ヘタレドラゴン、攫われる
僕とシルヴィは、目をぱちくりとさせながら二匹のドラゴンのことを見ていた。
二匹の話はどんどんと進み、氷竜一族の族長には水竜の族長が。
光竜一族の族長には、エリシアが話をつけに行くということを手早く決めてしまっていた。
もはや僕とシルヴィはいる意味をほぼ成してない。
僕はというと、ドラゴンの姿のままでは図体だけデカくて邪魔なので、とりあえず人化してエリシアの後ろに大人しく下がっていた。
エリシアと水竜一族の族長は、一通りのことを決め終わったのか一息つき、水竜の族長はちらりと僕に視線を向けた。
『エリシア様? そろそろ、そのドラゴンがなんなのか教えていただけないかしら。エリシア様のお友達で、何者なの?』
『…エリシアはジルの友達だけど、ジルが何者かなんて知らないよ?』
『…そう…。でも、この子は本当にドラゴンなのかしら…』
水竜の族長は、そう言いながら首を曲げて、僕に顔を近づけた。
「…え…僕は……ドラゴンじゃないって言うんですか…?」
『あなた、両親は?』
「…知らないです…生まれた時からひとりでしたから…」
『なら、どこで生まれたの?』
「人里に近い、雪山の中です…けど…」
『…可能性としては、異端者の子である可能性が高いかもしれないけど…二色の鱗を持ったドラゴンなんて聞いたこともないのよね』
水竜の族長は困ったように首を傾げる。
やっぱり、殆どが白い鱗に覆われているこの体の、尻尾の先だけが赤いのはおかしいみたいだ…。
でも、どうして僕がそんなおかしな体に…?
よく考えれば、現世の僕はよく分からないことだらけだ。
両親も知らない、自分が何者なのかもしらない。
みんなに呼ばれているジルという名前も、前世のものだ。
『ドラゴンというのは、自然の力で体を作り、そしてそれを操れるものなのよ。エリシア様のように、火竜なら炎を、私のように水竜なら水を。他にも雷や氷、闇に光といったものまで操ることの出来るドラゴンはいるけれど、どのドラゴンも例外なく、操れる自然の力は一つだけ…そして、弱点も必ずあるのよ』
水竜の族長は、沢山のクッションが置かれた場所で体を丸めた。
『あなたの体を見る限り、あなたは炎と氷を扱えるのではないかしら?』
水竜の族長は、そう言いながら真っ直ぐに僕の瞳を見つめた。
その族長の言葉に、僕は頷く。
殆ど扱えるのは氷だけだけど、ブレスだけは青白い炎が出る。
『その様子だときっと、氷竜の弱点である炎も、そして火竜の弱点である水も効かないのでしょう?』
「…確かに…炎の魔法をぶつけられても、熱くなかったし、海に落ちても平気でした」
『そんなことは、有り得ないはずなのよ。炎と氷が、一つの体の中に共存出来るはずがない…けれどあなたは今その状態で立っている…。普通のドラゴンならば、有り得ないことなのよ』
…有り得ないこと…。
だとしたら、僕は未知の怪物だとでも言われるのだろうか。
ナメクジ野郎が未知の怪物に生まれ変わるなんて…なんとも滑稽な話だ。
本格的に僕は僕のことがわからない…。
僕は…一体何者…?
『それに、族長のわたくしの力を仲裁して見せたその力の強さは、普通ドラゴンが800年ほど掛けて身につける力。だけどあなたは見た目、まだ生まれて1年も経たない坊や…』
「…僕は…」
僕は確かに、生まれてまだ半年も経っていない。
体の大きさは、今まで出会ってきたどのドラゴンよりも小さい。
『でもさ…!』
その時、僕と水竜族長との間にエリシアがそう言いながら割って入ってきた。
『ジルが何者でも、ジルはジルだよ』
エリシアはそう言ってから人化をして、僕に思い切り抱きついてきた。
「え…エリシア…!?」
「エリシアはジルのことだーい好きだから、エリシアはジルが何者でもどうでもいいの!」
『…まぁ…エリシア様が何者かも…そのおふたりは知らないようだものね』
ボソッと呟いた水竜族長の言葉は、僕の耳に届いた。
…エリシアが、何者か…。
自分のことだけじゃなくて、仲間のことも、僕は何も知らない。
でも、エリシアが話したくないのなら、無理には聞かなくてもいい。
僕も、エリシアが何者でも、エリシアはエリシアだと思うから。
「あ…あの…エリシア…ちょっと離れて…」
「どーして?」
にこにことしながら見上げられると、僕は何も反論できなくなってしまう。
「エリシア、光竜の族長さんのところに話に行くんでしょ?」
ずっと言葉を発さずに、静かに話の行く末を見守っていたシルヴィが、この時やっと口を開いた。
そのシルヴィの言葉に、エリシアは、うん!と元気良く返事をすると僕から離れてくれた。
助かった…。
なんだろう、このデジャヴ感は…。
そうだ、エリシアと出会って間もないころ、海で抱き付かれて困ってた僕をシルヴィは助けてくれたんだっけ…。
僕はいつも、シルヴィに助けられてばかりだ…。
「じゃあ、レゾッタ! 氷竜の族長によろしくね!」
エリシアがそういうと、水流の族長は体を起こす。
『えぇ、仕方がないわ。わたくしも出発するといたしましょうか』
水流の族長がそう言って立ち上がった瞬間、何処からともなく真っ黒い霧のようなものがどこからともなく部屋に入ってきた。
「…え…何?」
僕が驚いて声をあげると、その声に反応して振り返ったエリシアがハッとしたように僕の方に駆けだした。
「待って! 闇竜!!」
エリシアのそんな声が僕の耳に入るけれど、それを気にしている暇は僕にはなかった。
エリシアが僕の側にたどり着く前に、黒い霧は濃さを増して、雲のようになり僕を覆った。
…な…なんだ…?
これ…!
腕を振ってみても、その黒い霧が晴れることはないみたいだ…。
ドラゴンの姿に戻って、氷を放ってみようか…。
そうすれば、出られるかもしれない。
そう思った僕は、ドラゴンの姿を想像する。
そしていつものように体が光り始めた瞬間、僕のうなじの部分に強い衝撃が走り、僕の体はぐらりと傾く。
その場に倒れ、朦朧とする意識の中で僕の目が捉えたのは、黒い霧の中に紛れ込んだ、真っ黒い鱗を持つ赤目のドラゴンの姿だった。
『…女神に創造された器…』
意識が暗闇の中に落ちていく中、そんな声が僕の耳に届いた気がした。
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