ヘタレドラゴン、仕事をこなす
僕とシルヴィ、エリシア、そしてゼアスさんは、掲示板の目の前に突っ立っていた。
「…さて…どの仕事にすっかな…」
そんな風にゼアスさんは言いながら掲示板を眺めている。
「ゼアスさんは、いつもどうやって仕事を選んでるの?」
シルヴィのそんな問いかけに、ゼアスさんは迷うこともなくきっぱりと答えた。
「報酬が高ぇやつ」
「わぁ…」
「なんだよエリシア」
「ゼアスおじさんがめつーい」
「おじさんじゃねぇ。ギルドの冒険者なんてみんなそんなもんだろ。自分ができそうな仕事の、一番報酬が高いやつを選ぶもんだ」
皆がそんなやり取りをしている間にも、僕は掲示板に貼ってある依頼書を眺めていた。
海岸沿いの魔物の討伐なんかが、高い報酬を占めてるみたいだけど…。
正直、お金のことは前に行ったS級のクエストの報酬がまだ余ってるから、そんなに考えなくてもよさそうだ。
第一、竜の里から帰ってくるのに、相当の数の魔物を討伐したから、正直今はあまり魔物と会いたくない。
…?
これって…。
隅々まで掲示板を見ていると、一つの依頼書が僕の目に留まった。
クラス区分はE級という、一番簡単なレベルの仕事と指定されている。
その依頼書には、あまり綺麗とは言えない字で、犬を探してください、と書かれていて、その文字の下には、綺麗な犬の絵が描かれていた。
他の依頼書には、まずでかでかと報酬が書かれていることが多いのに…これには報酬について特に何も書かれていない。
それに…こんなに隅っこに貼っていたら、だれも見向きしてくれなさそうだ…。
…これは、いつ貼られたものなんだろう…。
まだ、この絵の犬を探してるんだろか…。
「おい、ジル! 聞いてんのか?」
横からそんなゼアスさんの声が飛んできて、僕は肩をびくっと跳ねさせた。
「ごっ…ごめん、なに…?」
「こんな仕事はどうかなって! 荷物の運搬!」
エリシアはそう言いながら依頼書を僕に見せた。
「これなら、エリシアとジルがドラゴンの姿になって運んでもバレないだろうし!」
「…そう、だね。うん、いいかも」
僕はそう答えながらも、犬探しの依頼書が気になっていた。
でも…報酬もはっきりとしていない依頼に行くのは皆嫌だろうし…。
そう思っていた時、今まで言葉を何も発さなかったシルヴィが、おもむろに何かの依頼書を手に取った。
「シルヴィ…?」
「その荷運び、すぐに終わっちゃうでしょう? その後に、こんな依頼はどうかしら」
そんな風に言いながらシルヴィがにこにこしながら見せた依頼は、あの犬探しの依頼だった。
「え…」
「わんちゃん探すの? いいよ! 楽しそう!」
エリシアは楽しそうに両手を広げて笑う。
その横からゼアスさんも依頼書をのぞき込んでから、
「たまにはそういうのもいいかもな」
と、言い出した。
さっきまで報酬がどうのこうのって言ってたのに…。
「じゃあ、この二つで決めちゃおうよ! ジル、いい?」
そんな風にエリシアに確認され、僕はすぐに頷いた。
「うん、すごくいいと思う…!」
妙に言葉に勢いがついてしまい、他の三人に変な目で見られたが、そんなのはどうでもいい。
気がかりだった依頼にみんなで行けると思うと、それだけで嬉しくなる。
その依頼が、大波乱となることを、今の僕は知る由もなかったのだけど…。
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僕たちは、依頼の手続きを済ませてフォーティ二大陸に飛び、そこで依頼主から運ぶ荷物を受け取った。
「にしても、こんなにおっきな木箱、何が入ってるんだろうね? すっごく重いみたいだし…」
エリシアは、ドラゴンの姿の僕の背中に乗った木箱を見ながら、考えるように顎に手をあてている。
「依頼主は随分と、金持ちそうな爺さんだったからな…俺たちじゃお目に掛かれないような代物かもしれねぇぞ」
「例えば?」
「金品財宝とか」
「こんな木箱にいれるかなぁ…」
「そんな大事なものだったら、もう少し厳重に包むんじゃないかしら…」
「そうだよねぇ…」
エリシアとシルヴィとゼアスさんは、木箱の中身がなんなのかをあれこれと言いながら考えている。
そんな三人をよそに、僕は辺りを見回していた。
僕が生まれたのも、僕とシルヴィ、そしてエリシアが初めて会ったのも、この大陸でだった。
でも、僕が生まれたのは雪山で、シルヴィと出会ったのは紅葉をしている山で、エリシアと出会ったのは海岸沿いの蒸し暑い山だった。
そして今いるのが、広大な砂漠…。
何処を見ても、砂、砂、砂…。
木なんて一本も生えていなくて、水も一滴もない。
そして、照り付けてくる太陽のせいで気温もすごく高い。
このフォーティ二大陸は、四つの大陸と一つの島の中で一番面積が広いらしいが、
一つの大陸でも、場所によってここまで気候が違うものなのかと驚いてしまう。
そして、こんな砂だらけの場所で、真っ白なドラゴンが荷物を運んでいたら当然目立つわけだけど…。
その点はゼアスさん曰く、何も心配ないらしい。
なにせ…ここには人間は滅多に近づかないのだそうだ。
その理由といえば…この砂漠には、魔物を弾く結界が張られていないのだ。
大陸の内部に位置するこの砂漠の部分だけ、結界がくりぬかれるようにして無くなっている。
その理由は、結界を広い面積に貼ると、結界維持装置を使ってもどうしてももろくなってしまいやすいため、人がほとんど行き来しない場所には結界は張っていないのだそうだ。
そしてどうしてそんな魔物が行きかう場所を僕たちがこんなに問題なく進めているかといえば…。
僕の真横の砂が巻き上がり、骨しかない二足歩行の巨大な魔物が姿を現す。
が、現れた瞬間にゼアスさんの持った杖から放たれた魔法が直撃し、その魔物は跡形もなく砕け散った。
「いやーにしてもこりゃあ便利だ」
ゼアスさんはそう言いながら持っている杖を振る。
「杖なんか邪魔だと思っていつもは持ってなかったが、使用者の魔力を消費して魔物を追尾する魔法弾を自動で放つ杖、なんて使わない手はねぇな」
つまりは、ゼアスさんの魔力量とその杖の追尾する魔法弾のおかげで、僕たちは魔物とまともに戦うこともなく進むことができているのだ。
「でもそれ…多分普通の人が使ったらすぐに魔力切れを起こして使えなくなると思うわ…」
シルヴィは呆れたようにそう言う。
『…つまり、ゼアスさんだからできる芸当ってわけだね…』
「えぇ…ギルドの武器庫に放置されてたのはそれが理由だと思う」
「けどこれ、雑魚共を蹴散らすには最適だが普通の戦闘だと威力が欠けるな」
ぶつくさ言っているゼアスさんを無視して、前を行くエリシアが声をあげた。
「見て! 砂漠があの辺りで途切れてる! もうちょっとだよ!」
『って…ことは…』
「ジルもそろそろ、見つかったらまずいし人化しないとね」
そうシルヴィに言われて、僕は重い木箱を背中から降ろして、人化をした。
…それで…この木箱をここから誰が運ぶの…?
此処には人間の姿になったらひょろひょろのドラゴンと、面倒くさがりな魔法使いと、少女ふたりしかいない。
…ゼアスさんは運ぶ気が全くなさそうだし…ゼアスさんが運んでくれたとしても、杖の攻撃が無くなると魔物の処理が少し面倒なことになる…。
となると、やっぱり僕が運ぶしかない…!
そう僕が覚悟を決めたとき、地面に置かれた木箱がひょいっと持ち上げられた。
「え…?」
その持ち上げた人物は、水色の長い髪を後ろに一つに束ねた可愛らしい少女だった。
「さ、あとちょっとよ、行きましょう!」
そんな風に、シルヴィは片腕で木箱を軽々と持ち上げて歩き出した。
…その細腕のどこからそんな力が…!?
「さっすがシルヴィ! 力持ち!」
「そんなに重くないわよ」
「そうなの? でもジルが持とうとしたときは、人間の姿じゃびくともしてなかったのに…」
そんな風に向けられたエリシアの視線が痛い。
どうせ僕は人間の姿じゃ女の子にも負けちゃうぐらいにひ弱なもやし野郎だ…。
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