光り輝く水晶
僕たちはその部屋の中の光景を見て唖然とした。
「なっ…」
「どうしてこの場所にだけ…」
「多分…ですが、ここに何か、あたいたちに触れられたくないものがあるんじゃないです?」
エリンさんの言葉に、僕とレニアは顔を見合わせる。
…もしも、ここに僕の力が封印されているという地下に行ける通路があるんだとしても、こんなにあからさまな配置をするだろうか…。
「…あからさますぎやしないか、と思っているだろう」
僕の横で、レニアがそう呟くように言う。
それに僕が小さく頷くと、レニアは一瞬視線をこちらに向けた。
「それだけ、なめられているんじゃないか? お前たちでは、この場所も突破することができないだろうと」
そう言いながら、レニアは二丁拳銃を構える。
「それは…ちょっと心外です」
エリンさんも、むっとしたように目を細め、両手で短剣を構えた。
「ジル=オルドランド」
「…なに?」
二人が戦闘モードになり、バケモノたちが一斉にこちらに向かって押し寄せてくる。
「お前は敵には構わず通路を探せ」
「えっ…!? 無茶だよ! この数を二人で相手にするなんて!!」
「うるさい。お前が力を取り戻すことに専念できるように援護しろと、マスターから命令されてるんだ」
「そうです! そのためのあたいたちですから!」
「で…でも…」
「大体。お前は今ドラゴンの姿になれないんだろう? 足手まといだ。大人しく通路を探せ」
レニアはそう冷たく言い放つと、バケモノの方に駆けだした。
それに、エリンさんも続く。
二人が通ったところのバケモノが、すごい速さで一掃されていく。
危なげもなく一体一体確実に倒していく二人の動きに、僕は一瞬見惚れてしまった。
…二人とも…本当にすごいな…。
二人が敵を引き付けてくれているうちに、僕は僕で、やることをやらないと…!
僕は入った部屋の内部を見回す。
そこは、ただの部屋…というよりは、何か儀式をする広間のように見えた。
だだっ円形の広い部屋に、高い天井、そして、部屋の外側を縁取るように用意された椅子…。
そして、部屋の中央には寝台のようなものが置かれていた。
その寝台には、白い布が一枚かけられているだけで…。
それを見ると、なんだか胸騒ぎがした。
…あれを…僕は知ってる…?
僕はその寝台が気になって、無意識に足をそちらに向けていた。
バケモノたちの間を縫うようにして走り、その寝台に駆け寄ろうとする。
「あ``ぁぁぁぁぁぁ!!!」
そんな時、すぐ側から大きな声が上がる。
…!
いつの間に…こんなに近くに…!
僕は身を翻してバケモノの首辺りを蹴りつける。
けれど、バケモノはビクともしない。
蹴りつけた僕の足を掴んだかと思うと、バケモノは口を大きく開いた。
「ま…まさか…」
エリシアと初めて会った時も食われると思ったけど…。
本当に食われる時が来るなんて…!
僕が目を固く瞑った瞬間、僕の足を掴むバケモノの力が緩んだ。
僕は慌てて目を開け、バケモノから離れようとする。
すると、そのバケモノの額には、綺麗に短剣が刺さっていて、そのまま倒れ伏して動かなくなった。
…もしかしてこれ、エリンさんの…。
僕がそう思い、短剣に手を伸ばそうとしたとき、僕の横から、何かがすごい勢いで飛び出してきた。
僕が、それがエリンさんに蹴りつけられたバケモノだということに気付くのに、数秒かかった。
そして、今度はエリンさん自身が飛び出してきたと思うと、バケモノの額に刺さった短剣を引き抜き、蹴り飛ばされて倒れているバケモノの頭に突き刺した。
「ジルくん!! 大丈夫です!?」
エリンさんはそう僕に言いながら、短剣をもう1度バケモノの頭から引き抜いた。
「だ…大丈夫デス…」
ちょっとだけ、食われて死ぬかと思ったけど…。
「おい、グズのろま!」
「ぐっ…!?」
すーごい悪口が飛んできたんだけど…。
「エリンの足を引っ張るな!」
「す…すいません…」
僕にクズのろまという言葉を投げつけてきた本人であるレニアの方を見ると、レニアは二丁拳銃で次々とバケモノを倒していっていた。
近づく必要がないぶん、エリンさんよりも効率がいいようだ。
それにしても…なんて的確な狙いなんだ…。
僕が視線をレニアに向けている間にも、もう十発ほど撃っているが、百発百中だ。
ここは、二人に任せておいて大丈夫だろう。
とにかく僕は、地下への通路を探さなくちゃ…!
とにかく…あの寝台のところへ…!
そう思いながら、僕は駆け出す。
バケモノ達の手を掻い潜り、僕は部屋の中央に位置する寝台まで到達する。
見えてるのに相当遠かった…。
バケモノたちに何度も邪魔されそうになったからだけど…。
僕は少しほっとして、手を寝台についた。
その瞬間、酷い眩暈がしてその場に膝をついた。
グラグラと揺れる視界の中でおかしな光景が見えた。
母さんが居る…。
僕は…寝台の上にいて…母さんはこっちを見ている。
心配そうに…見てる…。
「おい!」
レニアに襟首を掴まれて揺らされ、僕ははっと我に返った。
「どうした!?」
「い…いや、ごめん…目眩がしただけ…」
「……この寝台の下…空気が流れ込んでるな」
そんなレニアの言葉を聞いて、僕もはっとする。
…ここか…!!
僕は力いっぱい寝台を押す。
すると、寝台はずるずると横にずれ、その下に階段のようなものが現れた。
「…あった…!!」
「行け! ジル=オルドランド!!」
「二人で大丈夫…?」
「大丈夫です! 必ず援護の命令を果たして見せますです!」
エリンさんは少し遠目からこちらに向かって親指を立てた。
それを見て、僕はエリンさんに頷く。
そして、レニアの肩をそっと叩いてから僕は狭い階段へと飛び込んだ。
階段は暗く、狭く、そしてとても長いようだった。
下に降りていくにつれて、闇が濃くなっていく。
…目が慣れるまで…何も見えなさそうだ…。
とりあえずは、階段から転げ落ちないようにしないと…。
そう思いながら、どんどんと階段を下っていく。
階段の暗さに、目も慣れてきたころ…僕は一つの扉に突き当たった。
その扉を押し開けると、そこにはいくつかの丸い水晶のようなものが置かれていた。
「…なんだ…これ…?」
僕が不思議に思って近づいていくと、一つの水晶が眩い光を放ち始めた。
ほかのどの水晶よりも巨大なそれは、僕が来たことを喜んでいるかのように光り続ける。
僕は、そんな水晶に無意識に手を伸ばした。
そして僕の手が水晶に触れる寸前、後ろから体を強く引っ張られた。
「え…!?」
僕が驚いて後ろを振り返ると、そこには数体のバケモノが立っており、階段からも溢れんばかりの黄色い目をしたバケモノが押し寄せてきていた。
「なっ…!」
こいつら、いつの間に…!
というか、レニアたちは…!?
考えても、答えは出てこない。
けれど、ここにこんなに大量のバケモノがなだれ込んできているというのは…。
もしかしたら、レニアたちは…。
僕は嫌な予感を振り払い、バケモノに掴まれた腕を強く引いた。
掴まれていた腕が離れたのを確認して、僕は水晶の方へと駆け出す。
けれど、またすぐにバケモノたちに体を掴まれてしまう。
そんな状況でも、何故だか今、バケモノたちは噛み付いてこなかった。
身をよじって、もがいて、必死に水晶に手を伸ばす。
そして僕の指先が、光り輝く水晶に少し触れた瞬間、僕の意識は暗闇へと落ちていった。
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