犬を探して
僕たちは最初の依頼である荷運びの、指定された配達地まで来ていた。
「ここが…そうなの?」
「みたいね。地図に示されてる場所と一致してる」
僕の問いかけに、シルヴィは片手に大きな木箱を持ち、もう片方の手には地図を持ってそう答えた。
…立ち止まっているのに木箱を別に置くこともなく持ち続けるなんて…。
流石シルヴィ、すごい力だ。
「あの金持ちそうな爺さんが、こんな貧しそうな村に届ける荷物って一体何なんだ?」
ゼアスさんは、持っていた杖を腰ひもに引っ掛けて手を離し、腕を組んだ。
「さぁ…でも金品財宝じゃなさそうだね」
エリシアがそう言った時、一つの古びた木造の建物から一人女性が出てきた。
「あら…もしかしてあなた方は、冒険者ギルドの方々ではありませんか?」
「あ…はい。この荷物を届けるようにと、ヴィルダー=ドレリアさんから依頼を受けて…」
「私はメア=ウェンディです」
「あ…受取人の方ですね…この荷が、運ぶように依頼されたものです」
シルヴィはそう言いながら、大きな木箱を差し出した。
し…シルヴィじゃないんだから、今渡してもその女の人じゃ持ち上げられないんじゃ…。
「わぁ、ありがとうございます! 助かります」
メアさんはそう嬉しそうに言うと、ひょいと木箱を持ち上げた。
…!?
最近の女の人って…強い…!
「わぁ、おねぇさん力持ち!」
「そうですか? 子供たちの相手をしていると、力仕事も結構あるからでしょうか」
「子供たち?」
「えぇ、ここは孤児院なのです」
「こじいん?」
「はい、親が居ない子供たちを保護する施設なんですよ」
「へぇー…そうなんだ…」
エリシアはそう驚いたように目を見開いてから、じっと木箱を見つめる。
「この中身が気になりますか?」
「教えてくれるの?」
「はい、毎年ヴィルダーさんは、この孤児院にたくさんのおもちゃを寄付してくれるのですよ」
メアさんはそう言いながら木箱を地面に降ろし、エリシアに開けて見せた。
「わぁぁ」
エリシアが目を輝かせるのを見て、僕とシルヴィ、ゼアスさんまで、野次馬のように木箱をのぞき込んだ。
するとそこには、子供たちが喜びそうな色とりどりのおもちゃがたくさん入っていた。
「ねぇねぇおねぇさん! これなに~?」
エリシアは目を輝かせながらメアさんに尋ねている。
なんだかんだ言っても、ドラゴンの80歳というのはまだ子供ということなんだろうか。
人化の姿も、確かにシルヴィよりもずっと幼く見えるしな…。
竜の里に行ってから、エリシアが急に大人になってしまったような感じがしていたが、そんなことはないみたいだ。
僕はしばらく、楽しそうに色々とメアさんに質問するエリシアを眺めていた。
「色々教えてくれてありがとう、メアおねぇさん! エリシアたちはもう行くけど…子供たちにもよろしくね!」
エリシアは一通りのおもちゃの使い方を聞いて満足したのか、書類にしっかりとサインを貰ってから立ち上がった。
「えぇ、運んでくださって、どうもありがとうございました。子供たちもきっと喜ぶわ。帰りの道中、どうぞお気を付けて」
メアさんはそう言って僕たちに一礼すると、古びた建物の中へと帰っていった。
その建物の中からは、嬉しそうな子供たちの声が少し漏れて聞こえてきていた。
「あの爺さん、孤児院への寄付活動なんかしてたんだな」
「すっごくいい人だったってことでしょ?」
「そうね…お金持ちになって貧しい人たちを助けているなんて…素敵ね」
「うんうん、素敵だね!」
素敵という言葉の意味が分かっているのかわかっていないのか、エリシアは両手を上にあげながら楽しそうにそういった。
「さて…次は犬探しの依頼だな。荷運びの依頼の報告は俺が行ってくるから、先にこの地図に記されてる村に向けて出発しろ」
ゼアスさんはそう言うと、懐から次の依頼場所の示された地図を取り出してシルヴィに渡した。
そしてエリシアから、サインを貰った書類を受け取ると、
「んじゃな」
と言うが早いか、気怠そうな立ち姿で呪文を詠唱し、転移魔法で元来た道を戻っていってしまった。
「…行きもゼアスさんの転移魔法で来れば早かったのにね…」
そう僕が言えば、エリシアは首を横に振りながら言う。
「ダメだよー! それじゃお仕事感でないじゃん!」
「お…お仕事感…?」
どんな感じだそれって…。
「そうね、転移魔法に頼りすぎると、ゼアスさんみたいにずぼらになっちゃうわよ」
「…本人いないからって言いたい放題だね…」
「あら、面と向かってだって言えるわよ」
「それもどうかと…」
「とりあえず、進みましょうか。依頼主が指定した場所は、ここからそう遠くはないはずよ」
シルヴィはそう地図を見ながら言った。
「…シルヴィ、依頼書見せてくれる?」
僕の言葉を聞いて、シルヴィは僕に依頼書を差し出してくれた。
その依頼書を見てみると、依頼詳細を伝える指定場所はここからそう遠くない村、ヒルトン村と書かれている。
「このわんちゃんの絵、すっごく上手だよね。依頼主の人が描いたのかなぁ?」
エリシアは、僕の横から依頼書をのぞき込むようにして言った。
確かに、依頼書に描かれている茶色の毛並みを持つ犬の絵は、とても上手だった。
この写真通りの犬を探すのなら、特徴を告げられるだけよりもはるかに探しやすい。
「そうなんじゃないかな…。犬の絵を上から張り付けたわけでもないみたいだし…」
「そっかー! こんなに絵が上手なんて、依頼主ってどんな人なんだろうね?」
「それは行ってみないとわからないわ。さぁ、行きましょう」
そんなシルヴィの言葉で、僕たちは歩き出した。
ここまでの道のりと違って、柔らかい砂に足を取られることもなく、そして魔物も居ない道を重い木箱も持たずに歩いていくのは正直すごく楽だ。
僕たちは、ほんの半刻ぐらいで、次の依頼者のいるはずの村にたどり着くことができた。
ヒルトン村は小さな村だけど意外と人も多く、屋台のようになっているお店がいくつも並んでいるにぎやかな村だった。
「ついたね!」
「えぇ、案外近かったわね」
「うん…にししても…ゼアスさん、追いついてこないね」
「ゼアスおじさんのことだから、きっとどこかでぐーすか寝てるんじゃないかな?」
「えぇ…また仕事放棄ってこと…?」
「まぁ…一つの仕事が終わるまでちゃんといてくれたんだし、いい方なんじゃないかしら」
ふたりとも、ゼアスさんに何かあったんじゃないかという心配は微塵も感じていないようだ。
ゼアスさんの日頃の行いが悪いせいで、誰からも心配されなくなってるなんて…可哀そうに…。
まぁ、そういう僕も、あの人が動けなくなるほどのアクシデントなんか起こるはずがないと思っているんだけど…。
「きっとすぐに追いついてくるわよ。とにかくこの依頼主の…シェリー=グエンって人を探さなくちゃ…」
シルヴィがそう言った時、僕たちの側を通ろうとしていた少女が驚いたように顔をあげた。
「あっ…あの……あたしがシェリー…です。お姉さんたち…もしかしてヴィンを探しに来てくれたの?」
エリシアよりも小さな少女は、少し小さめな声で、僕たちにそう問いかける。
「ヴィン…? もしかして…この絵の犬の名前…?」
僕がそう依頼書を見せながら問いかけると、その女の子は、
「ひっ…」
と小さな悲鳴を上げてシルヴィの背中の後ろに隠れてしまった。
ぼ…僕そんなに怖かったかな…。
怖がられたことなんて今までになかったけど…結構ショックだ。
これだから、他人と接するのは難しい…。
「ジルは気弱で全然怖くないから大丈夫だよー!」
エリシアはにこにこしながらシルヴィの後ろに隠れた女の子に屈みこんでそう話しかけた。
気弱でっていうのは事実だけど褒められているんだか貶されているんだか微妙なところだ。
エリシアは立ち尽くす僕の手から依頼書を取って女の子に見せる。
「このわんちゃんを探せばいいんだよね?」
エリシアの言葉に、女の子は瞳を輝かせて頷いた。
「うんっ…! ヴィンはあたしのお友達なの…でも、三日前から姿が見えなくて…」
そう言いながら、肩から下げていた鞄に女の子は小さな手を伸ばす。
そしてそこから大量の紙束を取り出した。
「これ、全部ヴィンの絵なの…これを頼りに…どうかヴィンを見つけてください…!!」
「え…」
少女が差し出した何十枚とある紙束の、すべての紙には様々なアングルからの綺麗な犬の絵が描かれていた。
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