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彼女の回復魔法で筋力が上がる ~守ってあげたい、怪力神官~  作者: あけちともあき
第二章:エルフを巡る冒険(諸君が想像するようなエルフではない)
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エルフからの依頼

 本日のお使いの報酬を確認する。

 朝イチから動き出して、荷車を使って二往復。

 途中休憩を一回やって、そこから三往復。

 日暮れ寸前まで働いたから、それなりにいい金になった。

 薬草取りや害獣退治よりは随分ましだ。

 二割ほどを冒険者ローンで差し引かれるから……。


「ロッド、どう?」


「ああ。これだけあれば、一週間は暮らせるな」


「すごーい」


 二人で一週間分だから、悪くない儲けだ。

 少なくとも、命の危険が無い依頼だと、ここまでが限界じゃないだろうか。

 この手の依頼は、冒険者ではない一般的な日雇い労働者と被るから、あまり歓迎はされない。

 冒険者はそれらしく、危険のある依頼をすべし。

 分かってはいる。分かっちゃいるんだが……。一つは人数的な問題で、受けられる依頼が限られること。もう一つは、例え仲間を増やしたとしても、アリサの現状に引いたり、良からぬ事に使おうと企む人間ではないこと。

 これらが大事なのだ。

 で、そういう問題を解決する上で、望めるならば前衛……戦士がほしい。

 でも、信用できる戦士となると……口が固くて……ううん……。


「ロッド、どうしたの、調子悪い?」


「いや、ちょっと考え事してて……」


「お腹がすいてると、いい考えも浮かばないと思うわ。まずはご飯食べよう?」


「それもそうだな」


 当座生活できるだけの金が手に入ったのだから、考える時間はたっぷり取れる。

 まずは腹ごしらえをして、落ち着こう。

 二人で席についたら、当たり前のようにエルフの人……アブラゲさんが横に座ってきた。


「わあっ」


 俺は大変驚いた。


「全然気配がなくてびっくりした……!」


「私が存在を(くう)にしていたからだろう。雑念あらば、そこに人ありと伝えることになる。だが、人は吹きすさぶ風や、あるいは流れる水の中にそうではないものがあったとしても、意識せねば気付けまい。空となることは、即ち天然自然(じねん)と心を一にすることなり」


 なむー、と言うエルフ。

 深いんだか意味が分からないんだか。


「アブラゲさんもご飯ですか?」


 アリサの問いかけに、エルフは頷いた。


「明日を生きるため、今日の糧を所望する」


 そしてじっとしているのだ。

 むむ?


「あの、女給さん呼ばないと注文できないですよ? あと、気になったんですけれどお金持っているんですか?」


 すると彼は、俺とアリサに向かってニッコリ微笑んだ。

 あっ、この人無一文だな!

 そりゃあそうか。野で暮らして、ふだん町にはやってこないエルフが、金を持っているはずが無いもんな。


「仕方ない、俺が出しますから」


「お主の慈悲に感謝を。必ずや、この恩義は返そう」


「はいはい。あ、すみません女給さん! ええと、このディナーセットの、はい。ノービス冒険者コースで、三人前」


 ディナーセットは、この宿の日替わり夕食だ。

 ノービス冒険者コース、冒険者コース、ベテラン冒険者コース、英雄コースの四段階があって、段々メニュー内容が豪勢に、そして価格も豪勢になる。

 俺が頼んだのは一番安いコース。

 これでも、パンとサラダ、スープに肉料理がつく。

 上のコースになると、そこにデザートがついて、次に二品目の肉料理がついて、最後に飲み放題がつく。

 一番安いとは言っても、それなりにいいお値段がする。

 今日は報酬を貰ったばかりだから、大盤振る舞いというやつ。


 少し待つと料理がやってきた。

 コース料理にお行儀良く順番に来る……なんてわけはなく、全部一度に来る。

 しかも人数分の料理が盛られた大皿だ。

 ここからスープ以外は取り分けて食べる。


「今日の糧に感謝を。なむなむ」


「知識神様、今日も糧を得られた事を感謝いたします」


 アブラゲさんとアリサが祈っている。

 アリサの背後で、光り輝くマッチョがすごい笑顔でサムズアップしてるから、アリサの祈りは絶対知識神様まで届いてない。


「それで、なんでまた俺たちのところに来たんです?」


 食事をしながらの会話だ。

 アブラゲさんは、ナイフでもフォークでもない、二本の棒を使って器用に食事を進めている。

 あれは自分用の食事道具なんだろう。


「お主たちに会えたことは、星の導きであろう。私はある悲願を得て旅をしてきた。旅の果てに出会ったが、大いなる神を宿した娘とその友である少年。なれば、我が悲願の伴として誘うが必定」


 大いなる神を宿した……の辺りで、アリサが動揺してフォークを落とした。

 そのままブルブル震えながら引きつった笑顔をエルフに向ける。


「……あ、あ、アブラゲさん、なんで、神様とか分かるんですか」


「私もまた、内なる神、イムを宿した覚者。望む、望まぬに関わらず、神なるものに導かれしものを知ることができるのだよ」


 ははあ、エルフが内に神を宿すというのは、正確にはイムという概念が自分の中にあるってことなのだろうか。

 それとも一人ひとりが、イムっていう神様を宿してるんだろうか。


「何、広言するものでもない。気にすること無く今はこの糧をありがたくいただこう」


 なむなむ言いながら、アブラゲさんは食事を再開した。

 さて、何やら彼は、俺たちに手伝ってほしいことがあるみたいだ。

 それも、相手は誰でもいいってわけじゃなく、俺たちがいいとか。


「どうする?」


 俺が尋ねると、まだ動揺から回復しきっていないアリサは、震えるフォークでレタスと格闘しているところだった。

 ただでさえ彼女のフォークは特別製の太いやつである。

 お皿は金属製だし、カキンカキン大変うるさい。

 アリサに関しては、宗教上の理由から金属製の丈夫な食器を用意してもらうよう、酒場にはお願いしてある。

 だから怪しまれてはいないはずだ。

 多分。


「うううっ……まあ、私たちを頼りにしてくれるなら、手伝ってあげたいよね」


「だよな。アリサならそう言うと思った」


「正直、手元のお金とかは心もとないけど、終わったらすぐ別のお仕事すればいいもんね。エルフの人がしてくるお願いって、私とっても興味があるから。知識神の侍祭として。知識神の!」


 うん、そうだな。

 力の超神様は無理やりアリサにくっついてるようなもんだからな。

 彼女の個人的興味として、エルフが直々にお願いしてくるなら答えてあげたいのだろう。

 それに、もともとアリサは心優しい子だ。

 俺としては、可能な限りアリサの意思を尊重したい。


「じゃあ、よっぽど危ないことじゃなければ、お手伝いしますよアブラゲさん」


「おお!」


 エルフ氏は嬉しそうに目を細めた。


「ありがたやありがたや。これも星の導き。内なるイムの導きなり」


 なむなむ言い始めた。

 食事が終わり、アブラゲさんは野宿すると言うので、彼曰く一夜の宿りまで送りがてら、明日からの旅の話を聞いてみる。


「この地は、まさに地の果て。辺境なる大地ゆえ、古き世界が上書きされきることなく残っている。私が求むるは、我らが祖が築きし古き時代の跡なのだよ」


「遺跡ですか」


「お主たちはそう呼ぶものだ。我らにとっては、遥かな過去の栄光を示す、夢の残滓」


 そう言うと、エルフは遠い目をした。

 もしや、この人はこの命のまま、ずっと昔にあるエルフが栄えていた時代から生き永らえてきているのでは無いだろうか。

 ふと、そんな感慨を抱いた。

 それはアリサも同じだったようだ。


「里帰りみたいなものなんですね。うん、分かりました! 私、手伝います!」


「私たち、だろ?」


「そうだった……! 私とロッドで、アブラゲさんをお手伝いしますね!」


 すると、エルフは優しく微笑んだ。


「良き人の子らよ。今という時代を生きるお主らの慈悲に感謝を」


 彼は懐から、小さな水晶を紐で束ねた、大きめの腕輪を取り出してじゃらりと鳴らした。

 途端、行き交う人たちの声で、まだまだ喧騒に満ちていたはずの町が、しんと静かになる。

 エルフを中心に、俺とアリサの時間が、まるで町から切り離されてしまったみたいだった。

 周囲は時間が止まったように動かず、俺たちは驚いて辺りを見回す。


「星が導こう」


 アブラゲさんは天を指差した。

 見上げた空は……俺たちが知らない星空だった。

 これは、一体なんだろう。


「ロッド、これって……。アブラゲさんたちエルフがいたころの空なのかな……」


 それは、今よりもずっと、明るい星空だった。

 星が瞬くのは、紫紺の闇ではない。どこか緑の輝きを宿した、薄明い幻想的な空だった。

 見とれていた。

 それは、多分ほんのすこしの間だったのだろう。

 再び、じゃらりと音がして、ハッと俺たちは我に返った。

 周囲の喧騒が戻ってくる。


「良き夜を、ロッド、アリサ」


 そう言いながら、アブラゲさんは町外れの、木々の間に消えていったのだった。

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