焼けた町で
町に蔓延る魔物をとにかく倒して倒して倒しまくる。
けれど、なかなか魔物の量は減らなかった。
今は、僕とゼアスさんで魔物を倒し、シルヴィとエリシアが逃げ遅れた人間がいないか確認している最中だ。
見つけた人間はギルド支部の側に集め、ゼアスさんがまとめて安全な場所まで転移魔法で移動させる手筈だった。
ギルド支部の方に魔物が行かないように戦うのは、正直骨が折れる…。
支部の方に行こうとする魔物を尽く引き付けていたら、2対30ぐらいになってしまった。
それでも問題なく戦えているのは…ひとえにゼアスさんの強力な魔法のおかげだ。
「おい、ジル!! 火消せ! 熱い!」
空を飛び回りながら魔物を撹乱している僕に、ゼアスさんはそう叫ぶ。
『消せるには消せるけど…町が氷漬けになっちゃうよ…?』
「何言ってるか分かんねぇけど、細かいこと気にしねぇでやれるんならやれ!!」
…まぁ…町が炎上してるよりかは氷漬けの方が安全かな…?
というかこの人、何言ってるかわかんないのにそんないい加減な返事しちゃうんだ…。
やっぱりゼアスさんはほかの人とはひと味違う。
僕は魔物の隙を見て地面に降り立つと、両方の前足を地面に叩きつけた。
すると、僕を中心に大きく氷が広がっていく。
炎が燃え盛っている所では僕が作り出した氷と、炎がぶつかって煙を立てて両方消え、炎がない場所は氷が固まって残った。
町にいる殆どの魔物はもう、僕の氷の上にいる。
…これなら、全部一気に倒せるかな。
そう思うが早いか、僕は前足に力を込める。
すると、町の至る所で氷がせり上がり、魔物を氷漬けにする。
動きが止まった魔物を、今度はゼアスさんの魔法が尽く砕いた。
「やるじゃねぇかジル! 流石はドラゴンだな」
ゼアスさんは駆け寄ってきて、僕の後ろ足を叩く。
僕は人間の姿になると、小さな声でゼアスさんに問いかけた。
「…で、ゼアスさん…。この氷漬けの町、どうしましょう…」
「ほっとけ、燃え尽きるか氷漬けだったら氷の方がマシだろ」
「……」
「……さみぃな」
「ですよね」
「お前寒さとか感じるのか?」
「人間の姿だと、残念ながら…」
「そーか…」
先程まで威勢よく魔物と戦っていた男達が、氷だらけになった町で震えながら縮こまる。
…シルヴィたち、大丈夫かな…。
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「シールヴィ!! こっちにももう人居ないよ!」
「うん、こっちにもいなかったわ! 殆どの人はもう誘導できたかしら…」
「多分! ちょっとエリシアは空から見てみるね!』
そう言っている途中で、エリシアは真っ赤なドラゴンへと姿を変えた。
大きな翼を羽ばたかせると、エリシアの体は浮かび上がる。
でも…ジルよりも身体が大きいからか、
エリシアはなかなか高度を上げられてないように見えた。
エリシアが町を空から見て回ってくれている間に、私は燃え盛る町の中を歩き出す。
どこか、瓦礫の下敷きにでもなってたら、エリシアは空から見つけられない。
私もしっかり目を配らないと…。
そう思った時、地面が急に凍り始めた。
燃え盛っていた建物の炎も消え、町に静寂が訪れる。
…ジル…?
そう思いながらジルとゼアスさんがいるであろう方向をみると、その辺りにいた魔物が氷漬けになり、それが砕け散るのを目の当たりにした。
す…すごい…。
あんなに沢山いた魔物を一瞬で…!!
ジルとゼアスさんは息もすごくあってるみたいだし、もしかしたら最強の組み合わせなのかもしれないわね…。
私も負けていられない!
きょろきょろと、あたりを見回しながら、町の奥へと進んでいく。
町の一番奥の行き止まりまで来てみたが、何処にも倒れている人はいない。
…よかった。
もう取り残された人は居ないみたい。
私も戻らなくちゃ…。
そう駆け出そうとした時だった。
近くの家の屋根から、巨大な何かが目の前に降ってきた。
それは、一つ目で巨大な口と牙を持つ、二足歩行の怪物だった。
「っ…! 魔物!!」
偶然家の屋根の上にいたせいで、ジルの氷が届かなかったのね…!
私は素早く呪文を唱え、雷の魔法を魔物に向かって放った。
その魔法は、思い切り魔物の顔に当たるが、魔物は仰け反るだけで、すぐにまた私に向かってくる。
この魔物…硬い…。
しかもこんなに距離を詰められてたら、弱点の場所を探す暇もないわ…。
だけど…それでも私だって…魔物の一匹ぐらい一人で倒せるようにならなくちゃ…!
もう一度私は呪文を唱え始める。
けれど、その魔法が発動する前に魔物は私に向かって拳を振り下ろした。
それを飛び退いて避け、着地した瞬間に、ぐらりと体制が傾いた。
え…。
驚いて地面に視線を向けると、魔物が殴りつけた場所を中心に、固い地面が思い切り割られていた。
…このままじゃ、体制を立て直せない…!
魔物は、大きく手を振りあげ、私を掴もうとしている。
掴まれたら、一環の終わり…!
だけど…どうしたら…。
私、死ぬの…?
こんな所で、こんな魔物に殺されて…?
頭にそんな思いがよぎった瞬間に、恐怖が押し寄せてきた。
だが次の瞬間、横からの衝撃とともに、私の体は何かに包まれて、その場から離れた。
魔物の手は空を切り、魔物は悔しそうに足を踏み鳴らす。
そんな魔物には、どこからともなく飛んできた超火力の魔法が直撃した。
私を危機から救ってくれたのは、白髪の少年。
人間の姿のジルだった。
私はジルに抱きしめられたまま転がり、壁にぶつかって止まった。
その壁にぶつかる時も、ジルが庇うように体を捻ってくれたおかげで、私自身は壁に全くぶつからなかった。
「シルヴィ…! 大丈夫!?」
慌てたような声とともに、私の両肩を掴んでジルは言う。
「うん…大丈夫。ありがとう、ジル」
そうジルの顔を見れば、壁にぶつけたのかジルの額には血が滲んでいる。
結構な距離を転がったせいか、ジルの腕も、足も、肌が出ている部分は擦り傷だらけだ。
それなのに…。
私の大丈夫、という言葉を聞いた途端に、ジルは心底嬉しそうな、ホッとしたような顔で笑った。
「あなたのほうが大丈夫じゃないじゃない…待ってねすぐに治すわ!」
私はすぐに魔法の詠唱をする。
すると、ジルの怪我はすぐに綺麗に消えてなくなった。
「あ…ありがとう、ごめんね…」
「どうして人間の姿でとんできたの? ドラゴンの姿なら、そんな怪我もしなかったのに…」
私は不思議に思ってそう聞いてみた。
すると、ジルは少し困ったように頭を掻いてから口を開いた。
「僕、まだドラゴンの姿だと力加減を上手くできなくて…もし、助けるつもりで飛び込んでシルヴィに怪我でもさせちゃったらいけないと思って…」
…私のために…自分が怪我するのも承知で人間の姿で飛び込んできたの…?
「…バカ…。それであなたが怪我したんじゃ…意味無いじゃない…」
「ご…ごめん…。そうだよね、結局シルヴィの手を煩わせることに…」
そんな風に俯いて謝るジルを、私は気がついたらギュッと抱きしめていた。
「し…シルヴィ…?」
「ジル…本当にありがとう…」
そんな私の声は、小さく震えていた。
…まるで、私の弱さを映し出すかのように。
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