削がれる戦力
やっとのことでギルド支部からギルド本部まで転送装置を使ってとんだ時には、もう辺りは暗くなっていた。
エリシアはまだ元気いっぱいだが、僕とシルヴィには疲れが見え始め、ゼアスさんに至ってはもう一歩も動きたくないといった面持ちだ。
転送装置のある部屋から出て、ギルドの本部の建物の中に入ると、ギルドの中には異様な緊張感が立ち込めていた。
不安そうなざわつきが、ギルド内のあちこちで続いている。
それに、いつもよりもギルド本部内に居る冒険者の数が多い気がする…。
…何かあったのかな…。
そう思うも、周りを見回しても知っている人は居なくて、聞くに聞けなかった。
他の三人も、いつもと違う空気に気付いたのか、怪訝そうに辺りを見回している。
「…俺は親父のとこに行ってくる。お前たちは少し待っててくれ」
「ううん…ゼアスおじさん、あれ見て…」
「おじさんじゃねぇ…」
ゼアスさんが、エリシアの言葉にお決まりの反応を返しながら、エリシアが視線を向けている方向に視線を向けた。
それにつられて、僕もシルヴィも視線をそちらに向ける。
すると、人ごみの向こう側、誰かが床に倒れているのが見えた。
誰が倒れているのかはわからないが、その倒れている人の横に、マスターが屈みこんでいた。
「行ってみよう」
そんな風に、ゼアスさんは小さな声で呟くように言った。
ゼアスさんらしくない、神妙な面持ちだった。
そちらの方へ人混みをかき分けながら歩いていくと、その人物の正体に気づいた。
少し癖のある黒髪に、柔らかな笑顔のその人は、この冒険者ギルドのNo.1と言われているヴィッタさんだった。
ヴィッタさんは体のあちこちに怪我をしていて、服に血が滲んでいる。
にも関わらず、本人は至って冷静…。
というか、痛みを感じていないのかと言うぐらいにいつも通りだ。
「ヴィッタ!?」
ゼアスさんがそう声を上げて駆け寄ると、ヴィッタさんはいつも通りの爽やかな笑顔をゼアスさんに向ける。
「やぁ、ゼアス」
「やぁ、じゃねぇよ!? どうしたんだよその傷…まさか転んでついたんじゃねぇだろうな」
「嫌だな。私がこんなになるまで転びまくると思ってるのかい?」
「あぁ、お前ならありえるからな」
「あはは、酷いなぁ。私だってそこまで馬鹿じゃないよ」
「…そうか…?」
「なんで疑問形なのかな?」
「んで、誰にやられたんだ」
ゼアスさんがぐっと目を細めて、真剣に聞く。
それを、ヴィッタさんはにこにことしながら軽く流す。
「さぁー…誰だろうねぇ…」
「おいヴィッタ、お前真面目に…」
「ええい五月蝿い!」
今まで静かにヴィッタさんの傍らで何やら呪文を唱えていたマスターが、急にそんな声を上げ、ヴィッタさんとゼアスさんを含め、周りでヴィッタさんの怪我の容態を見守っていた冒険者の人たちも驚いたようにマスターに注目した。
「…まさか親父、治癒魔法をやろうとしてたのか? 苦手なくせに…」
「お主ほどではないわ」
「あはは、マスター。私の傷、治らないでしょう」
「…むぅ…」
「なんだ、親父にできねぇのか。マアヤが居ねぇなら、俺がやってやろうか」
そんなゼアスさんの言葉に、ヴィッタさんは引き気味で言葉を紡ぐ。
「うわぁ…やめてくれない? ゼアスの治癒魔法とか下手くそすぎて怪我した時より痛いんだもん」
「うるせぇな、しょうがねぇだろ専門外なんだよ」
「ゼアスは魔物を消し飛ばすことしか出来ない脳筋魔導師だもんねぇ」
「てめぇ、言い方他にねぇのかよ」
ゼアスさんとヴィッタさんの状況に合っていない間の抜けた会話の中、マスターは立ち上がった。
「ヴィッタ、自身でわかっているだろうが、お主の怪我は恐らく普通の治癒魔法では治らない」
「うん、そうだね。奴ら、神の魔力を纏ってる」
「暫くは絶対安静だ」
「えぇー…」
「いいな」
マスターはそう念を押すように言葉を紡いだ。
それに、一瞬不満そうな顔をしたヴィッタさんだったが、すぐに爽やかな笑顔に戻り、よろよろと立ち上がりながらマスターに言った。
「いいけど、多分すぐに普通に動けるようになるよ」
「怪我を押して動き始めたらレインに斬らせる」
「えぇ、それは散々だなぁ」
ヴィッタさんはそう言っておかしそうに笑いながら、歩き出す。
それを、ゼアスさんが横から支えた。
「あれ、ゼアス。優しいね」
「まだ誰にやられたのか聞いてねぇからな」
「え〜怪我人に尋問するつもり? さいってー」
「怪我人なら怪我人らしく、ちょっとは弱ったフリでもしやがれ」
「したらしたで面倒くさがるくせに」
去っていくゼアスさんとヴィッタさんを見送って、残された僕とシルヴィ、エリシアはマスターを見つめる。
一方で、周りにいる冒険者たちはヴィッタさんが無事…ではないが、そこまでの重症ではないのだと思ったのか、その場から散っていった。
…正直、それはヴィッタさんの態度のおかげだと思う。
いつもと同じように笑って、冗談を言う。
それのおかげで、大体の冒険者たちは安心したみたいだ。
だけど…。
多分、その態度は演技だ。
ギルドのNo.1の冒険者であるヴィッタさんが弱っている姿を見せてしまったら、ギルドの大半の冒険者が不安になってしまうだろう。
それを防ぐために、無理して普段通りの態度をとっていた…僕には、そんな風に見えた。
僕達の視線に気づいたのか、マスターは顔を上げると、小さく僕達に手招きをし、ゆったりとした足取りで歩き始めた。
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