兄弟の連携
俺はただひたすら、狭い通路の中を走っていた。
あの神ってやつの血を見た瞬間に、意識が遠くなったことは覚えてる…。
でも問題はその先だ。
意識がなくなったあと、俺はどんな夢を見ていたのか…。
それは、いくら考えてもわからなかった。
けど、エリシアが言うには、俺はリゼの…リゼリア=ロルの名前を呼んでいたらしい。
となれば、俺が見ていたのは過去の夢…。
神の魔法で見せてくる夢は、もしかしたらその人物の一番嫌な思い出を見せているのかもしれない。
俺はそう思いながら、通路を走り続けた。
すると、しばらく走ったところで俺は少し開けた場所に出た。
そこには、白い外套を羽織ったあやつり人形と、一匹の赤いドラゴンが立っていた。
…ドラゴン…だと…?
まさか神は、ドラゴンまで操ってやがるのか…?
そう思った瞬間、そのドラゴンはくるりと首を曲げて、俺の方に視線を向けた。
その目は赤く光っている。
「ちっ…」
気づかれたか…。
これで奇襲はできなくなった。
となれば、力技で行くしかねぇな…!
俺は両足を肩幅ほどに開いて、呪文を詠唱し始める。
その俺の背後から足音が聞こえたような気がして振り返ろうとしたその瞬間、俺の背中を何かが踏みつけて飛び越え、俺はバランスを崩してよろけた。
「なっ…なんだぁ…!?」
視線を先に向けてみると、そこにあったのは大剣をさげて走るレインの姿だった。
レインは、一気にあやつり人形たちとの距離を詰めると、大剣を抜き放って白い外套の人形たちを薙ぎ払った。
そして小さく振り返ったレインと目が合う。
…魔法で援護しろってか。
上等じゃねぇか。
俺は走り回りながら敵をなぎ倒し続けるレインを援護する魔法を放ち始めた。
流石は血の繋がった兄弟といったところか。
久しぶりの共闘でも息が自然と合っていく。
昔、一緒にパーティを組んでた時のことを思い出すな…。
そんなふうに思いながら、俺とレインは戦い続けた。
いつの間にか大量にいたはずの白い外套のバケモノは居なくなり、後には威嚇するように吠えるドラゴン1匹だけが残った。
…こいつも、一度は死んで、そして操られてるのか…?
赤いドラゴンってことは、ファイアドラゴンだ。
それで、この部屋はこんなに熱いのか。
俺はちらりとレインの方に視線を向けた。
…ドラゴンと対峙するなんて…大丈夫か…?
力や冒険者としての技量の心配をしてるわけじゃない。
ただ、俺が心配なのはレインの心の方だった。
昔、俺がパーティメンバーをレイン以外殺してしまった時…。
あの時、俺とレイン以外を殺したのは、真っ赤な鱗を持つドラゴンだった。
そして、そのドラゴンと似通った見た目を持つドラゴンが、いま俺達の目の前にいる。
俺はドラゴンの姿を見るだけで記憶がフラッシュバックすることは無いが、レインは違う。
あの一件から、レインはドラゴンという単語を聞くだけで不安そうな顔をするようになった。
リザナス大陸の結界維持装置の破壊の時だって、心底不安そうな表情をしていたし、前回の白の教会を襲撃するという作戦をマスターが伝える時だって人化をしたドラゴンが部屋にいるというだけで口数も少なく、部屋の隅の方に佇んで居た。
レインがS級の冒険者なのにも関わらず、ギルド本部から出ずに事務のような仕事をしていたのも、多分昔のことが関わっているのだと思う。
そんなレインが、今ドラゴンと対峙している。
もしもレインが昔の記憶の恐怖で固まったりした時に、すぐに助けに入れるようにしておかねぇとな…。
俺はそう思いながら、大剣を構え直すレインの方を見ていた。
だが、俺の想像に反して、レインの動きは相当的確なものだった。
いくらドラゴンの鱗が硬いとはいえ、同じ場所に何発も大剣の攻撃を打ち込まれたら、鱗は破れる。
レインが攻撃したい場所に行けるよう、俺は魔法でドラゴンの頭を弾き、攻撃をさせないように援護した。
だが次の瞬間、俺の左足が何かに掴まれ、そして引っ張られた。
「…!?」
バランスを崩してその場に倒れた俺は、自分の足の方を見る。
するとそこで、既にほとんど動けないような重症を負ったあやつり人形が、俺の足をぐっと掴んでいた。
そして、カクカクとした動きで口を開いたと思うと、俺の足に噛み付こうとする。
ヴィッタの治らない怪我の正体ってのがこれか…。
俺は冷静にあやつり人形の動きを見極めて、隙を見てあやつり人形の顔を蹴り飛ばす。
そして魔法の弾丸をあやつり人形の頭に打ち込むと、今度こそそれは動かなくなった。
レインとドラゴンの方はどうなった…!?
俺はハッと意識をレインたちの方に戻す。
すると、俺が援護の攻撃を止めたからか、ドラゴンが首をもたげ、レインに向かってブレスを放つところだった。
レインは冷静に後ろに飛び退く。
それを見て、俺はホッとした。
もしかしたら、レインはもう過去のトラウマを克服しているのかもしれない。
そう思っていた時、ドラゴンが怒り狂ったようにレインに向かって激しく吠える。
「…うるせぇ鳴き声だな…」
俺はそんなふうに呟いて、次のブレスに備えて魔法を放とうと腕を構える。
案の定ドラゴンはブレスを吐こうと大きく口を開ける。
だが次の瞬間、俺はレインの異変に気づいた。
ドラゴンがブレスを吐こうとして動きを止めているのにも関わらず、レインは全く動こうとしていなかった。
いや、動こうとしていないのではない。
レインは目を大きく見開いて、ドラゴンの姿を見ながら恐怖で固まってしまっていた。
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