再会は冒険のあとで
朝になって、農場の人たちが出てきてみたら、辺りが一面の茹でじゃがいもで覆われていたのだからびっくりしたことだろう。
しかも、土地は隆起してボコボコだ。
温泉が湧き出していて、アリサが殴った辺りに溜まって湯気を吐き出している。
「何があったのか、さっぱり分からない……」
役人さんが頭を抱えた。
アリサに宿っている力の超神の話は、とりあえず伏せておく。
そういう話が国に知られたら、なんだか面倒な事になりそうではないか。
すると、俺とアリサが幼い頃に交わした約束から、凄まじい勢いで遠ざかってしまうに違いない。
なので知らんぷり。
ユーリカさんはキラーポテトの体当たりで目を回していて、何が起こったのか見ていない。
知っているのは俺とアリサの二人きり。
アリサ! しゃきっとしてくれ、目が泳いでるぞ!
「う、うううっ、罪悪感だよう……!!」
「俺たちの未来のためにも、秘密にしておこう……!」
「うっ、うん、未来のためだもんね。冒険者ローンも、早く返さなきゃだし」
「そうだ。だから、アリサのことが表に知れ渡ったらローン返済どころじゃなくなるからな。これは、俺とアリサだけの秘密だ」
「うん、二人っきりの秘密だね? ふふふ」
アリサの機嫌が良くなった。
よしよし。
「おう、お前たちも無事だったのか! いやあ……油断したぜ……」
茹でじゃがいもたちを検分していたらしい、ベテランパーティの盗賊がやって来た。
彼はキラーポテトの襲撃で、ソラニン毒にやられていたらしいが、冒険神神官によって解毒してもらったらしい。
今回、犠牲者はゼロということになる。
ベテランは、キラーポテトという未知の敵に苦戦はしていたものの、徐々に性質を掴んで戦い続けていたようだ。
押し寄せるキラーポテトをやっつけているうちに、いきなりポテトたちが一方向へと流れ出していき、その後噴出したお湯で、キラーポテトは全て茹でじゃがいもになってしまった。
この事件の奇妙な終わり方に、彼らは興味を持っているようだ。
「だがまあ、一つ一つのキラーポテトだったか? あいつら、大したことは無いんだ。不意討ちされなきゃ、そうそう負けない。問題なのは、こいつらが発生した原因になる。ユーリカはそいつを調べに行ってるんだがな」
確かに、ユーリカさんの姿がない。
「キラーポテトが生まれたんじゃないかって所の地中は見ただろ?」
「はい。なんか、人工っぽい石畳みたいなのがありましたけど」
「ありゃな、多分、迷宮の天蓋だ。この農場の一部が、迷宮の上に被さってしまっているんだろうな。で、迷宮から漏れ出た何かが、じゃがいもを変質させてキラーポテトに変えたんじゃ無いかと俺たちは睨んでる。近々、国から迷宮探索の依頼が出るだろうよ」
「大事になってきましたね……!」
「ああ。それもこれからどんどん話がでかくなるぞ。国からの依頼があると知れれば、あちこちから耳聡い冒険者たちが集まってくるだろ。もし、誰も入ったことが無い迷宮なら、未知の財宝なんかも期待できる。依頼を達成できず、途中で帰ったとしても相応の儲けになるし、そういう迷宮からの持ち出しをあてこんだ、買い取り専門の商人たちや、冒険者の必需品を売る流れの商人たちだってやってくる。あの町はでかくなるぞ」
なるほど、新しい迷宮が見つかるというのは、町に一大産業ができあがるようなものなのだ。
これは、俺とアリサも積極的に迷宮に入って、ひと稼ぎできるかもしれない。
「おっと、今、自分も迷宮に入って……って顔をしたな? ダメだダメ。お前たちじゃ未熟すぎて、迷宮に入らせてもらえねえよ。そもそも人数が全然足りないだろう。せめて四人……いや、五人はいないとな。それで、あと二年か三年、地道な仕事をして経験を積んで、装備を整えて……それでやっと挑めるもんなんだよ、迷宮ってのは」
「ぐぬぬ……き、厳しい。でも、俺はこの前のパーティの時は洞窟に……」
「天然洞窟で、あまり深さが無い場合はひよっこの冒険者を連れて行くこともあるな。それに、その時は周りがベテランだっただろ?」
「は、はい……」
がっかりだ。
迷宮は見つかったが、これから始まる迷宮探索の盛り上がりに、俺とアリサは参加できないらしい。
いや、ダメだって言われてもやってやるが。
「ロッド、元気出して! ちっちゃなお仕事でも、誰かがやらなきゃダメなんだし、コツコツやって行こう?」
アリサの慰めを聞いて、燃え上がりかけていた負けん気がしおしおっと萎れた気がした。
そうだなあ。
俺一人の事情じゃなくて、アリサのこともあるんだものなあ。
そんな訳で、俺たちは一日分の日当をもらって帰ることになった。
依頼も、役人さんが言うには成功という扱いになり、規定の報酬が冒険神のカウンターに振り込まれるらしい。
俺たちが町に戻った翌日には、ローンの返済分を差し引いたお金を受け取れる。
ここは、ガタゴトと揺られる乗り合い馬車の中。
客は、俺とアリサの二人きり。
ベテランパーティは、現地に残って迷宮の入り口を調べるらしい。
どうやら、温泉が噴出した辺りも熱湯の出る罠か何かがあったのではないかという、盗賊の見立てだったが……。
まあ、今となってはどうでもいいか。
「なんか、一日だけだったけど疲れたねえ……」
「何気に命の危険があったからなあ。しばらくじゃがいもは、見るだけでもたくさんだよ」
「あはは、私も。でも、じゃがいも食べないと安い食べ物が少なくなっちゃうから食べないとね」
「そうだなあ……。戻ったら、山盛りのマッシュポテトでも食うか……!」
「賛成!」
まずはゆっくりして、広い風呂にでも入って、それで美味いものを食って……。
そう言えば、アリサとの再会祝いは、中途半端で終わってたな。
改めて祝い直しをして……。
今後のことを考えていたというのに、昨夜の疲れと馬車の揺れとで、俺は眠気に包まれていくのを感じていた。
「これから、よろしくね、ロッド」
眠りに落ちる前に、アリサの声が聞こえた気がした。
第一章・終わり




