突撃前夜
マスターは、とあるギルド本部の一室に僕とシルヴィとエリシアを招き入れると、扉を閉めるように促した。
「…」
「……」
マスターは部屋の中にある椅子に腰掛けて、こちらを見る。
そして、少し間を置いたあと不意に僕の名を呼んだ。
「ジル=オルドランド」
「はい…」
急に名前を呼ばれたことで、僕は驚いて顔を上げた。
「お主はレニアやヴィッタから話を聞いていてわかると思うが…今回、ヴィッタを襲ったのは、神の部隊の連中だ」
「…そう…なんですか…」
シルヴィとエリシアは僕のすぐ横で不思議そうな顔をしているが、この二人に詳しいことを話すのは僕の口からでは難しそうな気もする。
「けど…ヴィッタさんよりも強い白の教会の人がいるとも思えないんですけど…」
僕が、そういうと、マスターは表情をゆがめた。
「あぁ…わしもそう思っていた。しかし…神は卑怯な手段を使ってきた」
マスターのその言葉で、僕には思い当たる節があった。
「まさか…ヴィッタさんの家族を…?」
「……そうだ」
…神は、ヴィッタさんの家族を使ってヴィッタさんを殺そうとしたのか…。
確かに、神にとってはヴィッタさんが一番邪魔な存在なのかもしれない。
そんなことがあった後なのに…あんな風にいつも通りに笑っていたのか…。
僕は、ヴィッタさんの心の強さに、関心を通り越して尊敬を覚えた。
「いよいよ、本格的に神はこちらを潰すつもりらしい。資料を持ち出したレニアとマアヤ、神についての情報を集め続けたヴィッタ。そして、封印対象でありながら、神に逆らおうとしている三名との関わりをもつ、ジル。おぬし等が、神が消そうとしている人物の対象となっている」
「…」
神から消されるかもしれない、なんて、そんな風に思っても、僕は別に怖くなかった。
神を倒すのは、人間たちとドラゴンたちとの争いを止める為の準備でしかない。
僕はきっと、女神から与えられた使命を達成させてみせる。
「それで…白の教会への襲撃はどうするんですか?」
僕はそう、マスターに問いかけた。
ヴィッタさんとレニアは、もう少し情報を集めてからだと、そう言っていた。
でも、もうそんな悠長なことも言っていられなさそうだ。
僕と視線を合わせたマスターは、真剣な表情で僕を見つめ、そして口を開いた。
「作戦決行は明日の夕方。各地を飛び回らせているレニアとマアヤも呼び戻そう。掴まねばならなかった情報は、お主の力が封印されている詳しい位置情報だった。ヴィッタは大体の場所は突き止めてあると言っていた。そこまで詳しい場所はわからないのかもしれないが、聞いていくといいだろう」
「…わかりました」
「それから、ヴィッタがお主と共にいけなくなったことで、だいぶ戦力が削がれた。エリシア=ストレイン」
「なぁに?」
「お主が連れてきた竜の一族の族長たちにも協力し貰いたい。わしのみで説得が難しい時にはお主に協力を願う」
「うん…? よくわかんないけど、わかったよ」
…わかんないのにわかったって…。
そんな反応になるのも無理はない。
エリシアもシルヴィも、今マスターと僕が話している内容がなんなのか、殆どわかっていないはずだ。
「わしがお主らに伝えたいことは以上だ。ジル=オルドランドは明日に備えて少し休め。それからエリシア=ストレインとシルヴィ=ケルディアは今の状況を説明する。少しの間、この場所に残れ」
マスターは、そんな風に言うと、僕に向かってだけ、もう行けというように手を振った。
そんなマスターに、僕は小さく頭を下げてから部屋をでた。
その後一人になった僕は、ゼアスさんがヴィッタさんを連れて行ったはずの、救護室に向かった。
中に入ろうと扉に手をかけた瞬間、その内側からヴィッタさんの叫び声が聞こえた。
「っ…!?」
まさか…!
また白の教会の奴らが…!?
僕がそう思って扉を押し開けると、そこには上半身裸になってガーゼを押し当てられているヴィッタさんの姿と、あきれ顔のゼアスさんの姿があった。
「い…痛いよゼアス! この下手くそ!」
「あぁん!? こんなん誰がやってもいてぇもんなんだよ!」
「マアヤなら痛くない」
「マアヤのは魔法だろうが。救急箱の道具とはわけが違うんだよ!」
「あーあ、君が治癒魔法を使いこなせるほど器用ならなぁ」
「使えるぞ」
「使えるのと使いこなせるのは意味合いは全然違うからね」
「うるせぇ奴だな…」
カチンときたというような表情で、ゼアスさんがガーゼをヴィッタさんの体に押し付けた。
その瞬間、またヴィッタさんから短い悲鳴が上がる。
「いっ…たい!!」
条件反射的にか、意図的にかわからないが、悲鳴を上げたヴィッタさんの手が思い切りゼアスさんの頬を殴った。
「いってぇ、てめぇ何しやがる!」
「そっちこそ! 手当てが雑過ぎだよ!」
今にも喧嘩が始まりそうな大人の男二人の間に、僕は仕方なく割って入った。
「あ…あの…」
「あぁん!?」
「なに!」
今にも殴ってきそうな剣幕で振り向かれたら、こちらとしても困るんだけど…。
「あぁ、なんだジルか。どうした?」
ゼアスさんは僕の姿を見るとため息混じりに聞いてきた。
僕が入ってきていたことに全く気づいていなかったんだろうか。
それはそれで、すごい集中力だ。
いや、集中力と言えるかどうかは定かではないけど。
「ヴィッタさんに、聞きたいことがあって…」
「あぁ、調査についてだろう? まだ詳しい場所は掴めていないんだ。だけど、君の力が封印されているのは、レデルソンの側にある白の教会で間違えない」
「…何の話だ…? 力とか、封印とかって…」
「ちょーっと脳筋魔道士は黙っててくれるかな」
「んだと!?」
にっこりとゼアスさんに笑いかけながら、ヴィッタさんがそんな酷いあだ名でゼアスを呼んだ。
…あぁ、ゼアスさんって、結構いじられキャラなんだなぁ…。
そんな風に、僕はそのふたりを見ながら密かに思った。
「それから、この間からもう一つ調べがついたことがあってね、君の力が封印されている場所は、レデルソンの白の協会の地下だ」
「…地下…?」
「うん、だけど、地下のどの辺にあるのか。それから、地下へどうやっていくのかも不明なままなんだ」
「階段とかではないんですか…?」
僕がそうヴィッタさんに問いかければ、ヴィッタさんは首を横に振った。
「一度内部に潜入してみたものの、そんなものは無かった。どこか、隠し通路があるのかもしれないね」
隠し通路…か…。
敵地に乗り込んで悠長に隠し通路を探す時間があるかと問われれば、それは否だ。
けれど、やらなければならないらしい。
それには、表から思い切り突っ込まない方がいいけれど…どこから入ったらいいのかも、建物の内部の構造も、よくわからない。
そう思っている僕に、ヴィッタさんはニコリと笑って一枚の髪を差し出した。
「…?」
僕がそれを受け取って覗き込むと、それは白の教会内部のことが事細かに書かれた資料だった。
「これは…」
「私が見たものを全てレインに言って図にしてもらった。潜入経路も完璧だ。けど、地下に行く道だけは自分で見つけてね。」
そう言いながら、ヴィッタさんは少しよろけながらも立ち上がり、僕の肩に手を置いた。
「私は今回は行けないけど…次に神に一矢報いる時は必ず行くから。頼んだよ」
そう僕に言ったヴィッタさんの表情は真剣で、そして悔しさに満ちていた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
よければブックマークなど、よろしくお願い致します。




