ヘタレドラゴンと女神
僕は、気づいたらまた真っ白い空間に立っていた。
「あれ…ここは…」
女神かもしれない女の人と話した場所だ…。
未だにあの人が女神なのか、はっきりと確認は取れていないから、なんとなくかもしれないを付けているけど…闇竜の族長の話を聞いた限りでは、あの人が女神という可能性が相当高そうなんだよね…。
僕はそう思いながら辺りを見回してみるけど、まだあの女の人の姿は見えない。
…どこに居るんだろう…。
「上だ」
急にそんな可愛らしい声が聞こえて、僕は間抜け面で口を開けながら上を見上げた。
「上…ぇぇぇ…!?」
上を見上げると、そこには完全に頭が下で足が上を向いた状態、つまり逆さまな状態で、女神かもしれない女の人が立っていた。
「なっ…何してるんですか…!?」
「…」
女神かもしれない女の人は、僕の問いかけには答えずに、とっと軽い音を立てて僕が立っている方の地面に着地した。
「段々と、自分のことがわかってきたようだな」
えええ…?
今の何事もなかったかのように始めるの…?
今相当インパクト強かったけど…。
「あなたの今の体は、私が作ったもの。その闇竜の推測は正しい」
「…えっと…じゃあ、あなたは女神なんですか…?」
相当なインパクトのある登場で呆気をとられて質問したいことを忘れてしまうところだった。
「あぁ…そんな風に呼ばれることもあったな」
本当に…この女の人が女神…。
それがわかったところで、何かが変わるわけじゃないんだけどね…。
ともかく…もし女神に会うことができたら、聞きたいと思っていたことがあったんだ。
「あの…今日入った霧が深い森の中に居るとドラゴンの姿になれなかったんですけど…それって何か、理由があったんですか…?」
僕がそう問いかけると、女神はちらりと視線を僕に向けた。
「あの森は、神と呼ばれている人間の力が強くかかっていた。人間の世界に出ていけない私の力では、奴の力が強いところでは器を発現させることができない」
「…じゃあ…人化の僕の姿は、ドラゴンの器とは違うんですか…?」
「…」
「……?」
僕がそう問いかけると、女神はむっとしたように黙り込んだ。
「あ…あの…?」
「あなたは本当に質問ばかりだな」
「いやいやいや…僕みたいな立場になって何も質問しない人は異常だと思いますけど…」
「違う」
「…え…?」
「だから、ドラゴンの時の姿と、人間の姿の時とでは、器の質が違うと言っている」
…い…今の、質問の答えだったのか…。
なんか…女神って、こんなに話しづらい人だったっけ…?
今まではほとんど質問もできてなかったから気づかなかっただけなのかな…。
「違うって…どう違うんですか…?」
「ドラゴンの姿の時のあなたの器は、私が一から作り出したものだ。だが、人間の姿の時の器は、あなた自身から型を取って作り上げた器。あなたの魂も、そちらの体の方が癒着しやすいのだ」
「…だから…女神様の力が届きにくいところでは、僕は人間の姿にしかなれなかったってわけですね…」
どちらにしても、今の僕のこの人間の姿は、前と同じように見えて違うようだ。
それはそうか…僕は死んだってことを、前に女神様も認めていた。
元々の僕の体は、もうなくなってしまっているのだろう。
「そうだ」
「あの…それともう一つ聞きたいんですけど…」
「なんだ?」
「僕の力は、神によって封印されてしまっているようなんです。それを…取り戻しに行きたいんですけど…」
「あぁ、行くといい」
行くといいって…散歩に行くみたいな軽さで言わないでほしい。
あのバケモノたちが闊歩しているような場所に殴りこむんだよ…?
「それでその…僕がその力を手に入れられたとして…この人間の姿の器で力がちゃんと戻るんでしょうか…?」
「…あなたは、私を馬鹿にしているのか?」
「え…えぇ…?」
なんでそうなったのかな…。
微塵も馬鹿にした気はないんだけど…。
「あなたの体は、元々のこのあなたの体を真似て完璧に作ってある。力を戻すぐらい、造作もない」
「…この…?」
女神の口ぶりが気になって、僕は視線をそちらに向けた。
すると、女神の手の上に小さな肌色の何かが浮いているのが見える。
なんだ…?
あれ…。
そう僕が目を凝らすと、それは人の形をしていて…。
「え…ぼ…僕…?」
女神の手の上に浮いていたのは、僕にそっくりな姿をした小さなものだった。
「これは、元のあなたの体」
「…え……え…?」
「傷も修復はしたが、心臓の修復には時間がかかってな。まだ使い物にはならないし、丁度いいからあなたには私の作ったドラゴンの器と、元の体に似せた器を使ってもらっている」
「あ…あの…僕は、もし仮に使命を達成できたら、その時はどうなるんでしょうか…?」
「元の体に戻してやる」
「…え…?」
「元の体に戻し、元の家のあった場所に帰してやる。ただ…心臓の復元には時間がかかる。私にとっては長くも感じないような時間だが、あなたたち人間にとっては、多少長く感じるかもしれないな」
闇竜の族長から聞いていた話とは違う…。
僕は…消えるんじゃなかったのか…。
「それって…どれぐらい掛かるんですか…?」
「短くても100年。長ければ1000年はかかる」
…そんなに…かかるのか…。
もしかしたら…使命を達成できた後…平和になった人間の世界に、僕も居られるかもしれないと、そう思った。
皆と笑い合いながら、また仕事ができるのかと思った。
でも…その平和な世界に僕が戻ってこられるのは、僕のことを知っている人やドラゴンが、みんな居なくなった後かもしれないということか…。
そうしたら…また、独りぼっち…。
…いや、今はもっと、他に心配すべきことがあるってこともわかってる。
でも…でも。
一人になるのが怖いだなんて…。
ずっと、今まで生きてきて、一人だったのに…。
おかしいな…。
「あなた自身が、私と初めて会った時から随分と変わってきているのは感じている。だが、私があなたに臨むのは、友達ごっこで得た成果などではないぞ」
「…」
女神の言葉で、僕はぐっと唇を噛んだ。
…女神が僕に望むことは…友達を見つける事でも、僕が力を取り戻すことでも、神と言われている人間を倒すことでもない。
ひとえに、ドラゴンと人間との戦争を食い止めること…それだけだ…。
「あなたは失敗すれば死に、そして成功すれば元の生活に戻ることができる。私が与えた器で行動しているときに出会った人間とずっと一緒には居られないだろうと、私は最初にあなたに話し、あなたはそれを承諾し、ここに来た。まぁ、その時の記憶はないだろうが」
…僕が…女神とそんな話を…全く記憶にないんだけど…。
「ジル=オルドランド。私は、あなたが失敗して死に、人間がドラゴンに滅ぼされようとそれはどうでもいい。それが運命だったのだと、そう思うだけだ。けれど、私にもプライドがある。あなたは私に選ばれた。選んだ私に、恥をかかせてくれるな」
女神がそこまで言うと、女神の姿は薄れ始める。
と、同時に、僕の瞼もどんどんと重くなっていく。
僕は、今回はそれに抗わず、ゆっくりと目を閉じた。
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