記憶の彼方へ
俺は、神がレインに…自分の弟に大剣を振り下ろすところを呆然と見つめていた。
神の動きが遅く見えるのに、恐怖で足がすくんで動けない。
…俺は……また死なせるのか…。
そう自問自答しても、足は動くようにならなかった。
名前を呼ぶことすらできない。
俺の頭の中に浮かんでいたのは、死んでいく俺の仲間たちの姿だった。
俺をリーダーだと慕ってくれていた、仲間たちの姿だ。
恐怖で目を見開いて、瞬きもせずにレインと神の方を見つめていた俺の視界に飛び込んできたのは、よく見慣れた赤髪の女の姿だった。
エマは、両手を大きく広げると、巨大な魔法の壁を形作った。
その壁に阻まれて、大剣はレインとエマに届くことなく止まった。
「邪魔だよ。僕はその弟くんを殺したかったのに…」
そう言いながら、神はエマの防御結界を容易く破り、エマを殴り飛ばした。
「だってその弟くんが居なくなれば、ゼアス=ジェリアは誰も救えていないことになる…パーティメンバーを皆殺しにした、最低なリーダーだ」
そんな神の言葉が、胸に突き刺さる。
忘れていたわけじゃない。
忘れようと思っていたわけでもない。
あいつらに、憎まれ続けるのが俺の役目だと…そう思っていたのに、俺は今また、別のパーティを組んでいる。
今度は誰がリーダーというわけでもない、四人とも独立して動いていけるような力をもったパーティで、結局俺は、他の三人に甘えていただけだった…。
一人で何人もの仲間を死なせて、その責任から、怨念から、逃れたいだけだったのかもしれない。
…俺は……。
「あぁでも…別に弟くんを殺さなくても、堕ちてくれそうだね」
そんな神の声が聞こえたかと思うと、神は一瞬で俺の方へ間合いを詰めてくる。
そして、何故か自分で自分の腕を切った。
そのほとばしる赤黒い液体を見た次の瞬間、俺は暗闇の中に立っていた。
…ここは…どこだ…?
今まで、何をしていたのかもわからない。
ただ、何故だか胸騒ぎがする。
此処に居てはいけないと、心が叫んでいる。
「兄上?」
ぐるぐると考えはじめた俺の目の前に、見慣れた顔が現れる。
「…レイン…?」
「どうしたんですか、急に立ち止まって…」
未だ幼さの残る俺の弟、レインの表情は、心なしか少し不安げだ。
そういえば、レインは今年で何歳になったんだ…?
そう考えたとき、何故だか俺の頭の中で今よりもはるかに大人っぽくなったレインの姿が浮かんだ。
…なんだ?
今の…。
「兄上!」
「…!?」
急なレインの大声に驚いて、俺は慌ててレインの方に視線を向けなおした。
「聞いてるんですか? メリヌとアシュが呼んでますよ」
呆れたような表情で、レインは俺にそういう。
そうか…そうだった。
俺はあいつらと、仕事の依頼先に向かっている最中だった。
けど…なんの依頼だったか…。
「…わりぃ。ちょっと頭の中がこんがらかっててな…」
俺はレインにそんな風に言葉を返してから、とりあえず前を向いて歩き出した。
歩き始めると、この暗い空間が、どこかの洞窟だということがわかる。
…洞窟だとわかった瞬間に、胸騒ぎが強くなりやがる…なんなんだ…一体…。
しばらく歩いていくと前方に少女の姿を見つけた。
肩くらいまである栗色の髪をなびかせてこちらを振り向くと、その少女はむっとしたように頬を膨らませた。
「遅いよゼアス!」
「すまねぇ」
「えー心がこもってなーい」
「るせぇな。謝ってるんだから許せメリヌ」
俺のそんな声にメリヌはにっこり笑った。
「えーどうしよっかなぁ」
「うるさいぞメリヌ。この間の仕事でミスしたばっかりだろーが。ちょっとは気を引き締めたらどうだ?」
「そっちこそうるさいわよアシュ! あんただって人のこと言えないくらい弱いでしょー?」
横から話に入ってきたアシュは、メリヌから反撃を食らっている。
「そういや、リゼはどこいった?」
「ここですよぅ、わかりませんでした?」
すぐ側からリゼの声が聞えて、俺は驚いて辺りを見回した。
すると、すぐ側の岩壁に擬態するかのように、リゼは隠れていた。
「ゼアスはいっつもわたしをみつけられませんよね〜」
楽しそうにいうリゼに、俺はため息をつく。
「お前の魔法が高度すぎるんだろーが…変な魔法ばっかり極めやがって…」
「いやいや、役に立つんですよこれが! これさえあれば、好きな女の子のストーカーもし放題! どうです? 興味わくでしょ〜?」
「いいや全く。お前もっとまともな事に魔法使えよ」
「私がストーカーしてるなんて一言も言ってないじゃないですか〜。ゼアスがしたいかなと思って言ってあげたのに」
「余計すぎる世話だな」
リゼのハイドの魔法は相当高度なもので、普通の人間に魔法を使っているリゼを見つけるのは至難の技だ。
というか、ほぼ不可能だろう。
「じゃあじゃあ、レインはどうですか? 魔力ほとんど使わないので、魔法を使う練習になるかも!」
「…え……それは…」
魔法の練習と聞いて、レインが少し目を輝かせた。
「やめとけレイン。リゼの遊びに付き合わされるだけだぞ」
「酷いですね〜ゼアス。私をなんだと思ってるんですか」
「まぁ、リザはこの中では二番目に強いけど、いつも結構色々適当だからそう言われるのも無理ないわね」
「えぇ〜…メリヌまでぇ〜…」
そんなやり取りをメリヌとリゼが交わしている間、レインは小さく肩を落としていた。
俺とレインの父親は、ギルドマスターであり、大魔道士のアーデン=ジェリアだ。
幼いときから魔道士としての才能を期待され続けてきた。
俺はそれなりに、幼いときから魔法は使うことが出来た。
けど、体が弱いレインは違った。
体内に魔力をほとんど持っていなくて、周囲の大人達から本当にあのアーデンの息子かと疑われることもあった。
けど、それとは別に、レインには確かに剣術の才能があった。
大剣でも、片手剣でも、短剣でも、自由自在に操ることが出来た。
俺と親父としては、レインの得意なことを伸ばせばいいと思うが、レインはそうは思わないようだ。
自分はアーデン=ジェリアの息子なのだから、立派な魔導師にならなくてはと…そう思ってるみたいだった。
クソ真面目なレインが考えそうなことだ…。
魔法ではギルドの誰よりも弱くても、剣術ではギルドの誰よりも強いってのに…。
「レイン」
俺がそんなふうに一声かけると、レインはぱっと顔を上げた。
「お前はお前のやりてぇことをやればいいんだよ」
俺のその言葉に、レインは分かっているのか分かっていないのか、腰に下げた片手剣を寂しそうに触った。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
よければブックマークなど、よろしくお願い致します。




