託された思い
エリシアが力を使おうとしていた時よりもかなり強い光を、お義父さんの瞳は放っていた。
「…これは…?」
強すぎる光に、私は目を細める。
そんな私に、お義父さんは不穏な言葉を掛けた。
『そろそろ…限界らしい』
「げん…かい…?」
『シルヴィ、私はもう寿命なのだ。竜王は、死期が近くなると、一時的にだけ力が倍以上にも増強される。その結果、このように何か一つの生物以外の時を止めることができる。これは本来、そのメダルを人間に渡す最後の機会として使われていたらしいな。もう少し…お前とゆっくり話せると思っていたのだが…』
お義父さんは、変わらない優し気な瞳を、私に向けたままでそう言った。
…お義父さんが…死んじゃう…?
折角再会できたのに…そんな…。
そう思うと、身体中の力がなにかに吸い取られるかのように抜けてしまう。
そんな感覚を振り払い、私はお義父さんの側に駆けよって、お義父さんの大きな頭に抱き付いた。
『シルヴィ。私には、子供も居なければ妻も居ない。親もとっくに死んでしまっていた。お前だけが、私の家族のような存在だった。千年以上も生きてきた私の記憶の中で、お前と過ごした七年という短い時間は、一番色濃く残っている。…私は、種族は違えどお前を本当の子のように、お前を愛していたよ』
「……」
お義父さんのその言葉を聞いて、私の目からは、次々と涙があふれだして、止まらなくなった。
こんなんじゃ…顔をあげられない…。
そんな私の頭に、またお義父さんの大きな前足が触れた。
『大丈夫だ。お前には今、多くの仲間がいる。それを、大切にしろ』
優しいお義父さんの声を聞いて、私は涙でぐちゃぐちゃになった顔を少し上げた。
『シルヴィ、人間と、ドラゴンとの対立を止めてくれ。身勝手だが、私にはできなかったことを…お前に託す』
「…!」
溢れ出す涙は止まらなくても、私はぐっとお義父さんの金色の瞳を見つめる。
そして、掠れた声で、
「…はい…!」
とだけ返事をした。
それ以上は、何を言っていいのかもわからなかった。
お義父さんの前足は、私の頭を離れて、地面に降ろされる。
そして、その場にお義父さんは頭を横たえた。
金色の瞳が、ますます光を増していく。
一瞬、お義父さんの瞳が、苦しそうにゆがんだ。
それを見て、私はお義父さんからもらった杖を振りかざし、早口で呪文を唱える。
もう、助けられないってわかってる。
でも…それならせめて…安らかに。
本当は、怪我の治癒の魔法だけど、この魔法には痛みを抑える効果もある。
そう思ってお義父さんにかけた魔法は、いつも私が放っている治癒魔法とは全然違った。
いつもよりもはるかに強い黄緑色の光が、お義父さんの体全体を包んだのだ。
私の魔法を受けたお義父さんの苦しそうだった表情は和らいで、こちらに小さく微笑みかけた。
『ありがとうシルヴィ。これで私も安らかに逝けそうだ』
そんな風に言ったお義父さんに、私はいつものように笑いかけようとした。
後から後から 溢れてくる涙は止まらないけど、私はそれでもにっこりと笑った。
「お義父さん…ずっと、私のことを育ててくれて…ありがとう。私にとっての家族も、お義父さんだけだったわ。大好きなお義父さんに、いろんなことを教わった…。それを生かして、絶対にドラゴンと人間の争いは止めるから…だから…安心…してね…」
『…あぁ』
最後の方は、声が掠れたり、裏返ったりしてしまった。
そんな私を、お義父さんは優し気に見つめる。
その瞳の光が、もう目も開けていられないほどにまで強くなっていく。
そんな中、私はお義父さんにの前足に、両手を添えた。
次の瞬間、光に包まれた私の両手から、お義父さんの前足の鱗の感触が消える。
そして、気が付くと私はさっきまでエリシアと歩いていた森の中にいた。
「…あ……」
座り込んでいた私の膝の上には、しっかりと杖が置かれていて、さっきまでのことが夢じゃないってわかる。
「シルヴィー? 早く早く!」
そんなエリシアの声が前方から聞こえる。
本当に、お義父さんと話していた時間、エリシアの時間は止まっていたみたい…。
私はエリシアに、
「すぐに行くわ!!」
と言い放ってから、頬を伝っている涙をぬぐった。
…もう、お義父さんには二度と会えない。
だけど、お義父さんはまだ、私のことを見ていてくれているような気がしたから…。
私も、いつまでも泣いているわけにはいかない…。
「…見ていてね…お義父さん……私、必ず仲間と一緒に、ドラゴンと人間の争いを止めて見せるから…」
その場に、お義父さんは居ない。
けれど、私はお義父さんに呼びかける形で自分の気持ちを固めた。
そして走り出す。
大切な、仲間の元へと。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
今回は短くなってしまい申し訳ありません。
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