女子会
私は、ゼアスさんとマスターに見送られてアストラス大陸にあるギルド支部の転送場所に到着していた。
「あの…エマさん、エリンさん、よろしくお願いします」
私がそう頭を下げると、エマさんが私の肩を優しく叩いた。
「まぁまぁ、そんなにかしこまらなくっていいのよ! 折角の女子会なんだし、楽しみましょ。ねぇエリン」
「え…!? 女子会です!? そ…それはまた、楽しそうです…」
相変わらず、長い前髪で目が隠れているせいで表情が見えづらいけれど、頬を赤らめて口元は楽しそうに笑っている。
初めて会った時の印象が強すぎて変わった人だと思ってたけど、あがり症なだけで、まともな人なのかも…?
「あなた、シルヴィ=ケルディアだったわよね? あたしたちのちゃんとした自己紹介がまだだったわ。あたしはエマ=グランデ! あなたとパーティを組んだっていうゼアスと、その弟のレインの幼馴染よ。で、こっちは…」
「はっ…はいぃ!! あ…あああ…あたいは、エリン=レンディですっ…! どうぞおっ…お見知りおきをっ…!!」
胸に手を当て、上品に挨拶をするエマさんの顔に、勢いよく頭を下げたエリンさんの高い位置で束ねた桃色の髪が当たる。
「ちょっとエリン、落ち着きなさいな。マスターにいつも言われてるでしょう?」
「す…すみませんです…!」
「まぁ、いいわ。とりあえず、結界維持装置に向かうとしましょうか」
エマさんの言葉に、私は頷いた。
二人に着いていきながら、私はふと、ジルとエリシアのことを考える。
…ふたり共…大丈夫かしら…。
あの、レニアって子…随分気難しそうだったけど…。
「あら、なにか心配事?」
「あ…いっ…いえ」
「もしかして、これからの任務が不安? それなら心配いらないわ。大抵の敵なら、エリンが一人でも全滅させてくれるから」
「あっ…姉さん! それは無いです! あたいそんな強くないですよ!?」
「まぁ、謙遜しなくたっていいのに」
両手を必死で自分の体の前で振りながら、首も横に振るエリンさんは、あまり強いようには見えないけれど…。
でも、きっと二人とも、恐ろしく強いはず…。
だって、あんなに沢山の登録者がいるギルドの中の、たった6人のS級冒険者のうちの一人なんだから…。
「ま、エリンはあたしよりも強いのよ。あたしを抜いて、No.4の座についたんだから」
「そ…それは姉さんがちょっとの間、病に臥せってたからです…! でなけりゃあたいがNo.4なんて…」
「ナンバー…って何ですか?」
私が不思議に思って聞くと、エマさんは驚いたような顔をする。
「まぁ、ゼアスったら、本当にほとんどなにもギルドの事説明してないんじゃない…。ナンバーっていうのは、S級の冒険者に与えられる強さ順を表す数字よ」
「強さ順…? ってことは、No.4っていうのは六人中四番目に強いってことなんですか?」
「そうよ、誰がどの番号か、知りたい?」
私が会ったことがあるS級の冒険者は、5人だけ…。
もしかして、マスターが言っていたヤツっていうのが、最後の一人なのかしら…。
きっと、どの番号の人でもそこら辺に居る冒険者よりはるかに強いんだと思うけれど…ちょっとだけ、気になる…。
私はエマさんに向かって、こくりと頷いた。
するとエマさんはにっこり笑って、
「じゃあ、教えてあげる」
と楽しそうに言った。
「まず、No.6はレイン=ジェリア。あの子は昔体も弱かったし、魔法もほとんど扱えないほど魔力も弱かったのだけど…努力だけで、大剣使いとしてS級まで這い上がったのよ。実質、S級冒険者の中で魔法を全く使わないのは彼だけだから、すごいことなのよ」
「レインさんは頭もよくって、面倒見もよくってすごい人です!」
「そうなんですか…」
レインさんが…S級の中では最下位…?
闘っているところを見たことがないから何とも言えないけど…あのレニアって子は、レインさんよりも強いってこと…?
あんなに、幼い見た目をしてたのに…。
「それで、No.5がエマ=グランデさんです。本当はあたいより姉さんの方が強いんですが…」
「一年ぐらい、訳あって冒険者の仕事から離れてたら、そのうちに優秀な後輩に抜かされちゃったってわけなのよ。それで次のNo.4が、エリン=レンディよ。この子は凄腕の両手短剣使いなのよ」
「めっ…滅相もないです! あたいはそんな大層なもんじゃないです!」
「No.3が、あなたもよく知っているゼアス=ジェリア。あいつは典型的な魔導士ね。そしてNo.2がレニア=マグナ」
…ゼアスさんよりも…上…!?
ゼアスさんだって…並の強さじゃないのに…。
「レニアには、会ったことがあるんだったかしら?」
「はい、一度…あの子、そんなに強いんですか…?」
「見た目は可愛いのに、って思うでしょう? あの子は、とっても強いわよ。マスターが力を見込んで連れてきた子だから。そして、No.1が、ヴィッタ=カトランガ」
「…その人は…私、会ったことないです…」
「会わない方がいいかもです…あの人は何考えてるかわかんなくておっかないですから…」
「そんなこと言って、聞かれてても知らないわよ」
「…ひいっ…! あ…姉さん! 怖いこと言わないでくださいです!」
「この近くに居るかもしれないってことですか?」
私の問いかけに、エマさんは首を横に振った。
じゃあ、どういうこと…?
近くに居なくても…声が聴ける…?
そんな魔法は、聞いたこともない…。
「ま、彼にはいずれ会えるわよ。S級の冒険者の強さ順はこんな感じ。まぁ、更新されたのって、二年前レニアがS級に入ってきた時だから、今の強さは皆どうなってるかわかんないけどね。さて…そろそろ、一つ目の結界維持装置につくわよ」
歩きながら話していたせいか、移動時間がすごく短く感じられる。
その結界維持装置は、砂浜にあった。
ぽつんと砂浜の上にたたずみ、薄く水色の光を放っている。
こんな小さいものに…人間の暮らしは守られてるのね…。
「さて…じゃあ、ドラゴンさんたちが襲ってくる前に、いっちょ海のゴミ掃除でもするです!」
そう言いながら、エリンさんは持っていたピンで長い前髪を頭の上で止めた。
そのピンの先端についた飾りは…ドクロ…?
なんだか…怖い見た目のピンを持ってるのね…。
あんな綺麗な桃色の髪をしてるんだし、もっと可愛くて綺麗なピンを付ければいいのに…。
そう思いながら私は視線を下げてエリンさんの顔を見た。
すると、厚い前髪の下から現れたのは、きりっとした綺麗な薄紫色の瞳だった。
「え…エリンさん…?」
まるで…別人みたい…。
凄く綺麗な人…。
目元が見えるか見えないかで、こんなに変わるなんて…!
「姉さん! ちょっと掃除してきますです! シルヴィちゃんのことは頼んだです」
エリンさんは、そうにっこりと笑うと、履いていた靴を脱ぎ棄て、長めのスカートをたくし上げた。
腰に巻いてあったベルトで器用にスカートを固定させると、エリンさんはそのベルトに下げられた短剣を二本手に取った。
そして、すごい勢いで走り出す。
「え…!?」
いくらなんでも、走るのが速すぎる…!?
エリンさんは、勢いをそのままに、海の中へと入っていく。
「驚いた? あれは、エリンの脚力強化魔法の賜物よ。あの子の足は何よりも速いし、海の上だって駆けることができるの」
「そんなことが…」
…できちゃってる…。
なんて言ったっけ…あの…トカゲみたいな…。
あぁ、そう…バシリスク…みたいな…。
とにかく、人間業じゃないわ…。
魔法は、うまく使えば人間では到達できないような領域の力を手に入れられる…。
そんなどこかの偉人の言葉が、今ここで立証されたような気がする。
その後数十分で、アストラス大陸周辺の海に居た魔物のほとんどは一掃された。
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