四手に分かれて
迫り来るバケモノたちに、僕達が身構えた瞬間、マスターが持っていた杖を一振すると、巨大な魔法の結界が僕達を覆った。
その結界の内側に、バケモノたちは入ってこられないようだ。
「あれ? いいのかな?」
再び、そんな不気味な神の声が響く。
「君たちがそんなふうにそこで守りの姿勢を固めるなら、僕が集めてきた人形たちに無関係な人間を襲わせてしまうよ?」
あの白い外套のバケモノを街や村に放つって言うのか…!?
無茶苦茶だ…。
そんなことしたら、多くの人が死ぬ…。
それはそれで、あやつり人形の素材が増えていいとでも思っているんだろうか…。
とにかくそんなこと、絶対に許してはいけない。
僕はいち早くマスターの結界から飛び出すと、冷気を纏った足で強く地面を踏む。
その瞬間、バケモノたちの足元から巨大な尖った氷が姿を現し、バケモノの頭を貫いた。
そして他の三つの通路の方を見ると、西の方の通路にはエリシアがドラゴンの姿で金色の目を光らせ、東の方の通路にはゼアスさんが大量の魔法の弾丸を打ち込んでいる。
そして、南の通路の入口にはシルヴィが杖を駆使して落雷を降らせていた。
僕達は一瞬、全員が振り返ると、目配せをした。
全員の瞳が、強い覚悟の光を放っている。
僕達はお互いになにか言葉を交わすわけでもなく、しかしお互いの言いたいことは汲み取って、通路に駆け込んだ。
『必ず神を倒し、生きて戻る』
そんな言葉を、皆の瞳は雄弁に語っていた。
駆け込んだ通路は狭く、所々岩壁に松明がついているだけで少し暗い。
そんな通路の中、僕の目の前の空間が歪んだ気がして僕は少し後ろに飛び退いた。
「わぁ…すごいな、ジルくん。私は空間の歪みを隠すことは得意だったはずなのに…」
そんなふうに目を見開きながら僕の目の前に出てきて言うのはヴィッタさんだった。
「ヴィッタさん…? どうしてここに…?」
僕がそう問いかけると、ヴィッタさんはにっこりと笑った。
「ギルド冒険者の中で新米な君たちが頑張ってるのに、S級冒険者なんてもてはやされてる私たちが何もしないのは流石にないだろう?」
ヴィッタさんはそう言いながら、走る僕の横を転移魔法を交えながら移動し始めた。
「ってことは…他のみんなの元へも…?」
「マスターが一瞬で割り振ったよ。まぁ、私は誰がどこへ行ったのかはほとんど覚えてないんだけどね…ほかの所は三人か四人になるようになっていたよ」
「…ここは、二人…ですか?」
「私だけじゃ不満かい?」
「…いえ、全然…。むしろ僕が足を引っ張りそうで…ナメクジなりには頑張りますけど…」
「え、ナメクジ?」
正直、シルヴィたちと一緒にいたかったなんて、そんな考えが一瞬頭の中をよぎったのは、秘密だ。
いや、別に一緒に居たいってことに変な意味があるわけじゃないんだけど…。
進める道が四つに分かれていて丁度よかったから四手に分かれたものの、いつも一緒だったパーティメンバーがそばにいないと落ち着かないものだ。
どうか…皆無事でいて…。
そう思いながらも正直なところ、僕が一番危ない気がしてならなかった。
まぁ、ナメクジなんて、捻り潰すのは簡単だろうし…。
というのは冗談だとしても、僕は力を取り戻して間もなくて、そこまで上手く力を使いこなせていない。
その上神からおそらく一番目をつけられている。
神を討つと言ってもそんなことがスムーズに行くはずがなかった。
しばらく二人で走っていると、少し開けた場所に出た。
そこには、大量の白い外套を羽織ったバケモノがいる。
「…まず、第一関門ってとこかな?」
そんな風にゆるーくヴィッタさんが言う。
その言葉に僕は苦笑いしながら頷いて、ヴィッタさんの横で準備運動として体を少し伸ばし始めた。
「さぁジルくん。準備はいいかい?」
「…あんまり戦いたくはないですけど…頑張ります…」
「よし、じゃあ行こうか」
ヴィッタさんの掛け声とともに僕も駆け出す。
ゼアスさんやエリシアやシルヴィとのような息の合った攻撃はそこまで上手くできないものの、ヴィッタさんは圧倒的な力と的確な攻撃で僕のことを援護してくれていた。
そして数分の後には、その場所に立っているのは僕とヴィッタさんだけになった。
「なかなか早かったね」
「…そうですね、魔法を使ってくるバケモノも殆ど居ませんでしたし…。そういえば今更ですけど、ヴィッタさん怪我は大丈夫なんですか?」
「本当に今更だよね」
「す…すみません…」
「いや、別に責めてるわけじゃないよ」
ヴィッタは僕の顔を見てニコニコ笑いながらそう言う。
「綺麗に治った、とまでは行かないけど、もう痛みはないから大丈夫だよ」
そんなふうに言いながら肩を回してみせるヴィッタさんの腕の傷は、まだ痛々しく見えた。
「さて、先に進もう。皆もどんどん先に進んでいるはずだからね」
「…四つの道のどれか一つが、神のいる場所へと繋がってる…とかなんでしょうか」
「さぁね…。そうそう、マスターからこれ持たされたんだ」
ヴィッタさんはそう言いながら、赤い球体を取り出した。
「これを使えば、得た情報をマスターに伝えることが出来る。この玉からではマスターの話は聞けないけど、マスターは一方的になら私たちに魔法で語りかけることが出来るから、それでコンタクトは取れるんだよ」
「へぇ…便利ですね…」
「ほかの道がもし神のいる場所に続いてたら、そっちに回ることも出来る。だから今は、とにかく進もう」
ヴィッタさんはそう言って、一歩踏み出した。
その瞬間、石を組んで作られている地面の出っ張りにつまづいてべしゃっと転んだ。
「…あー…」
そっか、なんか今忘れてたけど…。
ヴィッタさんってこういう人だった。
大丈夫かなぁ…。
と、僕は急に心配になった。
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