帰還
女の子の腕の中で大泣きをして、真っ赤に目を泣きはらし、恥ずかしさに顔と耳を真っ赤にさせた僕は、泉のふちでずぶ濡れでうずくまっていた。
そんな無様でみじめな僕の頭には、見事なたんこぶが三つ。
一つ目はエリシアが、
『ジルー!!! 戻ってきてくれたんだね!』
と、ドラゴンの姿でのしかかて来た時、背後にあった岩に頭をぶつけ、二つ目は村の人たちを安全な場所に転移させ終わったゼアスさんに、
「てめぇ、俺に面倒な仕事押し付けて自分は大泣きしてるってどういう了見だ!」
と、ぶん殴られ、三つめはシルヴィに、
「…ばかっ…」
と、平手打ちされた折にバランスを崩して泉に落ち、ゼアスさんが、
「これに掴まれ!」
と放り投げた丸太が頭に当たったのである。
これだけ何度も頭を強打したにもかかわらず死なない僕が、どうして前世ではゴミ箱が頭に当たっただけで死んだのか…なぞだ…。
…さて…この三人が勢ぞろいした今…僕がするべきことは、ただ一つ…!
「…皆…本当に…すみませんでした…!!」
そう、僕は完璧な姿勢で土下座をした。
「もういい、そんな無様な恰好で土下座までされたら、俺たちが悪者みてぇじゃねぇか」
「でも、ジルのたんこぶ二個分は、ゼアスおじさんのせいだよね?」
「おじさんじゃねぇっつってんだろ! 一個分は認めるが、二個目は不慮の事故だろ」
「ごめんねジル、私、まさかジルが泉に落っこちちゃうなんて思ってなくて…」
土下座をしている僕に、シルヴィがそんな風に声をかける。
「ち…違うんだ…! 僕が悪いんだ…全部」
「おい、ジル。てめぇ、また約束すっぽかして逃げたりしねぇだろうな?」
「…逃げない…もう逃げないよ。でも、聞いてほしいんだ。僕の過去の事。生まれ変わっても…この人間の姿の限り、きっと呪いは付きまとう…。だから、僕がみんなの側にいていいか、皆が聞いて判断してほしい」
僕は顔をあげて、皆の表情を見ながらそういった。
誰も、僕のことを蔑むような眼で見ていない。
誰も、僕のことを嫌っていない。
だけど、これから話すことを聞いたらどうなるんだろう。
僕はまた、ひとりになるのかもしれない。
それでも…それでも僕は、皆と一緒に居たいし…一緒にいることで皆を不幸にはしたくないって…そうおもうから。
話さなきゃならない。
「まぁ、それを聞いてやる前に、この大陸から出んぞ」
ゼアスさんが、そう荷物を担ぎ上げる。
「えぇっ!?」
覚悟をきめて、話す気満々だった僕としては、拍子抜け過ぎる。
これはまた…いざ話せってなったときに覚悟を決めるのはちょっと時間がかかりそうだ。
「こんな魔物だらけの場所で、話もクソもねぇよ」
「…そうね、ゼアスさんがあの村の人たちを避難させてくれたのなら、もうこの大陸に、生き残りはほとんどいないでしょうし…居たとしても見つけ出すのは…」
「…ドラゴンが…率いてるんでしょ? なら、もう、殆どじゃなくて、残ってないよ。ドラゴンがこんなことするなんて…」
「だろうな。奴らは的確に人が居る場所に魔物を送り込んでいやがった。ギルド支部の周辺には、その手がまだ回ってなかったっつーわけだろ。これより北の方は、もう手遅れだ」
「わかった…一度戻ろう…」
僕たち四人は頷きあうと、エリシアと僕はドラゴンの姿に。
僕にシルヴィが、エリシアにゼアスさんが乗ると、静かにその場を飛び立った。
その後僕たちは、一日飛び続けてギルド支部の方に戻り、転送魔法の小屋へと入った。
恐らくゼアスさんは、僕の前世の故郷の村の人たちも、一度ここに転移魔法で運んでから、他の大陸に移したんだろう。
「普通の転移魔法じゃ大陸から大陸へなんて距離を移動はできねぇが、ここからなら転送装置がなくても、俺の転移魔法を強化することができるんでな」
そういうと、ゼアスさんは魔法の詠唱を始める。
ゼアスさんの足下に魔法陣が光りはじめ、その魔法陣は、小屋の床に刻まれた大きな魔法陣をも巻き込んで強烈な光を放つ。
「行くぜ。てめぇらは、ちっと目閉じてろ」
そんなゼアスさんの声とともに、僕たちは目を閉じた。
そして、次の瞬間目を開くと、そこはギルド本部の転送の魔法陣が描かれた小屋だった。
「…全員居るな?」
そういうゼアスさんの顔には、流石に少し、疲れが見えた。
「ゼアスさん…大丈夫…?」
「…お前と違って、そんなにひ弱じゃねぇんでな」
その場に四人いることを確認したゼアスさんは、扉を開き、ギルド本部の建物の方へと歩いていく。
その途中で、ゼアスさんの体が傾いた。
…!
…やっぱり限界だったんじゃないか…!
僕がゼアスさんの体を支えようと駆け出した瞬間、ゼアスさんの体は前方から現れた誰かによって支えられた。
「…珍しいじゃないですか、兄上。こんなになるまで、ちゃんと仕事するなんて」
「…うるせぇぞ、レイン。ちっと疲れた。仮眠室まで連れてけ」
「…私も今帰ってきたばかりで疲れてるんですが…」
「…知るか…そんなの…」
ゼアスさんを支えたのは、ゼアスさんとそっくりな紺色の髪を持つ青年、レインさんだった。
「君たちもお疲れ様。少し休むといい。報告はそれからでもいいって、父上…マスターが言ってたからね。シャワー室でも仮眠室でも、好きに使っていいからね」
そう、レインさんは優し気な表情で僕たちに言うと、自分よりも少し身長の高い兄をほとんど引きずるようにして連れて行った。
そういえば…僕、丸二日ぐらい、眠ってないんだっけ…。
そう考えると、頭がグラグラしてくる。
その後、僕とシルヴィ、エリシアは、個室に分かれたシャワー室を借り、仮眠室のベッドでで死んだように眠りにつくのだった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
よければブックマークなど、よろしくお願い致します!




