最凶のドジっ子
私とゼアスさんは、地下の部屋へと足を踏み入れた。
扉を開き中に入ると、頑丈そうな格子の内側に赤いドラゴンが二匹、鎖に繋がれているのが見えた。
見たところ二匹とも足に怪我をしているみたい…。
扉の外に声が聞こえたのは、この二匹で話していたからなのね…。
ゼアスさんは持っていたロウソクを部屋の隅に立てると、自分は壁に寄りかかった。
…自由にやっていいってことかしら…。
私が一歩格子の方に踏み出すと、大きい方のドラゴンがこちらを見て、牙をむきだした。
『来るな!』
そんなふうに声を上げるドラゴンに、私は近づきながら呟いた。
「エリシア=ストレイン…あなた達が探しているドラゴンの名は、これであってる?」
『エリシアお嬢様を知ってるの…!?』
大きめなドラゴンの後ろから、もう一匹のドラゴンが顔を出した。
『ミラ! 引っ込んでいろ! 何をしてくるかわからない!』
「…あなたは、ミラっていうのね」
『…!? お前、俺達の言葉がわかるのか!?』
「えぇ、私はシルヴィ。どうしてあなたたちはエリシアを探しているの?」
『…お前は、エリシアお嬢様の居場所を知っているのか?』
「知っているわ」
『何処にいる…! お嬢様を急ぎ竜の里へ連れ戻さなければならない!』
「…理由は?」
赤いドラゴン二匹はお互いに顔を見合わせた。
『なぜ探しているのか話したら、私達を離してくれるの?』
「理由にもよるわ。エリシアに危害が加わるようなら教えるわけにはいかない」
『危害なんてとんでもないわ! 私たちは、エリシアお嬢様のお父君から娘を連れ戻してほしいと頼まれたのよ!』
『ミラ!』
『話さないとどうにもならないじゃない!』
ミラというドラゴンに牙をむかれて、もう一匹のドラゴンは後ずさった。
ドラゴンの世界でも、女は強いみたい…。
それにしても、エリシアのお父さんが…?
エリシアは、異端者として追放されたんじゃなかったの?
エリシアを追いかけてきてた黄色いドラゴンは殺さねばならないって言っていたのに…。
「エリシアは、竜の里ではどういう立場なの?」
『…エリシアお嬢様は、我らが火竜族長の娘だ』
「…エリシアは、異端者として追放されたんじゃなかったの?」
『いいや、本当はその処置を取らねばならないのだが、火竜の族長はそうはしなかった! 火竜一族には彼女の力が必要なんだ』
「でも、初めて会った時黄色いドラゴンに追いかけ回されていたわ」
『なんですって!? 雷竜の連中…あれだけ手を出すなって言ったのに…!』
『…ミラ、こんな狭い場所で暴れないでくれ』
つまりは…エリシアは火竜一族の族長の娘で、異端者として殺されるはずが、族長の計らいでそれを逃れた…。
エリシアを追っていた雷竜は独断で動いていたってわけね…。
『とにかく、俺達がエリシアお嬢様を探しているのは、エリシアお嬢様のお父君の命令だ。殺したり、傷つけたりはしないし、竜の里へ連れ帰った後でも危害は加えられないはずだ』
『さぁ、私達は教えられることをすべて教えたわ!』
二匹のドラゴンは、こちらに向かって一歩を踏み出した。
「…シルヴィ、情報は取り終わったのか?」
「うん」
「馬鹿なヤツらだな、その状況で知ってる情報も全部言っちまったら、俺達はこいつらを出してやる必要がなくなるっつーのに」
『まさか…情報を取るだけとって何も教えてくれないつもりか!』
「シルヴィじゃなけりゃ、お前ら用済みとして殺されてたぜ」
ゼアスさんの言うことは最もで、でも、私はドラゴンを殺すつもりは毛頭ない。
私の目的は、争いを止めることだから。
「教えるわ、エリシアの居場所を。でも交換条件よ」
私はそう言いながら、ゼアスさんの手から牢屋の鍵を受け取って扉を開け放った。
「私を乗せて、エリシアの所まで飛んで行って」
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「さて、とりあえず話をしようか。私から君たちに、少し頼みたいことがあってね」
ヴィッタさんは、そう言いながら人差し指を立て、そしてくるりと方向を変え歩きだそうとした。
すると、ヴィッタさんはすぐ後ろにあった木に正面衝突し、跳ね返るように倒れた。
「…!?」
えぇ…?
そんな事あるんだ…目の前に大の字に倒れるヴィッタさんを見て、僕は言葉を失った。
「…ヴィッタお兄さん大丈夫…?」
「いやぁ、すまない。なかなか慣れないことをすると上手くいかないものだね」
「…慣れないこと…?」
この人、歩きだそうとした以外、何も変わったことしてないよね…?
「じゃあ行こうか…あ…」
立ち上がってもう一度足を踏み出そうとした瞬間、ヴィッタさんは今度は小石につまづいてベシャっという効果音が良く似合うほど見事に転んだ。
「…」
もう突っ込む気も起きない。
…思った以上の変人…いや、おっちょこちょいだ…。
結局、ヴィッタさんは一緒に拠点としていた場所に戻る間、数え切れないほどあちこちにぶつかり、あちこちですっ転んでいた。
そんなに長くもない距離で、だ。
…歩くのもままならない人に、仕事が務まるんだろうか…。
責任感が欠落してるゼアスさんに、マスターのためならどれだけ自分の血が流れても構わないと思ってるレニア、そして歩行すら困難なヴィッタさん…。
…S級の皆さんのキャラが濃すぎて、僕のヘタレ具合も隠れるというものだ…。
「それで、話というのも…」
「ヴィッタお兄さん、その前に怪我の手当した方がいいよ!」
「…うん、救急箱ありますから…」
エリシアと二人がかりで手当をし、やっとのことで終わらせる。
…一体何回転んだらこんなに擦り傷と切り傷だらけになるんだというぐらいにボロボロだけど、突っ込むのはやめておこう…。
「いやぁ、すまないね。私はどうも、外を歩くということに慣れていないのだよ」
「…」
「……」
それって、慣れがいるものだったんだ…。
「さて、私が話したいことなのだが…」
「ヴィッタ様」
ヴィッタさんが話を切り出そうとした時、ヴィッタさんの後ろからぬっと長い黒髪を持つ女性が顔を出した。
…今日は人間の神出鬼没率が随分と高いみたいだ…。
「やぁ、マアヤ。どうやってここまで?」
「ゼアスさんに送って頂きました」
マアヤと呼ばれた女性は、ヴィッタさんのことをじっと見つめたあと、僕とエリシアに向かって頭を下げた。
「主人が多大なご迷惑をお掛けしました」
「大丈夫だよー、転びすぎてちょっとビックリしただけだから!」
エリシアがそう言うと、マアヤさんはじろりとヴィッタさんに視線を向けた。
「だから一人で出歩いてはいけませんと言ってあったではありませんか」
「あはは、すまないね。」
マアヤさんはヴィッタさんに近づいていくと、何か魔法の詠唱を始める。
すると、ヴィッタさんの足下が緑色に光り始め、その光は大きな魔法陣を形成する。
そしてその魔法陣から緑色の光の柱が立ち上ると、すぐに光は消えてしまった。
後に残ったのは、怪我一つなくなったヴィッタさんの姿だった。
「…治癒魔法…?」
シルヴィのよりも、随分と強そうな治癒魔法だ…。
「はい」
「マアヤの治癒魔法は誰よりも傷の治りがいいのだよ」
「ヴィッタ様が何度も怪我したおかげです」
「地味に毒を吐いてくるのもマアヤの特徴だ。私共々、どうぞ宜しく」
そんな風に言いながらヴィッタさんが浮かべた笑みは、何となく不敵でいい気持ちはしなかった。
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