ヘタレドラゴン、竜の里へ
やっとの事で赤色のドラゴンが泣き止み、シルヴィと、一緒にやって来たドラゴンたちに色々質問できるようになった。
シルヴィがかくかくしかじかと説明してくれて何となく状況を把握することができた。
こちらの状況も説明すると、シルヴィも竜の里に行く! と言い出して聞かなくなってしまったが、エリシアはいいんじゃないかな? と随分軽い返事だ。
一方でさっきまですぐそこの岩の上に座っていたはずのヴィッタさんは、一枚の置き手紙を残して姿を消してしまっていた。
その内容は、
『神を狩る力のある者よ、思い出せ』
とだけ書かれている。
…誰にあてて書いたのか全くわからないし、その意味もよくわからないけど…。
これが終わったら、あの変な人に聞いて見なくちゃ…。
それにしても…。
人化してエリシアのすぐ側に体育座りしているすごく美形な赤髪の男、リザは、未だに声は出さないが涙を流していた。
…ドラゴンの姿の時も人間の姿になっても凄くかっこいいのに…なんだかとても残念だ…。
「リザ、いつまで泣いてるの?」
「ま…またエリシアお嬢様に会えて…感極まってしまって…」
「もー、変わらないんだから」
エリシアは懐かしそうに笑いながらリザの頭に手を伸ばし、優しく撫でてやっている。
人間から見たら、少女がぼろぼろと涙をこぼす成人男性を撫でてあげているという異様な光景である。
「それでリザ、ミラ。エリシアに用事があってシルヴィと一緒に来たんでしょ? 自分の口から話してよ」
その言葉を聞いてミラとリザは立ち上がり、エリシアの前に膝をついた。
リザの目は真っ赤に充血しているが、やっと涙は止まったようだ。
「私たちと共に、竜の里に戻って頂きたいのです」
「うん、いいよー」
「そこをどうか…! って、え?」
「いいよ。エリシアも竜の里に戻るつもりだったしね!」
「そ…そうだったのですか…? 俺はてっきり、人間と一緒に居たいと言われると思っていたのですが…」
「勿論エリシアは人間と一緒に居たいよ。シルヴィからも聞いてるだろうけど、エリシアは二人の人間と、このジルとパーティを組んでるの」
エリシアがそう言うと、ミラが首をかしげた。
「パーティというと…チームみたいなものでしょうか?」
「うん、そう。だからエリシアは一度竜の里に戻ってやる事をやってから、またこっちに来ることにしたの」
「…その、やることって…?」
リザの問いかけに、エリシアはにっこりと笑った。
「それを教えてあげる前に、二匹とも。あなたたちはエリシアの味方だよね?」
「勿論です!」
「エリシアお嬢様がいなければ今の俺達はありません!」
「お父様じゃなくて、エリシアの味方だよね?」
人差し指を立ててにっこりと笑うエリシアに、ミラとリザは驚いたように目を見開いた。
「確かに、私たちの忠誠は族長ではなくお嬢様にありますが…まさか本格的にお父様と対立なさるおつもりですか?」
「そんなことをすれば、族長はお嬢様を野放しにしておけなくなります!」
「でも、お父様はエリシアのこと殺せないよ。絶対に。ミラ、リザ。選んで。エリシアと一緒に行くか、お父様の所へ帰るか」
エリシアはそう言いながら、右手を差し出した。
この手を取れば、エリシアの味方についたことになるのだろう。
そんなエリシアの表情は、ほんの少しだけ不安そうだった。
それもそのはず、断られればミラとリザという二匹のドラゴンから逃げなければならなくなるのだから。
いや、逃げるか…倒すか…だろうか。
そんなエリシアの手を、ミラが迷わずに取った。
迷いなき瞳で、エリシアを見つめている。
「…ミラ…」
リザはまだ迷っているようにミラの顔を見つめた。
そんなリザの脳天に、強烈なミラのチョップが飛んだ。
「いっ…な…何するんだよ!」
「エリシアお嬢様は、地位も職も、食べるものもなかった私達を拾ってくださった! 例え一族の長を相手にするんだとしても、取るべき手はエリシアお嬢様のものでしょう!」
「…。エリシアお嬢様…お父君と対立なさる覚悟は…もうできているのですか?」
リザはエリシアの目をじっと見つめながらそう問いかける。
すると、エリシアは満面の笑みで頷いた。
それを見て、リザはエリシアの右手に自分の手を添えた。
「ならば、お供します。何処までも」
リザはそんな風に言うと、小さくエリシアに笑いかけた。
そんなリザを見て、ミラも満足したように頷いた。
一方で、僕もシルヴィも、安心して胸をなで下ろす。
ここで無駄な争いはしなくてもいいみたいだ。
「よかった。エリシアの目的は、水竜、氷竜、光竜の一族を人間の味方につけること! 大変かもしれないけどまた宜しくね、ミラ、リザ!」
エリシアは嬉しそうに二匹のドラゴンに抱きつくと、幸せそうな笑顔を浮かべた。
抱きつかれた二匹は、目的を聞いて妙に納得したのか何も言わなかった。
エリシアと二匹の赤いドラゴンのやり取りは、竜の里の中で、エリシアがどんなドラゴンだったのかを伺わせるようなものだった。
やっぱりエリシアは今と変わらず、昔から優しい子だったようだ。
「というわけで、ミラとリザも一緒に行ってもらうけど、いいよね、ジル、シルヴィ!」
エリシアはこちらに向き直ると、僕達に笑いかけた。
そんな可愛らしい笑顔で頼まれたら、僕が断れるはずがないじゃないか。
まぁ基本的に頼まれごとは断れない質だけど…。
僕もシルヴィも頷くと、エリシアは両手の拳を空に向かって突き上げた。
「よーっし! 頑張ろうね皆! 竜の里についたら、まず最初に水竜族のなわばりまでいくよ!」
エリシアはそんな風に言うと、ドラゴンの姿になる。
ミラとリザもドラゴンの姿になり、僕もドラゴンの姿になろうとする。
すると、僕の襟を一匹の赤いドラゴンが咥えあげて、自分の背中に乗せた。
「み…ミラ…さん…?」
『ミラでいいです。先程の無礼な発言、お許しください』
「え…?」
…何か言われたっけ?
『あの…薄汚い…とか言ってしまって…』
「あ…あぁ…全然大丈夫です」
あれぐらいで謝られるなんて…。
前世じゃあんなの挨拶程度だ。
『お詫びに、龍の里へは私が運ばせていただきます』
「え…あ、はい…宜しくお願いします…」
綺麗な赤っぽい瞳に見つめられて、一瞬たじろいでしまったのは、僕の極度な人見知り…いや、この場合は竜見知り…のせいだろうか…。
一方でリザの背中には、シルヴィが乗せてもらっていた。
全員の準備が出来たことがわかると、エリシアは首を海の方に向かって振り、声をかける。
『じゃあ、行こう! 竜の里へ!』
それを合図に、三匹の赤いドラゴンは一斉に地を蹴り飛び立った。
そういえば僕…他のドラゴンの背中に乗るのは初めてだ…。
鱗は固くても、以外と乗り心地がいい気がする。
それに、飛んでいるにも関わらず安定感がある。
竜の里がどんな所かわからないけど…今の僕が何者なのかもわかるだろうか。
この尻尾だけ赤い体の意味も…。
そう思うと僕には、少し怖い部分もあれば、楽しみな部分もあった。
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