ヴィッタ=カトランガ
僕は椅子に腰かけなおすと、レニアから渡された資料に粗方目を通した。
僕の力の封印場所は…フォーティ二大陸のレデルソンという町の付近にある白の教会に封印されているらしい。
レニアが言いたいことは、ここへ行って力を取り戻せということらしいけど…。
「あの…力を取り戻すって…具体的には何をすればいいのかな…?」
白の教会の場所を特定して、殴りこんだはいいがやることが全くわからないなんて、そんなことになるのはごめんだ…。
「さぁな」
「さぁな!?」
「教会を襲うってことは、神に真っ向から逆らうということだ。そんなことをしようとした輩は、今までに数人しかいない上に、全員が綺麗に消されている」
「消されるって…」
「つまりは殺されたってことだ。神は、自分のゆく道を妨げる者が現れれば、すぐにでも消そうとする傲慢な人間だ。あの神が居なくならない限り、ドラゴンと人間の争いが止むこともないだろう。今までは神に逆らってもすぐに皆消されてきたが、今回は違う」
「違うって何が…」
僕がそんな組織に乗り込んだとしても、力を取り戻す前に死んじゃいました!
で、終わる気がしてならないんだけど…。
「神が封印し損ねた強大な魔力を持つ者が、すでにこちらの味方に居る」
「…え…? その強大な魔力を持つものって…数百年に一人ぐらいしか生まれないんじゃ…」
「今回は、偶然生まれてくる時期が被ったんだろう」
「…そうなんだ…それで…その人って…」
「ヴィッタ=カトランガ。この冒険者ギルドの中でNo.1の冒険者として君臨するお方だ。今回は、そのヴィッタさんと一緒に教会に殴りこんでもらう。失敗したら、今までの準備もぱぁな上に、マアヤと僕は間違えなく殺される。そこのところをよろしく頼む」
「え``!?」
…宜しく頼む、じゃないよ…!?
いきなり二人もの命を背負わされるなんて、冗談じゃない…!
「僕には…そんな役目…」
「できるよ、君ならね」
レニアとは別の声が僕のすぐ近くから聞こえ、僕は驚いてそちらに視線を向ける。
するとそこには、今まで近くには居なかったはずのヴィッタさんが立っていて、僕が持っていたはずの資料を片手ににこにこと笑っている。
「い…いつからそこに…!?」
「今さっきだよ。君の魔力量…やっぱり相当すごいみたいだね…。完全に封印するまで、約三か月かかってるし…。私なんか一か月そこらで完全に封印されそうになってたんだけどなぁ」
「単純に考えてヴィッタさんの三倍の魔力量なんだとしたら…とんでもない化け物だな…」
ヴィッタさんの言葉を受けて、レニアは考えるように顎に手を当てた。
「よ…よくわからないですけど…ヴィッタさん、あなたは各大陸の結界維持装置の防衛をしてたんじゃ…」
「してるよ~。全く皆して人使いが荒いんだからなぁ」
してるよって…今ヴィッタさんがこの場所に居る時点で、防衛なんてできるはずが…。
僕がそう思った瞬間、ヴィッタさんはハッとしたように資料から顔をあげた。
「ごめんレニア、私は少しアストラス大陸に行ってくる。教会を潰しに行くのは、もう少し情報が集まってからだからね」
ヴィッタさんはさわやかな笑顔をレニアに向けてそう言ってから、僕に資料を返してくれた。
「それじゃあ、また会おうジル君。いや、人類の救世主とでも言った方がいいかな」
ヴィッタさんはそんな風に言って、おどけて笑う。
そして次の瞬間、ヴィッタさんの体が紫色の光に包まれて…。
その場から、ヴィッタさんの姿は跡形もなく消えた。
「え…き…消えた!?」
「今のがヴィッタさんの魔法だ。あの魔法のおかげで、ヴィッタさんは20年近く白の教会の追っ手から逃げ延びてる。ヴィッタさんが一か所に留まることがほとんどないのも、そのためだ」
「ゼアスさんの…転移魔法とはまた違うものなんだよね…?」
「ヴィッタさんの魔法は格が違う。まぁ、あの人の魔法の話なら、今度本人からでも聞かせてもらえ」
そういうと、レニアも椅子から立ち上がった。
「僕ももう行く。教会への襲撃の日時は、情報が集まり次第知らせる。その資料は、失くさないように保管しておけ。もし紛失でもしたら…」
そんな言葉と共に、僕の頭に拳銃が付きつけられる。
「その頭に風穴があくことになるから気を付けろ」
「き…キヲツケマス」
レニアは僕の答えを聞いて満足したのか、拳銃をレッグホルスターにいれると、ギルドと反対側の方向へ向かって歩き出した。
そんなレニアを見送ってから、僕はレニアに投げ渡された方じゃない資料をふと手に取った。
それは、多くの人間の名前が書かれた名簿のようだった。
これ…どんな順番なんだろう…。
上から見ていくと、僕の名前はすぐに見つかった。
上から二番目…黒字で書かれている。
それよりもだいぶ下の方…17番目に、赤字でヴィッタ=カトランガの文字が目に入った。
この文字の色の違いは…もしかして、封印の有無が関係してるんだろうか…。
何枚もある紙を僕はぺらぺらとめくっていく。
最初の二枚の紙に書かれた名前は黒か赤で書かれていたが、三枚目からはすべての名前が青字で書かれていた。
三枚目の一番上に、アーデン=ジェリアと書かれているのが目についた。
ジェリアって…ゼアスさんとレインさんと同じ姓だ…。
もしかして、このアーデンさんって…マスターのこと…?
その少し下…僕は気になる名前を見つけた。
…レニア=ラトランド…?
僕が知ってるレニアとは別人なんだろうか。
レニアなんて名前はなかなか珍しくて、僕もレニア=マグナに出会うまではそんな名前聞いたこともなかった。
まぁそれは、僕の友好関係が恐ろしく狭かったからなのかもしれないけれど。
それに…ラトランドって、なんだか聞いたことがあるような姓なんだけど…なんだったか…。
よく思い出せない…。
…いつまでもこのよくわからない名簿を眺めていても仕方ないか…。
僕は資料の束を紙袋に仕舞い、それを懐にしまった。
…さて…またひとりになってやることもなくなっちゃったわけだけど…これからどうしようか…。
そう考え始めたとき、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえた。
「ジールー!!!」
そんな聞きなれた声に、僕は振り返る。
すると僕の視界には、赤い長めの髪を二つに束ねた可愛らしい少女、エリシアが走ってくる姿が映った。
「エリシア…? マスターとの話は終わっ…ぶっ…!」
「あー! 疲れたぁ!! かたっ苦しい話ばっかりなんだもん!」
そんな風に言いながら、エリシアは走ってきた勢いをそのままに、僕に抱き付いた。
僕はぎりぎりでエリシアを抱きとめて、椅子ごと倒れるのをこらえる。
また足のすねを打つのはごめんだ…。
「本当だよなぁ。肩こったぜ」
「ゼアスおじさんは突っ立ってただけじゃん」
「おじさんじゃねぇ。立ってるだけってのが一番眠くなんだよ」
エリシアの後ろから、首に片手を当てながら気怠そうな表情でゼアスさんがこちらに歩いてくるのが見えた。
「それで…ドラゴンたちとマスターの話はどうなったの…?」
「親父は、ギルド内にあるドラゴンの討伐に関する依頼を全て排除した上で、ギルドの管理下にある宿屋をまるごと一つドラゴンたちに貸し与えてドラゴンたちに神を倒すことへの協力を要請した」
「そ…それで…?」
もしドラゴンたちがその要請を蹴ったら、竜の里まで行ってきた意味がなくなるどころか、僕達は神とドラゴンと同時に戦わなければならなくなる。
「もちろん、その要請は受けたよ! 人間たちがドラゴンに攻撃しない限り、停戦を受け入れた上で人間に協力するってね。ドラゴンとしても、これ以上人間と戦って犠牲を出すのはいけないって思ってるんじゃないかな」
エリシアは僕からは離れずに、そんな風に言う。
「そっか…じゃあ、ひとまずは安心なんだね…」
「うんうん、安心安心!」
「それは良かったんだけど…そろそろ離れてもらえないかな…エリシア…」
「えー…ジルにくっついてるとすっごく居心地いいのに…」
そんな事言われても僕の心臓がもたない。
「そうそう、あのね!」
エリシアはそう言いながら、僕の膝の上から降りて僕の腕を掴んだ。
「久しぶりにみんな揃ったから、お仕事に行かないかってシルヴィが!」
「お仕事…?」
僕はエリシアに手を引かれて立ち上がりながら、そう問いかける。
掲示板の依頼のことかな…?
「そー! 冒険者らしく、クエストをこなしに行こうって」
「思えばお前らと一緒に行った仕事は俺が無理やり連れてったS級の依頼と、レゾリア大陸の人命救護ぐらいだろ」
「確かに…」
結構長い間一緒にいるような感じがするのに、それしか一緒にこなした仕事がないのか…。
レニアも、教会への襲撃はもう少し情報が集まってからって言ってたし、みんなで仕事に行くのは良いことかもしれない。
「じゃあ…久しぶりにみんなで行こう、クエストに」
僕がそう言うと、エリシアは嬉しそうに僕の腕を掴んだまま飛び跳ねる。
「わーいっ! みんなでお仕事ー!」
「わっ…ちょっ…エリシア……腕もげる…!」
「相変わらずひ弱だなー、ジル」
「いきなり酷い事言わないで!?」
楽しそうに笑うゼアスさんとエリシアを見ていると、僕まで楽しくなる。
教会に殴り込みに行くっていう話は、皆にはまた今度すればいいや。
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