ゼアスの過去
俺は洞窟の中、前を歩いていく三人に声をかけた。
「おい、今回の依頼って何だった?」
その俺の言葉に、その場にいた全員が目を見開く。
「もー、何言ってるんですかゼアス。これからドラゴンの討伐依頼に向かうんでしょう?」
そんなリゼの言葉に俺は目を見開いた。
「…」
黙り込む俺に、メリヌとアシュが不思議そうにこちらを見る。
「戻ろう」
そんなメリヌとアシュ、リゼ、そしてレインに、俺はそう短く言った。
「どうして?」
「確かにゼアスは元々乗り気じゃなかったですけど…どうしたんです? 怖くなっちゃいました〜?」
「…胸騒ぎがする。その仕事はダメだ」
「…兄上…?」
不思議そうにしている皆に、俺はそう言い切る。
とにかく…ここから出きゃならない。
じゃなきゃ悪いことが起こる…。
絶対に。
そこまではわかるのに、その先がわからない。
この洞窟の、何がそんなに嫌な予感がするのか…。
俺にはまだよく分からなかった。
「大丈夫だろ! ゼアスとリザも居るんだし」
「ダメだ…! 大体ドラゴンの討伐なんて、S級の冒険者たちだって依頼を完了できるか怪しいんだぞ! 俺たちじゃ無理だ」
「確かにあたしとかアシュはゼアスの足を引っ張っちゃうかもしれないけど頑張るから…」
「頑張るとか、そういう問題じゃねぇんだよ!」
そんなふうに俺は、思い切り声を荒らげた。
とにかくここを出る…!
そんな思いが、先立ちすぎたのかもしれない。
そんな俺の目の前で、気づいたらメリヌが涙目になっていた。
強く言いすぎたか…。
けど…。
「あたしは…行く! ゼアスが来なくたって、一人だって、やってやるわよ!」
「おい待て、メリヌ!!」
メリヌの手を掴もうとした俺の手が空を切る。
そして追いかけようとした瞬間、横からアシュに突き飛ばされた。
「てめぇ、何す…」
「あいつはお前達に追いつきてぇって必死になってんだよ! お前みたいな天才に、俺達の気持ちなんかわかんねぇよ!」
そう言い捨てて、アシュはメリヌを追って洞窟の奥へ行ってしまった。
「あ…兄上…」
レインはといえば、おどおどと俺の顔を見ている。
一方でもう一人残ったリゼは、にこにこと笑っている。
「あーあー、仲間割れですか?」
「うるせぇ…。今のは、俺が悪い」
「まぁ…お二人の悩みも分りますけどね〜…。ギルドの皆にすごい噂されてましたもん。なんであのゼアス=ジェリアのパーティメンバーがあんなに弱いやつばかりなんだーって」
「別に俺はメリヌやアシュが弱いなんて思ってねぇぞ」
「ゼアスがそうでも、他のギルドの人たちはそうは思わないんでしょうね〜…。まぁ、私みたく心の強い図太い人間は何か言われても傷つきませんが、アシュとメリヌはちょっとデリケートですからね〜…」
今リゼが言ったことは、俺も知っていた。
メリヌやアシュ、リゼやレインだって、俺のパーティメンバーに相応しくないと、ギルドの連中が言っていることを。
けど、俺はアーデン=ジェリアの息子である前に、ゼアス=ジェリアというひとりの人間だ。
俺の背中を預ける人間を、俺自身が決めることの何がいけないんだ。
それに、俺は大魔道士のアーデン=ジェリアの息子でも、大魔道士になれるほどの能力はない。
才能なんて、そんなものも自分にあるとは思ってない。
俺は、幼い頃から親父に魔法を教えこまれて来た。
それが積み重なって、今は一応人並み以上の魔法が使えるに過ぎない。
そんな俺のことを知りもしない奴らが、俺の仲間のことを悪く言っていると思うと、無性に腹が立った。
「とにかく、俺はあの二人を追いかける。すぐに連れ戻すから、レインとリザは洞窟の外に出ろ!」
「えぇ〜…でもあの二人ゼアスだけが行ったところで聞いてくれますかね?」
「それは…」
「さぁ、私とレインも行きますから、ふたりを追っかけましょう!」
そんなふうにリゼは言いながら俺の腕を引っ張った。
「おい待て! この先は…」
そこまで言った瞬間、俺の目の前の景色が変わった。
その景色は、今までの薄暗い、平和な洞窟の中ではない。
俺の目の前には、赤い鱗に覆われた体は小さめなドラゴンが暴れていた。
火を吹き、足を踏み鳴らして恐ろしい威嚇の鳴き声をあげる。
そのドラゴンのそばで、アシュとメリヌは倒れていた。
ピクリとも動かない。
そんな中で、俺の体は俺の意志とは全く関係なく動いた。
まるで、過去の自分の動きを、客観的に見ているようだった。
「おい、リゼ! 少しの間隠れていられるか!?」
俺の口から紡がれた言葉に、リゼは頷いた。
それを見ると、俺は動かないふたりを守るようにして片手剣を振りかざし、ドラゴンと果敢にも戦っているレインを片手で抱えた。
「兄上…!?」
「離脱する!」
「でも…!! 二人が…!」
「その二人はもう動かない…!」
俺は、俺の口から勝手について出た言葉に胸がえぐられるような思いだった。
結局、俺はふたりを助けられなかった。
リーダーの俺が、しっかりとしていなかったせいで…二人の気持ちをわかっていなかったせいで、二人は死んだんだ…。
俺は転移魔法を使い、レインを先に洞窟の外へ出した。
今の俺には、自分と、他にひとりの人間しか運ぶことが出来なかった。
そしてそのすぐあと、転移魔法で洞窟の中に戻り、リゼを助け出そうとした。
けど…戻った洞窟の中、ドラゴンがいた場所の洞窟の天井は崩れ、空が見えていた。
ドラゴンの姿は、どこにも無い。
それだけじゃなく、俺がいくら必死で岩を掘り起こし、リザの名前を叫んでも、リザは見つからなかった。
手が切れて、擦れて、血が出てくる。
それでも俺は、岩を掘りおこしつづけた。
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