ジル=オルドランドの力
僕は儀式が行われている円形の部屋の隅で、頭を抱えてうずくまっていた。
頭が、割れるみたいに痛い。
今封印の儀式を施されているのは、僕であっても僕じゃないのに…。
早く…お願いだから早く、この夢から覚めさせてくれ…。
ずっと泣き叫んでいる赤ん坊の僕の声が耳に突き刺さって、頭に響く。
どれぐらいたっただろう。
最早座ってうずくまるのも苦しいぐらいに、強い頭痛が続く。
もう、気を失ってしまった方が楽なのに、それも許されない。
最後まで、この光景を見ろと、誰かがそう言っているんだろうか。
僕は見たくないし、思い出したくもなかった。
いつの間にか記憶の彼方に消えていた、僕の18年の人生の中の最悪の記憶。
それを、無理やり思い出させられた気分だ。
…僕は…どうしてこんなところで、昔の僕を見ているんだっけ。
それさえも、いつの間にかわからなくなっていた。
続いていた赤ん坊の泣き声が、不意に悲鳴のような声に変わる。
僕は赤ん坊の方を見ようと、倒れ伏していた体をよろよろと起こした。
すると、僕の目に飛び込んできたのは、赤ん坊の体から出る眩い光だった。
その光は、徐々に形を作り、球体へと姿を変えていった。
…あれは…。
僕の脳裏に浮かんだのは、光り輝く水晶の球体だった。
あれは、水晶なんかじゃない…。
僕の力、そのものだったんだ…。
僕は…どうして、こんなところで…こんな…夢を…。
もう一度そう考えたとき、その答えはすぐに出た。
…僕は…。
「僕は…ここにナメクジみたいにみじめにここに這いつくばるために来たわけじゃない…!」
僕の頭の中に、ヴィッタさんの言葉が、エリシアとシルヴィの激励が、ここまで一緒に来てくれたレニアとエリンさんの頼もしい姿が浮かんだ。
「僕は、ギルドの皆のために…こんな僕を仲間と認めてくれる人たちのために…!」
僕は起き上がり、震える足を一歩一歩と踏み出した。
僕の体を、皆が支えてくれている気がする。
「力を…取り戻す…!!」
おぼつかない足取りが、確かなものになる。
僕は足を早め、意図せずとも走り出した。
そして、光る球体に手を伸ばす。
「僕に…仲間を守る力を…!!」
伸ばした掌が、光る球体に触れる。
その瞬間、球体の光は激しさを増して、部屋全体を包み込んだ。
強い光の中、僕は肩に、誰かに触られたような感覚をおぼえて振り返った。
そこで僕の目に映ったのは、母さんの笑顔だった。
「よく、頑張ったわね」
そんな声が、都合の良いそんな言葉が、聞こえた気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を覚ました僕は、地下の部屋に倒れていた。
何故だか頬を伝っていた涙をぬぐうと、僕は辺りを見回そうと顔をあげた。
…なんでだろう…この部屋…すごい冷気が漂ってる…?
そう思い、暗い部屋の中で目を細める。
すると、僕のすぐそばに巨大な氷が出来上がっているのが見えた。
…何だ…これ…?
僕は首を傾げながらその氷に顔を近づけてみる。
すると、その氷の中にはたくさんのバケモノの姿があった。
「うわっ…!?」
ドスンっという無様な音を立てて、僕は尻もちをつく。
どうして、バケモノたちが氷漬けに…?
それに、こんなに冷気が漂っているとわかるのに、僕はどうしてこんな薄着で寒くないんだ…?
わからないことだらけで立ち上がり、一歩を踏み出す。
すると、ビックリするぐらい体が軽い。
今までの僕の体には、両足に鉛の球でも括りつけられていたのではないかと思うほどに。
そして一歩を踏み出した瞬間、僕の周りの地面は凍り付いた。
「え…えぇ…!?」
なにこれ…ドラゴンの時よりひどい…。
何にも考えていなくても、氷が出てしまうなんて…。
とりあえず、僕の体には力が戻ってるみたいだ。
人間の姿で氷を生成できるということが、その証拠だった。
もしかして…このバケモノたちを凍らせたのは僕…?
とにかく、この薄暗くて薄気味悪い場所から出よう…。
そう思って一歩を踏み出した瞬間、僕は自分で作り出した氷で滑ってすっ転んだ。
「いでっ…!」
この底の薄い靴じゃ、滑りやすいのかな…。
そう思って、僕は靴を脱ぎ棄てて裸足になった。
そして氷の上を歩き出すけれど、そんなに冷たくは感じなかった。
しっかりと踏みしめていけば、滑らずに楽に歩ける。
僕は軽くなった体の感覚に慣れないうちに、階段を登りきり、円形の部屋に出た。
するとそこは、バケモノだらけだった。
僕はきょろきょろと辺りを見回す。
レニアと…エリンさんは…?
二人の姿は全然見えない。
…どういうことなんだろう。
バケモノたちの体で見えない場所もある。
とにかく、この部屋を隅々まで調べてみよう。
僕はそう思うと駆けだした。
今までの僕と比べ物にならないぐらいに早く走ることができる。
「よっ…」
軽く片足で地面を蹴ると、僕の体は嘘みたいにふわっと飛び上がる。
そしてぐりんっと体を捻ると、バケモノの頭部に蹴りを食らわせる。
その瞬間、僕が蹴りつけた場所からバケモノは凍り付いた。
それを感覚のままに、拳を強く握ることで砕け散らせた。
…これは、ちょっと便利だな…。
ただ…歩くたびに僕の周りの地面が凍り付くのはどうにかしなくちゃね…。
僕でさえ滑らないように気を付けないといけないのに、一緒に戦う人が居たりしたらもう迷惑どころの騒ぎじゃないだろう。
…とりあえず…こうして一体一体倒していったんじゃ、埒が明かない。
後ろから飛び掛かってきたバケモノの頭を掴んで地面に叩きつけてから、僕は考える。
どうやって倒すのが、いつ版効率がいいか。
そう考えたとき、僕の体は自然と動く。
どうやら、僕の体は、力の使い方を覚えていたようだ。
僕は両手を広げ、体の中にある魔力を放出するつもりで腕に力を込めた。
その瞬間、部屋の中にぶわっと冷気が巻き起こり、僕が狙いを定めていたバケモノたちが全員凍り付く。
そして、僕が手を強く握った瞬間、すべての凍り付いたバケモノは砕け散った。
「…こんな感じかな…」
僕は一気に見通しが良くなった部屋の中を見回した。
すると、部屋の隅の方にエリンさんとレニアらしき人物が倒れて居るのが見えた。
「…!?」
エリンさんとレニアがやられてたなんて…そんなことが…。
走って近付いていくと、その二人は確かにレニアとエリンさんで、僕は困惑する。
「大丈夫っ!?」
僕はそう声を掛けながら二人を揺さぶる。
息をしていることは確認できたけれど、二人とも起きる気配はない。
その時、僕は強い悪寒を感じて振り返った。
するとそこには、先程まで見ていた夢に出てきていた、白髪の男が僕の目の前に立っていた。
「…誰…?」
あの夢の中の姿と、何も違いが見られない。
まるで、歳を取っていないみたいだ。
僕のその質問にはその男は答えずに、にやりと不気味に口角を釣り合あげる。
そして、ゆっくりと腕を持ち上げて、僕を通り越し、僕の後ろを指さした。
それに、僕はその男への警戒を怠らないように一瞬だけ後ろを見た。
そんな僕の目の前に迫っていたのは、短剣を振りかざしたエリンさんと、その後ろから打ち出されたレニアの拳銃の銃弾だった。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
よければ︎ブックマークなど、よろしくお願い致します。




