レニアとヴィッタ
僕は、ゼアスさんとマスターが各地に散って任務をこなしている冒険者たちを迎えに行っている間、神の魔法の攻略法について何か手掛かりはないか、レニアに聞きに行こうと救護室の扉に手を掛けた。
扉を開いて中に入り、中を見回すと、一つのベッドのふちに、エリンさんが腰かけていた。
「あ…エリンさん…目が覚め…」
僕がそう声を掛けようとすると、エリンさんは慌てて人差し指を口に当て、
「しーっ!」
と僕に向けていった。
「え…?」
僕も、そんなエリンさんにつられてわけもわからないまま小声になる。
「あれ、見てくださいです」
エリンさんは、前髪を目の下までたらした状態で、そんな風に言う。
…正直、エリンさん自身が見てくれと言っている風景が見えているのか疑問だ…。
僕はそう思いながらも、何も言わずにエリンさんが顔を向けている方向に視線を向けてみる。
すると、一つのベッドに目が留まった。
そこにはヴィッタさんの腕枕でぐっすりと眠るレニアの姿があった。
腕枕をしているヴィッタさんも、一緒に寝てしまっているみたいだ。
…さっきまで、僕はもう子供じゃない、みたいなこと言ってたのに…。
眠っていると毒もはかないし、普通の子供みたいだ。
「レニア君、久しぶりに安心して眠れてるですよ」
エリンさんは、そんな風に嬉しそうに、穏やかに言った。
「…最近は、レニアって白の教会の追ってから逃げ回ってたんですよね…?」
元はと言えば、それは僕の力を取り戻すためにやったこと…。
僕のために…いや、厳密に言えば、僕のためじゃなくて、神を倒して人間たちを守るためなんだろうけど…。
そのために、こんなに小さい子供に無理をさせてしまったと思うと、居たたまれなかった。
「はいです…。でもレニア君は、その前から眠りが以上に浅かったり、眠らなかったりしててですね…。結果、13歳でもこんなに背が小さいんです。寝ない子は育たないとはよく言ったものです」
「…エリンさん…それはあんまり言わないんじゃ…」
あんまりどころか、僕は今初めて聞いた言葉だけど…。
「でも、どうしてそんなに眠りが浅いんですか…? このくらいの子供でそれはおかしいんじゃ…」
「レニア君は、元々殺し屋だったですよ」
「…え……?」
エリンさんの声色が、懐かしむような、少し悲しそうな雰囲気を帯びる。
「元々はお金持ちのお家のお坊ちゃんだったらしいのですが…レニア君の家族は神様に皆殺しにされたらしいです」
「…どうして…」
「あたいも詳しいことは聞いてませんです…。レニア君は、あまりそういったこと話したがらないので…多分、知ってるのはマスターとヴィッタさんだけかと」
「…家族を殺されて…生きていくために殺し屋になるしかなかったってことですか…」
「殺し屋になったのは、自分が望んだことらしいです。なんでも、両親を殺された後は少しの間奴隷生活をしていたらしく…その人たちに復讐していたら自然と殺し屋の道に入っていたらしいです。当時のレニア君ってもっと荒れてて…今でもたまに口は悪いですが、丸くなった方なんですよ」
…たまに…?
というよりは常時という方があっている気がするけど…それは置いておいて…。
今が13歳で…その前に奴隷の生活と殺し屋の生活を体験してる…ってことか…。
…それは、なんだか子供っぽくないところも納得できる。
さっきヴィッタさんが、レニアを引き取ったとかなんとかって言っていたけど、それは、殺し屋だったレニアを引き取ったってことなのかな…。
「レニアって…いつ頃冒険者になったんですか…?」
僕がそう聞くと、エリンさんはうーんと考えるように顎に手を当てる。
「確か、マスターを暗殺しに来たのが四年ぐらい前ですね…」
「…え…あ…暗殺…!?」
「声が大きいです…!」
「ご…ごめんなさい…」
四年前って言ったら、まだレニアは9歳じゃないか…!
それで暗殺なんかしようとしてたのか…!?
「その時にヴィッタさんがレニア君を捕まえたのですけど…ヴィッタさん、昔の自分を見てるみたいだって言って、マスターに許可も取らずにこの子を引き取るってご自分の家まで連れてっちゃったんです」
…それもまた…ぶっ飛んでるな…。
自分の居るギルドのマスターを暗殺しに来た殺し屋を引き取るって…。
「それから暫くヴィッタさん、ギルドに顔を出さなかったですが、ある時もう本当にボロボロって感じに怪我した状態でにこにこ笑いながらレニア君をギルドに連れてきてですね…」
そのしばらくの間に何があったの…!?
「レニア君はその時、子供とは思えないほどしっかりとした言葉遣いで、マスターに謝罪したです。マスターもレニア君を許して、ギルドのメンバーに受け入れたってわけです。それが多分…レニア君がマスターを殺しに来てから一年くらい経った頃ですね…。だから、正式に冒険者になったのは三年くらい前でしょうか」
…何というか…壮絶…。
ヴィッタさんにあのレニアが結構なついているのが納得できたというか…。
だって話をまとめると…ヴィッタさんは一年間もレニアに攻撃されながらも面倒を見てあげてた…っていうことだよね…?
今の話を聞いただけだと、そうとしか解釈できない…。
しかもぼろぼろに怪我してたって…どれだけレニアって荒れてたの…。
想像するだけで恐ろしい…。
何はともあれ、紆余曲折あって二人にはちゃんとした信頼関係みたいなものが出来ているらしい。
寝台の上で、レニアは心底安心したような表情で眠っていた。
こんなレニアの表情は、これまで2回一緒に任務に出たけど初めて見た。
「あ、それでジルくん…ここに来たのはなにかご用がありましたです?」
「え…? あ…そうだ……エリンさん、もう体は何ともないんですか?」
「あ! はいです! 申し訳ありませんです…まさか神様に操られるなんて…」
「あ…いえ……謝らないでください…」
「ジルくんが運んでくれたと聞きましたです…ありがとうございましたです」
「い…いえ…どういたしまして…」
僕のお得意の人見知りが発動して、なかなかに上手く話せない。
すぐに口ごもってしまう。
エリンさんも、僕と同じようにすぐしどろもどろになってしまうのかと思っていたが、そういうことではないようだ。
って…そんなことはどうでもよくて…。
取りあえず、レニアは眠っているから起こせないし…エリンさんに、神の魔法について聞いてみよう…。
そう思った僕は、おずおずと口を開いた。
「あの、エリンさん」
「はい?」
「神の魔法について少し聞きたいんですけど…」
そう言った瞬間、エリンさんが手に持っていたドクロのような装飾のついたピンを取り落とした。
僕はそれを拾い上げて、エリンさんの顔を見る。
するとエリンさんの表情は、なぜだか真っ青だった。
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