神の本拠地
気が付くと僕は…否、ギルド本部の中に居た皆は、石造りの神殿のような場所に居た。
円形に広がる広場のようなその場所は広く、崩れかけた石の柱が何本もたっている。
なんだか神秘的なところだ…。
だけど…ここはどこなんだ…?
一瞬でギルド本部からここまで、ギルドにいた人やドラゴン全員がここまで連れてこられたみたいだけど…。
他のみんなも、驚いたような表情で辺りを見回している。
けどその中で、冷静そうに立っている人物が二人いた。
それは、マスターとヴィッタさんだった。
マスターは持っていた杖を地面につき、ため息をついている。
そしてヴィッタさんはといえば、表情からは何も読み取れないというくらい無表情だった。
あの五体のバケモノたちは、ヴィッタさんの家族だった人たちなんだろうか。
多分、僕たちはここに空間魔法で飛ばされた。
死人の魔法を自分のもののように使う神のやり方に、僕は嫌気がさした。
この場に連れてこられたのは、S級の冒険者全員と、マスターとマアヤさん、それから僕とエリシアとシルヴィに、ランディットさんとソフィアさんだ。
ソフィアさんは先程までの神との戦いに参加していなかったし、巻き込まれたという感じだろうか。
そんな中、マアヤさんはレインさんの治療に、そしてレニアはゼアスさんのもとへと歩き始めた。
ゼアスさんは未だ、エリシアの力で止まっている。
エリシアはまだ余裕そうな表情はしているが、困ったようにゼアスさんを見つめていた。
レニア…どうするつもりだろう…。
そう思いながら、僕はレニアの方に近付いていく。
「おい、お前…エリシアといったか? その力を解けるか?」
「いいけど…またゼアスさん暴れだしちゃわない?」
「僕は一度幻覚を見せられて操られたが、それを解くこともできた……まぁ、あのやり方はちょっと荒いけどな」
…まさか、エリシアが力を解いた瞬間、ゼアスさんのことを殴り飛ばすんじゃ…。
そう思った時、ふとレニアはシルヴィの方に視線を向けた。
そしてシルヴィに向かって手招きをする。
ま…まさか…。
「エリシアが力を解いたら、ゼアスを思い切り殴り飛ばせ」
案の定、レニアはそうシルヴィに言う。
「ちょ…ちょっと待って! シルヴィがやったらゼアスさん死んじゃうかも…」
「ちょっとジル、どういう意味よ」
「え…い……いやその…シルヴィってレニアよりはるかに力強そうだし…」
「僕が非力だっていうのか?」
「違うよ、レニアは普通で…」
「私が以上ってことね?」
「え…えぇ…っと…」
二人の攻めるような視線が痛い…。
でもゼアスさんの命のためだ…!!
「…わかった。その女が一番非力そうだと思ったから選んだが見当違いだったようだ。僕がやる」
そうレニアが言うと、エリシアはにこっと笑う。
「それじゃ、いっくよー!」
エリシアがそんな風に言うと、エリシアの金色の瞳が光りだす。
そして光が消えた瞬間、ゼアスさんの体が一瞬ぐらりと動いた。
「今だよ!」
そんなエリシアの言葉に合わせて、レニアは体を捻って飛び上がり、ゼアスさんの顔面を思い切り蹴り飛ばした。
ゼアスさんの体は倒れ、勢い余って結構先の方まで転がっていく。
「いってぇ!?」
そんなゼアスさんの惨めな声が、少し遠くから聞こえた。
っていうか最早殴るじゃないし。
蹴り飛ばしちゃってるし。
シルヴィが殴るよりも痛かったんじゃないの、あれ…。
シルヴィもさすがに心配そうにゼアスさんのことを見ていたが、エリシアはというと、楽しそうに笑いながら蹴り飛ばされて転がっていったゼアスさんのもとへと駆けて行った。
「おかえり! ゼアスおじさん!」
ゼアスさんの意識が無かった時には、ちゃんとゼアスさんと呼んでいたのに、ゼアスさんの意識が戻った途端におじさん呼びになるのは完全に嫌がらせだろう。
「おじさんじゃねぇし…痛ぇし…なんなんだ…?」
「ゼアスおじさん、神様に操られて暴れてたんだよ」
「いやだからおじさんじゃねぇし…。俺が…操られた…?」
そこまで言ってから、ゼアスさんは何かを思い出すように頭に手を当てた。
「…確か…なにか悪い夢みてぇなものを見てた気がするんだが…何の夢だったんだろうな…」
「そういえばゼアスおじさん、暴れてるとき、リゼって言ってたけど、知り合い?」
エリシアのその言葉に、ゼアスさんは目を見開き、少し遠くでマアヤさんの治療を受けていたレインさんも驚いたように顔をあげた。
「俺が…あいつの名前を…?」
「…?」
ゼアスさんは、エリシアの言葉に驚いたような表情をしている。
本当に、操られている時の記憶は全くないようだ。
エリンさんも、同じだった。
そういえば…。
「レニアは、操られていた時のことって覚えてる…?」
「…いや、僕もエリンやゼアスと同じだ。なにか、悪い夢のようなものを見ていたような気がするが…内容は覚えてない」
自分で意識を取り戻したレニアに聞いても収穫はなしか…。
神が見せる幻覚の対策は…特になにもできそうにない…かな…。
僕がそう思った時、広場の中央に居たマスターが杖を地面について、カンっという子気味のいい音を立てた。
その場に居た全員はマスターの方を振り返った。
「全員の意識が戻ったところで、今の状況をわしのわかる限り伝えよう」
そう、マスターは切り出した。
「この場所は恐らく、神の本拠地。空中に浮かぶ遺跡」
空中に浮かぶ…!?
遺跡が?
そんなことって可能なのか…?
しかも、神の本拠地が空中にあるなんて…誰が調べを付けたんだろう…。
浮遊魔法が使える人間が居るのは知っていたけど…でも、その魔法は自分と何か他の一つのもの…くらいしか浮かせることはできないって聞いてる。
それに、数百年前に、浮遊魔法の使い手の多くは姿を消して、今はその魔法を扱える人自体がとても少ないんだってことも。
ヴィッタさんは、僕の不思議そうな表情を見て、小さな声で僕にそっと耳打ちをした。
「この遺跡が浮いているのは、浮遊魔法の使い手のおかげだよ。私の家族と一緒だ」
…!
静かで、なんの感情も含んでいないヴィッタさんのその声に、僕は少し胸が痛んだ。
今ヴィッタさんは、どんな気持ちなんだろう…。
親子同士のけりというものも、まだつけられていないみたいだし…。
ヴィッタさんはそれだけ僕に教えてくれると、僕から離れていった。
「そして、ここから出ることは不可能とされている。ここには、優秀で珍しい魔法の使い手が闊歩しているらしいのだ…。まぁ、皆一度死んではいるのだろうが。そして神はいつでも我々を操るスキを狙っているだろう。必ず、なにがあっても一人になるな…」
マスターがそこまで言った時、何処からともなく、あの白髪の男の声が聞こえてきた。
「やぁ、君たち。僕の城に招待されるなんて、最高の名誉だよ。ここからは誰も、生きて帰れない…。さぁ始めよう。僕に逆らう者に…制裁を」
神の声が途切れた瞬間、円形の広場につながっている四方の通路から、大量の白い外套のバケモノが入ってきた。
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