お友達になりたい
エリシアは辺りをきょろきょろ見回しながら、狭い通路を進んでいた。
…薄暗いし、狭いし、ドラゴンの姿に戻った方が早く動けるけど、ここでドラゴンに戻ったら突っかかっちゃそう。
勢いでジルたちとは別の道に来ちゃったけど…他のみんなは大丈夫かな…?
みんなが強いのは知ってるけど、神様だって相当強いから油断はできないよね。
そんなふうに考えていた時、すぐ後ろから突然声をかけられた。
「エリシアさん」
「ひゃあっ!?」
ビクッと後ろを振り向くと、そこにはマアヤお姉さんとレニアが立っていた。
「び…びっくりしたぁ…。二人共、こんな所でどうしたの?」
「エリシアさんを手助けしに参りました」
そんなマアヤお姉さんの言葉にエリシアは驚く。
てっきりひとりで進んでいかなきゃいけないものだと思ってたから、二人も協力してくれる人が居るのはすっごく心強く感じる。
「本当!? ありがとう二人共ー!」
そう言いながらいつもの癖で二人に抱きつくと、マアヤお姉さんは無言で頭を撫でてくれたけど、レニアは嫌そうな顔をしてエリシアの腕から抜け出して行ってしまった。
「えー、レニア、エリシアのこと嫌い?」
「うるさい。気安く触るな」
「えぇー…仲良くしようよー」
「……」
「ねぇってばー!」
「うるさいっ! 少しは黙れないのか!」
「うん、だってエリシア今レニアと仲良くなりたい気分なんだもん」
レニアは大人びて見えるけど、実際歳的にはエリシアと一番近いはずだよね。
エリシアは80歳超えてて、人間からしたらおばあちゃんなのかもしれないけど、人間の歳に換算すると多分10歳くらいだし…。
もちろん、人間の10歳よりは賢いんだけどね。
「僕と仲良くなりたいなら少し黙ってろ」
「えぇー…それじゃつまんないじゃん」
「お前なぁ…」
そんなエリシアとレニアとのやり取りを、マアヤお姉さんは無表情で見ていた。
その表情は、笑ってもいないし怒ってもいないし…無表情ってやつなんだけど…でもなんとなくマアヤお姉さんは今、嬉しそうにしているように見えた。
「マアヤお姉さんは、どうして嬉しそうなの?」
エリシアがマアヤお姉さんに視線を向けてそう問いかけると、マアヤお姉さんは驚いたように目を見開いた。
一方でレニアは、自分から的が外れて良かったとでも思っているかのように溜息をつきながら、エリシアとマアヤお姉さんよりも一歩先に出た。
「…私が、嬉しそうに見えますか?」
「うーん…なんだろう。表情とかは嬉しそうには見えないけど、でも雰囲気でわかるんだよ」
「…そうですか。確かに今、少し嬉しいですよ」
「やっぱり! どうしてか聞いてもいい?」
「…レニアに、お友達ができたらいいなといつも思っていたので、エリシアさんとお友達になれそうで良かったと思いまして」
「どこを見て友達になれそうだと思ったんだ…」
少し先を歩いていっていたレニアは、呆れたような顔で振り返る。
「レニアは意外と押しに弱いので、多分グイグイ行けばなれますよ。友達」
「そうなんだ、じゃあエリシア頑張っちゃおうかなー!」
「…そんなんで友達になったって言っても絶対上辺だけだぞ…」
「友達っていうのは、上辺だけの状態から深めていくものなんだよ〜」
「…緩い口調で深いこと言うな」
「ってわけでレニア! お友達になろうよ〜!」
エリシアはレニアに近づいていって、ニコニコと笑いかけた。
「うるさい、ならない、寄るな!」
そう暴言を三連撃されても、めげるエリシアじゃない。
「えぇーでもでも、きっと楽しいよ、お友達!」
「…別のところに割り当てられればよかったのに…」
「何か言った?」
「…いや…」
なかなかレニアは友達になることすら承諾してくれない。
それをエリシアは不満に思いながら頬を膨らませた。
そしてもう一度攻撃を仕掛けようと思った時、通路の後ろの方から、エリシアの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「エリシアちゃーん!」
と、通路の壁や天井に反響して響いてくるその声は…。
「わぁ…ランディットさんだぁ…」
面倒なドラゴンが来ちゃったなぁ…と思うエリシアの横で、レニアは小さく笑う。
「ランディットと友達になればいいじゃないか」
「毎日毎日懲りずにお嫁に来てくれ、なんて言ってくる友達は要らない〜」
「…ランディットも過激だがお前もなかなかド直球だな」
「そう?」
追いついてきたランディットさんは、にこにこと笑いながらエリシアに近づいてきた。
「いやぁー、会いたかったよエリシアちゃん」
「エリシアは全然会いたくなかったんだけど」
「そんな辛辣な所も愛おしい」
…いつも通り、気色悪いよ…。
「お嫁に来てくれ…って言いたいところだけど、今はそれどころじゃないようだね」
「いつもそれどころじゃないんだけど」
「…ランディット様は、ゼアスさんが向かった通路に行くはずでは?」
「流石、よく覚えてたねマアヤさん。ただその前に、エリシアちゃんにこれを渡したくてね」
ランディットさんはそう言いながらエリシアに近づいてくる。
そして、懐から何かの水色の透き通った欠片のような物を取り出して、エリシアの手のひらの上に乗せた。
「…これって……」
「何かは、エリシアちゃんならわかるだろう? とても貴重なものだ。大切に使ってくれよ」
そうランディットさんがエリシアにくれたのは、火竜の体を少しの時間だけ水から守ってくれるという、優れものの道具だった。
ドラゴンが使うことの出来る魔法で作り出すもので、希少価値は極めて高いと言われている。
「ありがとう…ランディットさん」
そんなエリシアの言葉に、ランディットさんは笑顔で頷くと、元来た道を引き返していった。
…あんなまともな時もあるんだ…。
そう、エリシアはランディットさんの後ろ姿を見送りながら思った。
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