幼なじみ
俺はとっさに手を伸ばし、大きな声で叫ぶ。
「っ…レイン!!」
そんな俺の声も虚しく、レインはその場から動かなかった。
いや、金縛りにあったかのように動けなかったのだ。
ドラゴンはブレスの準備を完了させ、前足を開いて構えた。
俺はそのドラゴンとレインの間に転移魔法で割り込んだ。
そしてレインを抱え、再び転移しようとした瞬間、赤いドラゴンは前足で俺とレインを押さえつけた。
「っくそ…!!」
前足の下から逃れようともがくが、その前足はびくともしない。
ドラゴンに触れられたままじゃ、転移魔法も使えねぇ…!
切羽詰まって俺がドラゴンの方に視線を向けると、俺の目の前には赤い目をギラギラと光らせながら唸る、ドラゴンの顔があった。
その瞬間、俺の脳裏に二人の仲間の亡骸の姿と、瓦礫の中から見つからなかった少女の顔が浮かんだ。
…俺も、レインも…。
同じ道を辿るのか。
…いや…ダメだ…!
せめて、レインだけでも…!!
俺は、俺の下敷きになるように倒れているレインを足で動かし俺の下から出した。
そしてレインの体を力いっぱい蹴り飛ばす。
思った以上にレインの体は転がっていった。
これで…ブレスの範囲には入ってねぇだろ…!
石の地面を転がって行ったレインは、ふらふらとしながら上半身だけ起こした。
そして俺の姿を見ると、その口からかすれた声をこぼす。
「兄…上…」
「逃げろレイン!」
そう俺が言った時、ドラゴンは前足で押さえつけた俺に向かって至近距離からブレスを放った。
俺はぐっと目を瞑る。
…死んだら、あいつらに会えるだろうか。
あいつらに、許してもらえるだろうか…。
もし…許してもらえないんだとしても、ずっと謝りたいと思ってた。
それが叶うなら……。
その時、俺の耳に聞き慣れた女の声が響いた。
「諦めてんじゃないわよゼアス!!」
そんな声に、驚いて目を開く。
すると、俺の目の前には、短い赤い髪の女が両手を広げて仁王立ちしていた。
そして得意の結界魔法でドラゴンのブレスをことごとく弾いている。
「え…エマ……?」
「勝手に死んだら許さないわよ!」
そしてドラゴンはブレスを吐き終わったあと、もう1度怒り狂ったように鳴き声をあげる。
前足は俺の体の上からどけず、今度はブレスではなくもはや力技で、俺を踏み潰そうとしてくる。
「ぐっ…」
石でできたでこぼこした地面と、硬いドラゴンの足で挟まれ、背中と腹に痛みが走る。
だが、次の瞬間エマがにっと笑ったのが見えて、その後すぐ俺の体の上からドラゴンの足が退けられた。
「な…なんだ…?」
地面に肘をついて顔だけを上げると、そこにはドラゴンに猛攻を仕掛けているレインの姿があった。
「レイン…!?」
逃げろって言ったのにあいつ…!
また恐怖で固まりでもしたら、今度こそ殺されちまうかもしれねぇ…!
足に力を込め、飛び出そうとした俺を、エマが片手で静止する。
「なんだよ!? レインが危ねぇんだぞ!」
「大丈夫よ。今のあの子は、恐怖なんかに負けない」
エマの穏やかなその声に、俺はつられてレインの方に視線を向ける。
するとそこに居たのは、過去の記憶に怯えるレインの姿ではなかった。
何か強い決意を胸に、大剣を振るっているように見える。
確かに…レインの動きにはどこにも危なげがなかった。
一瞬で、何がレインを変えたのか…。
俺にはわからなかった。
エマはそんなレインを、安心したように見つめている。
「守りたいって気持ちが、恐怖を押しのけたのよ、きっと。レインはこれからもっと強くなれるわよ」
「…そりゃあ困ったな。お前も俺も抜かれちまうぞ」
「そうかもね」
そんな会話をしている間にもレインは全く危なげなく首のあたりのドラゴンの鱗を突き破り、赤いドラゴンを打ち倒した。
倒れていくドラゴンのすぐ横に着地した。
ドラゴンを一人で倒してしまったレインの表情は冷静で、昔の甘えん坊なずっと俺の後ろをついてきていた弟ではなくなっていた。
…立派になっちまったもんだ…。
レインは倒れ伏したドラゴンを一瞥すると、こちらを振り返った。
そして、大剣を取り落とし、俺の方にすごい勢いで駆け寄ってくると、ガバッと抱きついてきた。
「のわっ…!? な…なんだよ!」
「兄上、怪我はないですか!?」
俺の両肩を掴んで、レインは必死にそう聞く。
「…いや…」
レインの腕や足を見ると、俺が蹴り飛ばしたせいで擦り傷だらけで、よっぽど俺よりもボロボロだった。
「…強くなったな」
気がついたら俺の口からそんな言葉がこぼれ落ちていた。
レインは俺の言葉を聞いて、驚いたように目を見開いてから、嬉しそうに笑った。
その表情は、一緒にパーティを組んでた時とさほど変わらない、純粋で子供っぽい笑顔だった。
「本当にレインはお兄ちゃん大好きよね」
「な…揚げ足取らないで下さい…」
「ま、チビの頃はずーっと俺の後ろをくっついてきてたしな」
「そーいうゼアスはゼアスで、ついてくる弟が可愛くて甘やかしまくってたくせに」
「うるせーよ、お前だってレインのことは甘やかしてただろーが」
「ま、レインはゼアスと違って可愛かったからね〜」
エマはそこまで言ってから、穏やかな笑みを浮かべる。
「…なんだよ、気持ち悪ぃ」
「そーいうとこよ、ゼアス」
「あ?」
「二人共…あの一件の時はあたしよりもちっちゃくて、頼りなかったのに…。こんなに立派になっちゃって。二人が生きていて本当によかったわ」
そう言いながら、エマは俺とレインを両腕で抱き寄せた。
…エマって…こんなに小さかったか…?
いや…俺達がデカくなったのか…。
ガキの頃から何かと面倒を見てくれたエマの顔が俺達よりも下にあるのに、俺は少し違和感を感じた。
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