儀式の記憶
僕は目を覚ますと、見慣れた場所にいた。
そこには、僕が生まれ育った故郷の、僕の家の風景がある。
先日のドラゴンの結界維持装置の破壊のせいで、僕の村は、そして僕の家は燃え尽きてしまったはずだ。
それなのに、ここは昔僕が住んでいた村そのもの。
…これは…夢…?
僕はそんな風に思いながら辺りを見回してから、起き上がった。
僕が寝転がっていたのは、いつも僕が使っていた寝台だった。
…もしかして…ギルドに入って…いろんな人たちと出会って…それ自体が…夢…?
一体何が現実なのか、僕は正直よくわからなくなっていた。
とりあえず僕は寝台から降りて、その家の外に出てみようとする。
家の扉に、僕が手を掛けた瞬間扉が外から押し開けられて、眼前に扉が迫った。
「えっ…!?」
ぶつかる…!!
そう思い、表情を歪めたが、扉は僕にぶつかることはなく、すっと僕の体をすり抜けていった。
「……え……?」
今何が…?
僕の体を、扉がすり抜けた…?
僕は幽霊だとでもいうのか?
だが、そんな風に思っていた僕がさらに困惑する事態が起こる。
扉を押し開けて家に入ってきたのは、まぎれもなく、僕の母さんだった。
僕の記憶の中に居る母さんよりも若い気もするが、優し気な表情は僕の記憶の中の母さんと一緒だった。
「…母さん…?」
僕がそう呼びかけても、母さんは反応しなかった。
僕の横をすり抜けて、小さな寝台のほうに向かう。
…あれって…僕が小さい頃にあった、僕の寝台だ…。
その小さな寝台に、布で包むようにしてから負ぶっていた何かを、母さんは寝かせた。
それを見ようと、僕はいそいそと近付いて行ってみる。
すると、そこに寝かされていたのは、幼い赤ちゃんだった。
寝台に寝かされて不安になったのか、その赤ちゃんは鳴き声を上げ始める。
それを、母さんは慌てて持ち上げた。
「よしよし、大丈夫よ、ジル」
そんな風に、母さんは優しく赤ちゃんを揺すった。
揺すられている赤ちゃんの手から、小さな氷のようなものが作られては地面に落ちていく。
…ジル…。
あれが、僕…?
僕は、昔の光景を見ているのか…?
でも…レニアに言われた通りだ。
赤ん坊の僕の髪は、まだ生えそろっていないにしても黒い。
白い毛など、一本も生えていなかった。
僕は…生まれたときからこんな髪じゃなかったのか…。
視界に入った白い髪を、僕は手で払った。
それから僕はしばらく、赤ん坊の時の僕をあやす母さんのことをぼーっと見ていた。
…母さんが死んだ直後は、もう会えないのかって泣いたものだったけど…。
こうしてもう一度、動いている母さんを見ると、変な感じがする。
こうして僕は母さんの姿が見えても、母さんから僕の姿が見えないんじゃ、会えても意味がないし…。
それに、今会ったところで僕は母さんに甘えたいわけじゃない。
「…あんなに幸せそうな母さんを、僕が殺したんだ…」
僕はそう、自分を戒めるかのようにつぶやいた。
その瞬間、僕の目の前にあった風景が、ぼろぼろと崩れ落ち始めた。
…なにが起こってるんだ…?
僕がきょろきょろと辺りを見回している間に、風景は崩れ去り、真っ暗な空間に、僕は一人取り残された。
そして次の瞬間、新しい風景が僕の周りに広がり始める。
…ここは…。
村のはずれにあった、白の教会…。
ここにも、あのバケモノたちが居たのか…。
よく変な噂が立たなかったな…。
僕がそう思いながら建物を見上げていると、その建物の大きな扉の前に、白い外套を羽織った白髪の男と、母さんがやってきた。
母さんは、赤ん坊の僕を連れて、不安そうな表情をしている。
…あいつは、バケモノじゃないのかな…?
だって、目は光っていないし、つぎはぎでもない。
「本当に、ジルは呪われているのですか?」
母さんが、そんな風に白い髪の男に聞く。
すると、その男は口を開いた。
「えぇ、赤ん坊のうちから、意図せずとも氷を生成する魔法を使ってしまっている。このように魔力を放出し続けては、必ず近いうちに命を落とします」
「そんな…」
「それを抑えるための儀式を行って差し上げますから。そんなに心配なさらないでください」
白い髪の男は、そう言いながら教会の扉を押し開けて、母さんを招き入れる。
「ようこそ、白の教会へ」
そんな風に言った男に、母さんはついて行った。
大きな扉は、バタンと大きな音を立てて閉まった。
僕はどうしようかと一瞬考えてから、恐る恐る扉に手を伸ばした。
すると、僕の指先は、いとも簡単に分厚い扉をすり抜ける。
それを確認してから、僕は一思いに扉の内側に飛び込んだ。
飛び込んでから固く瞑っていた目を開くと、長い廊下の先の方に、白髪の男と、母さんの姿が見えた。
僕は、それを追いかけて走っていった。
…ここで…その儀式とやらをされて、僕の力は封印された、そう見ていいようだ。
だけど…神の直下の部隊である白の教会に、普通の人間が居るなんて…。
そんなこともあるんだ…。
神を崇拝している人なんだろうか。
…この光景を、最後まで見届ければわかるのかもしれない。
白髪の男が母さんのことを案内した場所は、円形の大きな部屋だった。
部屋を縁取るように椅子がたくさん並べられていて、その中央には寝台が一つ、置かれている。
「では、儀式を始めましょう。赤ん坊を、その台において…あなたは、外側の椅子へ」
その白髪の男の言葉に、母さんは不安そうな表情をしたが、素直に従った。
赤ん坊の僕は、中央の寝台に寝かされる。
そんな僕を囲むように、どこからともなく現れた白い外套とフードに身を包んで杖を持った八人の人物が僕を取り囲む。
いくら近付いても、僕にはそのフードの中は見えなかった。
…儀式を行っているのもバケモノなのか…それとも、生身の人間なのか…。
それだけでも、確認しておきたかったのに…。
僕がそう思った瞬間、八人の人物が、持っていた杖を掲げ、なにやら呪文を詠唱し始めた。
その杖が、不気味な紫色の光を放ちだす。
「……あ……」
覚えてる…この光景…。
怖い、痛い、嫌だ。
赤ん坊ながら、ずっとそんな風に思っていたのを覚えてる。
僕の中に、その儀式の恐怖がよみがえってきた。
…忘れていたはずの、封印の恐怖が。
体の中から何かを抜き取られるような、喪失感が。
最後まで読んで下さりありがとうございました!
良ければブックマークなど、よろしくお願い致します!




