魔導士たち、暴れる
今、ギルドのすぐ横の草原でシルヴィとゼアスさんがお互いに向き合って対峙している。
なぜこんな状態になったのかといえば、それはマスターが戻ってきた皆に召集を掛けるまでの間の暇つぶし、ということらしい。
…正直、僕だったらもっと穏便な暇の潰し方をするけど…。
二人は戦う練習をして暇をつぶしたいらしい。
ゼアスさんとしては、シルヴィが手に入れたあの杖がどのようなものなのか、見ておきたいということもあるのだろう。
確かに、杖を使ったシルヴィの魔法がどのように変化しているのか見てみたいと思う部分もある。
僕は、対峙している二人の横で、小さくなって座り込んでいた。
…二人とも、真剣な面持ちだ。
ゼアスさんが真剣なんて、珍しい…。
いつもだらけたような立ち姿をしているからか、真剣な様子で立っているのに違和感しかない。
そんなゼアスさんが、両手を前に構えた。
「行くぜ、シルヴィ!」
ゼアスさんはそう声をあげた後、呪文の詠唱を始める。
いつもながらに、素早い詠唱だ。
例えゆっくりと言われたところで、僕にはさっぱりわからないけど。
ゼアスさんの手から魔法の弾丸が放たれ、シルヴィのほうに向かっていく。
しかしシルヴィは、避けることはしなかった。
杖を前に突き出して一振りすると、信じられないことに結構な威力を持っていたはずの魔法の弾丸がかき消されたのだ。
「…!?」
これにはゼアスさんも驚いたようだったが、すぐににっと笑う。
「すげぇじゃねぇか、シルヴィ! なら、これでどうだ?」
ゼアスさんはそう言い、魔法を詠唱して地面に手を叩きつけた。
…あれって…!
レゾリア大陸でドラゴンたちが魔物を引き連れて攻めてきたときに、ゼアスさんが使ってた範囲攻撃魔法だ…!
そう気づいたとき、僕が心配したのはシルヴィのこと…ではなく、ギルド本部の建物のことだった。
二人とも、多分今どこで戦っているのか絶対にすっかり忘れている。
案の定、ゼアスさんの魔法はギルドの建物にまで及ぶ。
僕は慌てて走り出し、氷の壁を作り出して建物を守った。
あちらこちらにゼアスさん魔法の光の柱が立ち上り、僕はもうてんやわんやだ。
あちこちに走って行っては氷の壁を作って魔法を防ぐ。
な…なんでこんなことに…!!
ゼアスさんの魔法で作り出された光の柱を、シルヴィは危なげもなく避けていく。
冒険者の中でも魔道士と呼ばれる、魔法を扱うのに長けた人たちには魔法の軌道が見えるのかもしれない。
シルヴィは、反撃をしようと杖を自身の前に構える。
そして、何かの魔法を詠唱した瞬間杖から雷がほとばしった。
そのほとばしった雷が杖の周りから消えたかと思うと、大量の落雷がゼアスさんを襲った。
落雷は、ゼアスさんがいる場所に的確に落ちていく。
今までのシルヴィの雷魔法とは別の魔法のようだ。
格段に強くなってるのが僕にも見て取れた。
「ちょっ…! ゼアスさんこっち来ないで!!」
こっちに来たら建物が…!!!
ゼアスさんよりギルドの建物の方が大事だ。
「ちっ」
と、舌打ちをしてゼアスさんは転移魔法を使う。
そしてギルドの建物から少し離れた場所にゼアスさんの姿が現れた瞬間、シルヴィの蹴りがゼアスさんの胴に直撃した。
「ぐっ…」
…さすがシルヴィ。
元々、魔法よりも体術の方が得意そうだったもんなぁ…。
ゼアスさんはそんな苦しそうな声を漏らしたがすぐに体制を立て直して、素早く魔法を詠唱し、シルヴィの方に向かって細かい魔法の弾丸を放った。
シルヴィはその魔法の弾丸の殆どをかき消して雷魔法を纏った杖をゼアスさんに突きつけた。
勿論、流れ弾の処理は僕の仕事だ。
いくら力が戻って前よりも俊敏になったとはいえ、人間の姿の僕が動ける速さはたかが知れてる。
僕は周囲を確認して誰も見ていないのを確認すると久しぶりにドラゴンの姿になった。
ドラゴンの姿で氷の小さめな塊を作って飛ばし、ほとんどの弾丸を弾く。
そして、残りの弾丸はそこまで威力が強くないだろうと思い、だいぶ硬くなってきた鱗で覆われたドラゴンの体で受け止めた。
『い…いてて』
すごく小さな弾丸だったし、大丈夫だろうと高を括ってたけど、流石はS級の冒険者。
伊達な火力はしていなかったようだ。
鱗を貫通はしないものの、痛みを感じるくらいの衝撃が体に走った。
もう…早くやめてくれないかな…。
僕がもう疲れた…。
結局その後小一時間二人は戦い続け、終わる頃には二人のスッキリとした表情とは裏腹に、僕はゲッソリとしてギルドの傷一つない壁の横で人間の倒れていた。
「いやー見違えたなシルヴィ。杖を使うことで無駄に魔力を放出しなくなったみてぇだ」
「そうなのかしら…何にしても、前より格段に魔法が使いやすいわ」
「ジル、お前もビックリしただろ、シルヴィの強さ…って…お前なんで倒れてんだ? 何もしてねぇくせに」
「…二人の周りの見えなさがビックリだよ…」
「はぁ?」
「……」
本当にゼアスさんは自分の魔法がギルドを壊すかもということを考えていなかったみたいだ。
それどころか、僕が必死に魔法を止めていたのも気づいていない。
シルヴィも、ゼアスさんの横で首を傾げていた。
…二人共、なにかに夢中になると周りが見えなくなるタイプみたいだ。
…とにかく散々な目にあった……。
でも…これはこれで楽しかったと思ってしまう自分がいるのだから不思議だ。
ずっと一人だった僕に、今ではこんなに賑やかな仲間がいる。
失いたくないと、離れたくないと、心の底から思った。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
よければブックマークなど、よろしくお願い致します。




