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彼女の回復魔法で筋力が上がる ~守ってあげたい、怪力神官~  作者: あけちともあき
第二章:エルフを巡る冒険(諸君が想像するようなエルフではない)
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覚者(エルフ)来たりて

 小さな依頼をコツコツこなす。

 今日は、俺とアリサで町の入口の資材運びだ。

 荷馬を使って、柱やら天蓋やらの材料を、材木の切り出し場から運んでくるのだが、これまた地味な仕事である。


「ほいっ、ほいっ!」


 掛け声とともに、荷馬ごと材木の山を引っ張っていくのは……そう。アリサだ。

 馬は引っ張られるままに、大人しくしている。

 その背後には、荷車に積まれた一抱え以上ある材木の小山。

 人目が無いところまでは、アリサが自分で引っ張ると聞かなかったのだ。

 何故なら……アリサが引っ張ったほうが速い。徒歩とほぼ変わらないほどの速度で、この恐るべき重さの資材を運んでいく。本人の顔を見ていると、別に無理している風もない。

 再会したばかりのころは、自分の怪力を恥じていたところがあったように思うのだが、この間の冒険を経て、人目が無いところなら堂々と力を使うようになった気がする。


「だって、ロッドばかりに頼ってたら悪いもの! 私だって、できること精一杯するわ!」


 とか。

 俺は別に、アリサに尽くしていたわけでも無いと思うんだが、彼女が前向きになりつつあるならそれはそれでいいかと思う。


「アリサ、そろそろ次の荷馬当番とすれ違うぞ」


「うん、じゃあ、ここからはお馬さんよろしくね」


 アリサの言葉に、馬がぶるるっと頷いたように見えた。

 彼女は手にしていた極太の荒縄をくるくるっとまとめると、荷馬に掛けに戻り……。

 そこでピタッと硬直した。


「? ……どうした、アリサ?」


「あ、あ、あの、ずーっとそこに……?」


「誰かいるのか?」


 俺が固まっている彼女の肩口からひょいっと覗き込むと、そこには。

 道端には時折、旅神をかたどった石の彫像が置かれていることがある。

 旅人の平和を祈り、全ての旅人を守護する職能神で、他の神の敬虔な信者もこの神様だけは別腹で信仰する、ということがよくある。

 神様な基本的に寛容で、複数の神を同時に信じていても問題ない。これは神殿側も同じ立場だ。

 で、そこには旅神の彫像があったのだが。

 二つある。

 ……いや、あの旅神によく似ているもの、あれは人間か……?


「なむなむ」


「生きてる!!」


 俺もひどく驚いた。

 そこにいた人物は、灰色のダブっとした衣装を揺らめかせながら立ち上がると、手と手を合わせて俺たちに一礼した。

 髪の毛はきれいに剃り上げられており、それゆえに大きく特徴的な耳が目立つ。

 耳の先端が尖っている。


「エルフか……! 初めて見た……!」


「違うよ、ロッド……! あの人!」


 アリサは、失礼と分かっていても指ささずにいられなかったのだろう。

 震える指先が示すのは、おお……! 耳たぶがとても長い!!


覚者ハイエルフだよ……!! この百年の間、森から姿を表さなかったっていう、先々代の世界の支配者……!」


 ハイエルフ。

 俺も、物語みたいな形で聞いたことがある。

 今の世界の前には、オークと呼ばれる人々の世界があり、その前に、エルフたちの世界があったのだという。

 エルフは、神に頼らず、自らの内に神を持ち、哲学に優れた種族であったと聞く。

 現代に残っている、たくさんの文学や数学、魔法の数々は、彼らが作り出したものらしい。

 そんなエルフたちの頂点に立つのがハイエルフ。


「遺跡が見つかったと聞きましてな。人間が暮らす町まで案内してくださらんか」


 彼は、とても渋い声でそう言った。


「は、はいっ」


 アリサが何だかガチガチになって返事する。

 そして恐る恐る、


「あ、あのう……私が荷車を引っ張ってたの見てました……?」


「うむ……全ては内なる神のおぼしめしであろう。馬を(おもんばか)り、自ら荷を引くおぬしには、高い徳を感じる」


 アリサに向かって手を合わせて、なむなむ言いながら拝んだ。

 良かった。変な人だ。

 アリサの怪力など気にしてもいないらしい。


「じゃあ、一緒に行きましょうか。荷車乗ります?」


「自らの足で、新たなる大地を踏みしめて歩くこともまた生の道なり。歩くことにしよう」


「は、はあ」


 ハイエルフは俺たちと並んで歩き出した。

 隣に突き出した荷馬の鼻を、無造作に撫でている。

 馬は馬で、このハイエルフがただならぬ者だと感じるのか、大人しくされるがままになっている。


「徳が高いものには、獣であっても自然と従うものなのだ。ゆえ、人間の娘御にもこの獣は従っておろう」


 あれは自分以上の怪力っぷりをみて、自分より上のヒエラルキーだと思って従ってるだけじゃないだろうか。


「我が身は五体満足である。足は二つあり、大地を踏みしめられる。ならば、自らの足で進むが正道なり。これまた、徳へ続く道」


「ははあ」


「ロッド、だめだよ。すごく含蓄っていうのが深い言い方をしてるんだよ、たぶん」


「アリサもよく分かってないんだろ?」


「ええーっ、そ、そ、そんなことないよう! 私は知識神の神官だから、むつかしいことだって分かる……わか、分かる……と思う」


 俺は生暖かい目で幼馴染を見た。

 さて、奇妙な同行者を連れて、トコトコと二時間ばかり町への道のりを歩く。

 そこには、新たな迷宮の発見とともに、徐々に大きくなっていっている町の姿がある。

 町を大きくする建材も必要だし、何より、今のままでは町の入口がいかにも貧相だ。

 町を囲む大きな壁を作り、門を作るというのがこれからの町の拡大計画だった。


「おお、ご苦労さん! こりゃまたたくさん運んできたなあ。荷馬もくたびれてるだろ。休ませてやってくれ! 今日はこれでいいよ、お疲れ!」


 出迎えてくれたのは、門を担当する大工の棟梁だ。


「はい、それで、これはどこに置いたら……」


「ああ、こっちにだな……って、なんだ、あんた何してるんだ!?」


 大工の棟梁が目を丸くしている。

 俺はちょっと嫌な予感がして横に目をやると、いつの間にか、建てられたばかりの柱のてっぺんに覚者ハイエルフがいる。

 遠い目をして何か、なむなむと拝んでいる。


「あっ、すみません。あの人エルフで、そこで出会ったもんで」


「なに!? エルフなのか!? そ、そう言われりゃ耳が長いような……うわっ、耳たぶでか!!」


「ハイエルフなんですよ!」


「ひゃーっ、おとぎ話でしか聞いたことが無いぜ……!!」


 棟梁と三人並んで、柱の上のハイエルフを眺める。


「……とと、こんなことしてる場合じゃねえ! あのエルフの旦那、下におろしてくれよ! それで、こいつはあっちまで運んでくれりゃ、若い衆が積み上げてくれるからな」


「はい、わかりました。じゃあ、アリサあっちまで馬を連れてってくれ。俺はハイエルフの人をおろしてくる」


「はーい」


 ということで、俺は柱をよじ登り、ハイエルフに声をかけた。


「すみません、これ建材なんで、上に乗ってられると困るそうなんで……」


「善哉善哉。かくして、人間の文明は広がっていくのだな……。良いものを見せてもらった」


 なむなむ、と拝む。

 あのなむなむは何なんだ。

 エルフはあっさりと俺の言葉を受け入れると、ひょいひょいと軽い足取りでほぼ垂直の柱を降りていく。

 一流の盗賊なみの身のこなしだ。

 ただなむなむ言ってるだけの変な人じゃないんだなあ。


「私の名は、ゴズマルク・ジャワヒッド・アブラーアゲ。アブラゲと呼ぶとよい」


「あ、そうでしたか。ハイエルフって種族の名前ですもんね。俺、ロッドで、あっちは」


「アリサ、だな。知を求める心を持つ、良き人間の娘だ。更なる高き徳を積むことであろう。なむなむ。ロッド、お主はかの娘を助けてやるがよい。お主は支えとなることができる者だ」


「はあ、どうも」


 なんだか難しいことを言う人だ。

 実は変な人じゃなくて、頭がすごくいいのか、このアブラゲって人は。


「とりあえず、宿に戻るんで……一緒に来ます?」


「同道しよう」


 そういうことになった。

 かくして、俺たちとこの風変わりなエルフとの生活が始まった。

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