白い外套のバケモノ
僕は上から降ってきたバケモノにガッと顔面を掴まれ、その場に倒された。
「ぐっ…」
背中を地面に強打して、そんな声が漏れる。
息が…っ…!
「ジル!」
シルヴィのそんな声が僕の耳に届く。
必死にそちらに視線を向けると、まだシルヴィはバケモノに捕まっていないみたいだった。
でも、これだけの数が居ればすぐに捕まってしまうだろう。
「シルヴィ、逃げて!」
「あなたを置いてなんか…!」
「早く! 森から出るんだ!」
僕はそう言いながら、ドラゴンの姿になろうとする。
けれど…。
いくら白い鱗に覆われたドラゴンの姿を想像しても、何故かドラゴンの姿になれなかった。
「なっ…んで…!?」
人間の姿では、このバケモノ一体ですら跳ね除けることができない。
そのバケモノは、僕の頭を片手で押さえつけたまま動かなかった。
「離せ…!」
そうバケモノの体を蹴りつけるが、シルヴィの蹴りをもってしても倒れなかったバケモノだ。
僕のようなひ弱な蹴りじゃ、本当にビクともしない。
それどころか、何故かその場に居たバケモノたちは、シルヴィには見向きもせず、僕に向かって歩いてきていた。
…僕に…狙いを定めてる…?
仕留めた餌を分け合うとでもいうのか…。
次々に僕に近付いてきたバケモノたちは、僕の腕や足を掴み始める。
そして10体近く集まると、バケモノたちは僕を持ち上げた。
「え…!? ちょっ…」
何処に連れていくつもりだ…?
さっきまで、理性なんてものはなさそうだったのに…。
いや、今もないのか…?
バケモノたちの黄色い目はうつろで、何処も見ていない。
その時、突然僕周りに雷の柱が立ち上り、バケモノたちを蹴散らした。
バケモノたちの手が離れたことで、僕は地面に叩きつけられて息が詰まる。
そして顔をあげると、シルヴィが両手をこちらに向けた状態で仁王立ちしていた。
…まさか…今のはシルヴィの雷魔法…!?
前より相当威力が上がってる…。
というか、別物だ。
前までは雷の弾しか打ち出せなかったのに、今は雷の柱を何本も発生させることができていた。
「私は絶対、あなたを置いては逃げない!」
シルヴィはそんな風に言いながら、僕に駆け寄ってくる。
そして僕の手を掴んで引っ張り上げ、駈け出した。
さっきまで大人しくなっていたバケモノたちは、また奇声をあげながら僕たちを追いかけ始めた。
…シルヴィの手の震えが…繋がれた手から伝わってくる。
本当は、僕が守らなきゃいけないのに…。
僕は、ドラゴンの姿になれないってだけで、本当に無力だ…。
なにか…なにか無いのか、僕にできることは…。
後ろを振り返ると、まだ十数体のバケモノが追ってきている。
…あれ…?
追ってきてるバケモノたちのその後ろ…。
一体だけ、ピクリとも動かずに倒れてる。
それに、雷のやけどのような跡が頭についている。
まさか……。
このまま逃げ回って、森から出たとしてあの村までこのバケモノたちが出て行ってしまったら…。
あの村に住む人たちは、パニックどろじゃ済まないだろう。
そう思うと、寒気が走る。
そうならないようにするためには、今、倒さなくちゃ…!
「シルヴィ、ナイフ持ってる?」
走りながら、前を行くシルヴィにそう問いかける。
「え…、果物を切るものなら持ってるけど…」
「貸して!」
「いいけど、どうするつもり…?」
「あいつらはこの森の外に放っていい存在じゃない」
「そうね…でも、戦うんだったらドラゴンの姿になった方が…」
「なれないんだ。何故か、どうやっても。だから…このままで戦う」
僕はシルヴィからナイフを受け取ると、シルヴィの手から自分の手を抜き取って踵を返す。
「ジル!?」
「シルヴィ、魔法で援護をお願い!」
「わ…わかったわ…!」
僕の予想が正しければ、こいつらは僕だけを狙ってる。
さっき遠距離からシルヴィが魔法を飛ばしても、そちらに見向きもしていなかった。
それなら、運動神経の悪い僕にでも、やりようはある。
僕に掴みかかってきたバケモノの腕を全力で払いのけ、シルヴィから受け取った果物ナイフをバケモノの頭に突き刺して引き抜いた。
すると、そのバケモノは急に動力を失くしたかのようにその場に倒れ、動かなくなった。
「シルヴィ!!」
「なに!?」
「頭を狙って!!」
僕は大きな声でそんな風に言う。
すると、僕の後ろからすぐに大量の雷の球体が飛んできて、まっすぐにバケモノの頭に当たった。
…やっぱり、シルヴィの魔法の精度は恐ろしく上がってる…。
威力も、正確さも段違いだ。
そのシルヴィの魔法から逃れたバケモノが、僕の方に向かってくるが、掴んでくるだけなら話は早い。
左腕を突き出して掴ませておいて、右手でバケモノの頭にナイフの斬撃を浴びせた。
すると、そのバケモノも動かなくなる。
僕が一体倒している間に、シルヴィは正確に魔法をバケモノの頭に当て続けてくれたらしく、僕たちを追ってきていたバケモノは一掃されていた。
「終わった…の…?」
シルヴィは構えていた両手を下げて、僕の方に視線を向けた。
「みたいだね…でも、とりあえずこの森から早く出よう」
「そうね、まだこいつらの仲間がいるかもしれないものね」
僕は赤い液体が滴るナイフを一瞥して投げ捨てると、シルヴィの方に駆け出した。
すぐ側に行ってわかったが、シルヴィは肩で息をしながら、震える両手で強く自分の服を掴んでいた。
…あんなに冷静にバケモノたちに狙いを定めて倒していってたのに、やっぱり怖かったんだな…。
それに、魔力の消耗も激しそうだ。
僕がもっと強ければ…シルヴィを守れたのに…。
力が、欲しい。
封印されていたという力が僕に戻れば、僕はシルヴィを…みんなを守れるようになるのかな…。
「シルヴィ、乗って」
そう言いながら、僕はシルヴィに背中を向けて膝を地面についた。
「え…大丈夫よ? 私どこも怪我してないから…」
「でも、多分今、シルヴィが自分で思ってるよりも魔力を消費してる。あんまり動かない方がいいよ」
「でも…」
「…」
なかなか乗ってくれないシルヴィを、僕は立ち上がって引き寄せると両腕で抱き抱えた。
「じっ…ジル!?」
あのバケモノが何者なのかは分からないけど…僕一人でもちゃんと全部倒せるようになりたい。
大切な仲間を、守れるようになりたい。
女神がくれた器がなかったのだとしても。
僕は前を見据え、そんな風に考えながら森の出口を目指した。
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