バケモノたちの狙い
僕は、再び怪しげな霧深い森の入り口にドラゴンの姿で立っていた。
…さっき来たときは、なぜか途中でドラゴンの姿になることができなかった。
なら…初めからドラゴンの姿で入ってみよう。
…必ず、あのヴィンっていう犬は連れ帰る。
またあの子を悲しませたくないし、最初に見つけて捕まえてくれたエリシアとゼアスさんの苦労が無駄になってしまうのということもできる限り避けたい。
僕は気合を入れなおして、一匹で森の中へと一歩を踏み出した。
中に入っていくにつれて、霧は深くなり、前方が見えなくなってくる。
そんな時だった。
何故か僕の体が光だし、人間の姿を想像していないのに人化をしてしまった。
「…やっぱり…この森の中ではドラゴンになることができないってことなのか…」
それなら、と、僕は一度森の外に出て、ドラゴンの姿になる。
ここから森ごと凍らせることもできるけど…そうするとヴィンの命の保証はなくなってしまう。
そんなことでヴィンが死んでしまったら、ただ居なくなっただけより尚悪い。
…やっぱり、人間の姿でこの森の中に入るしかないようだ。
僕はドラゴンの姿で、氷で器用に箱のようなものを作り出す。
そして、その箱の中に居れるための、鋭利な形をした氷をいくつも作りだした。
『よし…』
そこまでやってから、僕は人間の姿になり、氷の箱の中に、鋭利な氷の塊をいくつも入れて、それに腰の布を巻きつけて固定し、腰から下げた。
「…じゃあ…行こうか…。ヴィンを返してもらいに…」
強い風が吹き、僕の真っ白な髪がなびく。
少しだけ霧が晴れたのを感じた僕は、地面を蹴って森の中に入った。
「…どこに居るんだろう…」
足跡でも残ってればよかったのに、地面の上に深く枯葉が積もって、しかも未だに木から枯葉が降り続けている状態だから、それすらも全く見えない。
…。
とにかく僕は、無心で森の奥へ奥へと進んでいった。
奥に進むにつれて、霧が際限なく深くなっていくような感じすらする。
…本当に、手を伸ばした先ですらぼやけてしまうような深い霧だ…。
こんな中じゃ、ヴィンを見つけるのは難しいかもしれない。
でも…この森は木も密集してるから、ドラゴンの姿になって上空から探すというのも出来なさそうだ。
「困ったな…」
「何二困っテるんダ?」
そんな声が僕の真後ろから聞こえ、背筋がぞっとする。
この話し方は…!
急いで後ろを向くと、そこには白い外套を身にまとい、白いフードを被った人物が立っていた。
フードの下で、緑色の瞳が怪しく光る。
あれだけ倒したのに…やっぱりまだまだ居るんだろうか…?
この状態では、こいつがバケモノなのかもわからないし、この格好をしている者が全員バケモノだと断定するには、まだ早い。
幸い、このバケモノ候補は今はシルヴィの嫌いな奇声をあげながら追いかけてくるタイプでは無いようだし、言葉を返してみようか…。
「あ…えっと…この森に、僕の友達の飼っている犬が迷い込んでしまって…」
「ソウなのカ。其れは、これのコトか?」
そのバケモノ候補が背中の外套の内側から出した手には、気を失っているヴィンが後ろ足を掴まれてぶら下がっていた。
「そうです…! あの…返してもらえますか…?」
「イイよ」
普通にバケモノ候補と会話ができていることに、僕は驚いていた。
しかも、ヴィンのことは返してくれるという。
案外、得体の知れないものとでも話してみるものだ…。
そう思った時、バケモノ候補の口が、もう一度フードの下で動いた。
「たダし…おマエの持ツ資料とヒキかエだ」
「え…?」
最後の方がうまく聞き取れず、聞きなおそうとしたとき、バケモノ候補の手はヴィンの体を投げ捨て、僕の首を掴んでいた。
「ぐぅっ…!?」
フードの下から除く瞳は、ギラギラと黄色く光っている。
さっきまでは緑色だったはずの目が、黄色く変わってる…!?
やっぱり、このバケモノは目の色が変わるのか…!
シルヴィといた時に追いかけてきていたバケモノは、黄色と赤。
今回は緑と黄色に変わっている。
どういうことなんだ…?
僕がそう思いながら身をよじり、息苦しさから脱出しようとしたとき、バケモノ候補の手が僕の服を引き裂いた。
「っ…!?」
僕は、息苦しいのを我慢して、腰に下げた氷の箱から鋭利な氷の塊を取り出して、それをバケモノ候補に向かって振りかざした。
するとバケモノ候補はそれを腕で受け止めてから数歩下がった。
バケモノの黄色く光っていた瞳は、また、緑色に戻る。
そして、バケモノ候補は口を開く。
「資料…ガない…」
資料…?
僕の懐を確認して、資料がないとつぶやくバケモノ候補に、違和感を覚えた。
…まさか…こいつらが僕を狙っていた理由って…レニアとマアヤさんが盗んだという…白の教会の資料…?
だとしたら、ますますここは危険だ…!
僕は素早くもう一つ鋭利な氷の塊を取り出すと、バケモノ候補に飛び掛かる。
そして再び自身バケモノがを守ろうとしてあげた腕を無理やり切り裂くと、全力でそのバケモノ候補の頭に氷の塊を突き刺そうとした。
しかしその攻撃を、バケモノ候補はかろうじて顔を動かして避けた。
フードが取れ、頬のあたりを氷の塊は引き裂いた。
フードが無くなったバケモノ候補は、やはりつぎはぎのバケモノだった。
一瞬で緑色だった瞳の色が赤く変わり、
「あ''ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
と奇声を上げ始める。
その奇声をあげている最中、僕は鋭利な氷をバケモノに投げつけた。
それは綺麗にバケモノの額に刺さり、地面に倒れたバケモノは動かなくなった。
「ごめんね…悪いけどヴィンは返してもらうよ」
僕は倒れ伏したバケモノの横を通り過ぎて、ヴィンを抱き抱えると駆け出した。
一刻も早く宿の方に戻らないと…。
こいつらは、僕の懐にあの資料があると知っていた。
僕は森に入ってから資料なんか一度も取り出していないのに…。
僕の懐にあの資料が無いということを知られてしまった今、宿に資料を置きっぱなしにしてきたことが悔やまれる。
もしも…もしもあのバケモノたちが資料の場所を特定できる何らかの能力を持っていたのだとしたら…。
あの宿屋も、シェリーちゃんたちが住む村も、タダでは済まない。
急がなくちゃ…!
今日はいつもに増して、ドラゴンの姿になれない事がもどかしい日だ…。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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