物を背負い袋へと仕舞い込む。

 すぐ横では、アリサが俺の準備風景を興味深そうに見ている。


「アリサは何か持っていかなくていいの? 羊皮紙とかペンとか」


「紙は破けちゃうし、ペンは折れちゃうから……」


「ああ……ごめん。早くその力、なんとかしないとだなあ」


「ううっ、このままでは私、一生文字を書けないかも知れない……!」


 あっ、またアリサがよよよよよ、と嘆き始めた。

 彼女は割りとちょっとしたきっかけで弱気になって、人生の無情を儚むのである。

 ということで、俺は彼女の髪をわしゃわしゃかき回す。


「心配するなって。俺も色々調べてるし、そういう力を弱める魔法の道具の情報があったら教えてくれるようにってあちこちに伝えてるし。それに何より、アブラゲさんが何かしら知ってるかもしれないだろ」


「あ、うん、そ、そうだね……! ごめんロッド、私も、がんばるよ!」


「一緒にがんばろう!」


 俺たちは決意を新たにし……酒場に出てきた。

 すると、どうも酒場の空気がおかしい。

 朝の酒場は、夕べ飲みすぎた町の人や冒険者が、二日酔いでも食べられるような朝食を取っていたり、水を飲みながら突っ伏しているものなんだが。

 それなりに賑わいはあるはずなのだ。

 だが、今朝の酒場は妙に静かだ。

 何かボソボソと言う声ばかりが聞こえ、少しして、ほうーとか、へえー、とかそういうざわめきが漏れてくる。


「なんだろう……」


「もしかして、アブラゲさんが何かしてるのかもしれない……!」


 近づいてみたら、アリサが言うとおりだった。

 何やらアブラゲさんが冒険者たちの中に立ち、彼らから投げかけられる言葉に答えているではないか。

 一人の戦士の男性が、


「最近肩こりがひどくて、冒険で困ってるんだが」


 と言うと、


「お主の内に奢り昂ぶりがあるからである。人に良く見せようとするあまり肩肘を張っている。人の目とは思うほどにお主を見てはいない。もっと肩の力を抜いてよい」


 などと返す。

 確かに、その戦士は最近めきめきと評判を上げてきている売出し中の戦士で、パーティリーダーでもある。

 羽振りもいいみたいだったけれど、ゆっくりする暇も無いくらい、仕事をして、飲み食いして、遊んで、と動き回っていた。

 体がくたびれてしまっていたのだろう。

 戦士はちょっと憮然とした顔をしたが、彼のパーティメンバーがふむふむ、もっともだ、という顔をしたので、えっ、俺ってそうなの!?って顔になった。

 そうすると、周囲の冒険者が、さすがエルフだ。含蓄があるぜ、と感心するのだ。

 このように、アブラゲさんは冒険者たちの相談に一問一答と言う形で答えていく。

 すると、悩み事が解決したらしい冒険者が、彼の前にお金を置いていくのだ。

 別にアブラゲさんが要求しているわけではない。

 だが、俺たち冒険者は、何よりも金銭というものの重みを知っている。

 何よりも簡単にしてもらったことに対する代価にできるのが、お金を支払うという行為だ。

 ということで、とりあえずお金を置いていくのだろう。

 最後には、結構な額が彼の前に積まれていた。


「布施としてちょうだいしよう」


 なむなむ、と言いながら金を懐に入れる。


「おはようございます。エルフもお金は必要なんですね」


 俺が声を掛けると、アブラゲさんはふむ、と頷いた。


「あっても困らぬし、なくてもさして困らぬ。何よりこれが彼らの気持ちであれば、受け取るのもまた礼儀」


「ははあ」


 かくして、アブラゲさんは昨夜俺がおごった分の金額分、俺とアリサに朝飯をおごってくれた。

 本日の朝食は、焼きたての丸パンにスクランブルエッグと葉野菜を挟んだもの。

 こいつをお茶といっしょに食う。追加料金でヨーグルトも買える。

 アリサはヨーグルト大好きなので、自腹で追加購入していた。

 腹ごしらえを済ませると、アリサとアブラゲさんが二人でお祈りを始める。

 一見すると敬虔な聖職者に見えるのだが、神官のほうはお祈りが途中で力の超神様に吸われている気がするし、エルフのほうはそもそも自分の内にいるという神様に祈っている。

 俺もとりあえず、信心は大してないものの、盗賊神なんかに祈っておいた。


 食休みの後、出発。

 アブラゲさんを先頭にして、俺たちが後をついて行く形だ。

 冒険神の神官さんは、


「依頼なら冒険神神殿を通してもらわないと困るんですけどー。えっ、無料なんですか!? いけませんよダンピングは! 後々他の冒険者の方々が依頼が値崩れして困ったりするんですから!」


 なんて俺たちにお説教してきていた。

 この場合、どうなるんだろう。

 エルフの人の依頼も、冒険神神殿を通す必要があるのかな。

 アブラゲさんを見ると、


「なに、彼らは私の友人だ。私が友人に頼みごとをするために、お主の信じる神の許しを得ねばならないということはあるまい」


 と、訥々と説得してきて、神官のお姉さんは説得されてしまっていた。

 そういう話をするのが、神を信じず、自らの内にある神を信じるエルフっていうだけで説得力があるものな。彼らは一人ひとりが歩く宗教みたいな扱いなのかもしれない。


「さて、お主らの使っている道とは、違った道を使う。荷物はアリサに任せておくのが良かろう」


 言いながら、彼は俺たちがいうところの獣道に入っていく。


「いや、女の子に荷物持ちなんかさせられないですよ」


「お主の仕事を果たせるよう、役割は分担すべきだ。ロッド、重い荷物を抱えたままで、盗賊としての職務を果たせるか?」


「うっ」


「大丈夫だよロッド! それに私なら重い荷物持ってても、頭を使う分には問題ないからね。貸して!」


 アリサは俺の背負い袋を受け取ると、ひょいっと背中のリュックに重ねてしまった。

 それを、アブラゲさんが器用に紐で固定する。

 まるで手ぶらであるかのような軽やかな動きで立ち上がるアリサ。


「よし、行こう!」


 歩き出したら、早速荷物が枝に引っ掛かった。しかしアリサが一歩踏み出すと、枝の方がメキメキ言って折れた。

 恐るべきパワー。

 先導するアブラゲさんに、周囲を警戒する俺、最後尾にアリサ。

 本来なら神官は真ん中に入れて守るのだが、アリサが前にいると荷物で前が見えなくなるからな。

 ちょこちょこ、彼女のことを確認しながら進む事にする。


「アリサ、大丈夫か? 疲れてないか?」


「うん、大丈夫ー。ロッドも喉渇いてない? アブラゲさん、水のみますかー」


「いただこう」


 獣道をひたすら進んでいくのだが、俺たちの間にはこんなのんきな雰囲気が漂っている。

 そもそも、こういう獣道に慣れているエルフと、探索が主な仕事の盗賊、どんな悪路でもパワーで踏破しそうなアリサの三名だ。

 思ったよりも、旅路は快適だった。

 そろそろ日暮れと言うところで、俺はちょっと開けた場所を見つけた。


「この辺り、ちょうど良さそうですよ。今日はここで休みませんか?」


「うむ。私は夜通しでも歩けるが、お主たちには休息が必要だろう。それに、ここは目印にもなる」


 言いながら、アブラゲさんは開けた場所に進み出た。

 彼は、地に落ちた枯れ木が盛り上がっている場所に行くと、その辺を手でパッパと払った。

 すると、そこからなにやらぬぼーっとした彫像が姿を現す。

 なんだろう。

 旅神の彫像とはまた違う作りで、もっと飾り気がない、だけど優しい雰囲気の像だ。

 アリサはそれを見て、ハッとしたようだった。

 すぐに荷物をドシンと降ろして、周囲を見回しながら開けた場所を歩き回る。

 そして、


「ロッド、ここ。この真ん中辺りから、植生が変わってる。全然違う植物が生えてきてる……!」


「? それって、何かおかしいのか?」


「うん、おかしいことなのよ。ふつう、気候が同じで、しかも同じ森の中なら、生えている植物の種類はもっとゆっくり変化していくものなの。だけど、まるでここから先は全く別の土地になってるみたい。全然生えている植物が違う。一言で言うなら、古い植物(・・・・)が生えてる……」


「そう」


 アブラゲさんは頷いた。


「これが、我らの文明の残滓だ。古き時代が、新しき時代に塗りつぶされた時、残された塗り残しの場所……。だが、これではまだ分かりづらかろう。じきにロッドも分かる光景が出てくるだろう。今はここで、旅の疲れを癒すとしよう」


 そこまで細かい植物の知識が無い俺には、見覚えの無い草が生えているな、程度の印象なのだ。

 俺が気をつけるのは、未知の植物を口にしないようにすることだけだ。

 何に毒があるか分からないからな。


 木々の間に雨よけの天幕を張り、布を敷く。

 森の中は、草木に邪魔されてか風が少なく、本格的なテントを張らなくても快適だった。

 一仕事終えて水を飲んでいると、アリサがワクワクした様子で近くにやってきた。


「ロッド、なんだか私、すごく楽しみになってきちゃった。アブラゲさんが言ってる、遺跡が上書きされきってない昔の世界だって言う話、本当だって思えて来たんだもの。もうね、今から明日が楽しみ……!」


「そうかそうか。なんか、アリサのテンションが高くなってるの久しぶりに見るな。あ、分かった、だから鍋を掴んでギュッとやらないでくれ。ほら、みしみし言ってるから」


「あっ、ご、ごめんなさい! 指のあと付いちゃった……!」


 歪んだ鍋であったが、出来上がった夕食の味は悪くなかったと付け加えておく。

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