責任感欠落人間の憂鬱
俺は自分の目の前にある机に足を乗せ、だらけた状態で仏頂面で椅子に座っていた。
目の前にある机に並べられた赤い球体はまだ光を出してないし、俺の出番はまだまだねぇってわけだ。
…にしても、シルヴィのやつ俺だけ置いていきやがって…。
ゼアスさんは仕事があるだろうから私だけちょっと行ってくる! ってなぁ…。
パーティメンバーならどこに行くにも一緒に行くべきだろ。
俺だけギルド本部でお呼びがかかるのを待ってるっつー退屈な仕事をさせられるとは…。
「あー…」
暇だ。
暇なら暇で寝台で寝てたいのにそれも許されない。
誰かに任せて眠りてぇ。
「やぁゼアス。随分と退屈そうだね?」
そんな声が聞こえて俺は顔を上げた。
「…ヴィッタ…!? なんでここに…リージェン大陸に行ったんじゃなかったのか?」
俺の目の前に立っていたのはくせ毛の黒髪を持つ男、ヴィッタだった。
「用事が済んだから戻ってきたのだよ」
「へぇ…マアヤなら、ギルド本部まで連れてきてやったらすぐどっか行っちまったぞ」
「何故マアヤの話になるんだい?」
「だっておめぇマアヤが居ねぇと何も出来ねぇだろ」
「嫌だなぁ、戦闘だけは一人でできるよ」
本当に、こいつは戦闘だけは一人前…というかむしろバケモノだ。
No.2のレニアとは比べ物にならないぐらいに強い。
まぁ、普段はこんな感じでぽやーっとしてるが。
「んで、マアヤを追っかけてきたんじゃねぇなら何しに来たんだよ?」
「うちの可愛いレニアくんの様子を見に来たのだよ」
「あぁ…多分もうぐっすり寝てんじゃねぇか?」
「そうかい? それなら良かった。救護室に運んだ後、マアヤに傷を治してから無理矢理にでも何か食べさせて、眠らせろってお願いしておいたからね」
「抜かりねぇな。確かにレニアは仕事ってなると睡眠も食事もおろそかにしやがるからなぁ」
俺がそう言えば、ヴィッタも困ったように頷いた。
「同じ場所での任務なら、食べさせることも出来るんだけどね」
「無理矢理だろ?」
「そうでもしないと食べないし寝ないからね。様子を見に行くけど、ゼアスも気晴らしに来るかい?」
…クソガキの様子を見たとこで気も晴れやしねぇだろうが…このまま座りっぱなしでもケツが痛ぇ。
俺が立ち上がると、ヴィッタは小さく頷いて救護室の方へと進み出した。
救護室の扉をそっと開けて、中を見ると、白いシーツの敷かれた寝台に、銀色の髪をした少年が寝ていた。
「…」
「……」
「…よかった、眠ってるみたいだね」
「…おい、ヴィッタ。ありゃあレニアはトラウマになるんじゃねぇか?」
「なにが?」
寝台に寝ているレニアの両手首は布で寝台の柵に縛り付けられ、首は寝苦しそうな方向に曲がっている。
「あのレニアの寝方を見ると、眠ってるっつーより、気絶させられたって方が正しいだろ」
「あはは…流石マアヤ…雑というか……気が短いんだよね」
「だからレニアのやつ、怪我治してもらってるわりにマアヤのこと怖がってたんだな」
「まぁ、どんな方法であれレニアが休んでくれれば良いのだよ」
「…休めてんのか? その体制で…」
ヴィッタとマアヤには色々突っ込んでやりてぇが、突っ込んだら突っ込んだで面倒そうだ。
とりあえず、ヴィッタはレニアの手の布を取ってやって、布団を掛け直してやっていた。
「そうだ、ゼアス。さっきから鳴ってるみたいだよ?」
「…なにが」
「呼び鈴」
「あ…」
危うく自分の仕事を忘れる所だった。
俺が転移魔法で机の前まで戻ると、並べられた球体のうち一つが赤い光を放っているのが見えた。
その球体を耳に近づけると…。
『…ゼアスー、エリンがずっこけて崖から落ちたの。救急箱持ってきて~』
という聞きなれたエマの声が。
…最初に持ってけって親父に言われてなかったか?
そういえば、救護室の棚に一つ余ってたような…。
さてはエマのやつ…重いからって置いてったな…。
「…めんどくせぇ…」
もう一度救護室に行くのも面倒臭いし、救急箱を持っていくためだけに転送部屋から転移魔法を使うのも面倒臭い。
それから呼び出し主がエマだってのも面倒臭い。
…エマのことが嫌いなわけじゃねぇが、あいつと一緒だと色々面倒臭いんだよなぁ…うるせぇし。
心の中でぶつくさ言いながら、俺は腰につけた鞄に全ての赤い球体をしまうと、救護室の方へ歩き出した。
すると、前方からヴィッタが歩いてくる。
その手には…救急箱…。
「はい、ゼアス。頑張って」
「地獄耳か? ありがとよ。おめぇも早く持ち場に戻れよ」
「わかってるよ、レニアの持ち場だった大陸も守らなきゃならないしね。あ、そうだ。言い忘れてたけど、君のパーティメンバーの子達は竜の里に行くってさ」
「…はぁ…? そんじゃ戻って来るのはいつになんだよ?」
「さぁねぇ…ちょっと時間がかかるかも…」
「そうしろって、親父が言いやがったんだろ?」
「うん、できればそうしてくれって言われただけだけどね。にしてもマスターは、ジルとエリシアがドラゴンだと気づいてたんだね」
「みてぇだな。くそ…あいつらが帰ってくるまで暇じゃねぇか…」
ドラゴンと人間が一緒にギルドに登録しに来た。
それだけで、俺はあいつらに惹かれたんだ。
まぁ、シルヴィの魔法の扱い方に光るものがあったっつーのもあるがな。
最初にあいつらのギルドの登録を手伝ってやったのはそれでだし。
だがそれ以上に、ジルがドラゴンってのがわかって、今の世界の、クソみてぇなドラゴンと人間の争いを止める兆しになるんじゃねぇかって思っちまった。
パーティも(無理矢理)組んで楽しくなってきたと思ったのによ…。
なのに数日…いや、数週間か?
一人でギルド本部に置いてけぼりなんざ退屈以外のなにものでもねぇ。
もう一度光出した赤い球体に、俺はうんざりとため息をつく。
「わかった、行ってやるよ! ったく、つまんねぇことで呼び出すんじゃねぇよ」
あいつらが居ねぇ数週間は、ストレスってやつが溜まりそうだ…。
早く帰って来やがれ、ジル、エリシア、シルヴィ。
そう思いながら俺は渋々転送部屋へと向かうのだった。
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