責任感欠落人間
やっとのことで海沿いの一部の結界の張り直しが完成し、魔物も倒し終わり、結界の張り直しをしてくれた魔導士の皆さんに挨拶もされた後、僕は怒り心頭で草原のど真ん中で寝こけているゼアスさんのもとへ駆け寄る。
「ゼアスさん!?」
そう呼びかけても起きない。
………。
これでもかというぐらいに揺さぶってみる。
首がまだ座っていないかのようにグラグラと揺れるが、
それでも起きない。
……。
頬を手の甲でぺちぺちと叩いてみる。
それでもまだ起きない。
…。
ぷちっと、何かが切れる音が聞こえた気がする。
僕は気づいたらドラゴンの姿になり、前足を持ち上げてゼアスさんに振り下ろしていた。
「いやぁ、さすがにそりゃあ死ぬな」
という声が、僕の背後から聞こえてくる。
『……』
今の一瞬で転移魔法で逃げたらしい。
その力で、どうしてもう少し手助けをしてくれなかったのか。
「ジルの怒ってるところなんか初めて見た…。ゼアスおじさん反省した方がいいと思うよ?」
「だから誰がおじさんだ! まぁ、いいじゃねぇか、無事仕事も終わったんだしな」
『……』
僕は軽く首を曲げ、ゼアスさんに向かってふっと息を吹きかける。
「あっつ!!」
僕はドラゴンから人間の姿になり、若干涙目なゼアスさんを睨む。
「自業自得です」
「ほーう? こんな報酬のいい仕事に連れてきてやったことへの感謝はねぇのか」
「頼んでません」
「おー…ジルがちゃんと言い返せてる…」
「…エリシア、揚げ足をとるのやめて…」
「はーい、ささ、続けてください!」
すでにエリシアのおかげで戦意がなくなってきているのだが、僕は口を開く。
「無茶させたこと、謝ってください」
「そりゃあ悪かったな」
「僕じゃなくて、シルヴィに」
そう僕は荷物の側に横になっているシルヴィのほうに視線をやった。
魔物の討伐は、確かに無事に終わった。
けど、終わった瞬間にシルヴィは力の使い過ぎでその場に倒れてしまったのだ。
討伐が終わってまもなく、仕事の報酬の詳細なんかを聞きに行かなきゃならなかったから、すぐに人間の姿になり、シルヴィを柔らかい布の上に寝かせてやることしかできなかった。
大体、そういう詳細を聞くのは引き受けた本人のゼアスさんのはずなのに、それも放棄してぐーすかと寝こけていた始末だ。
この人は強い。
目を見張るぐらいに。
だけど、ドラゴンの僕が言うのもなんだけど人間として必要なものがいくつも欠落しているようだ。
「まぁ、そう怒るな。というかお前自分の扱いに関してはなんも言うことねぇのかい?」
「僕のことはどうでもいいんで」
「へぇ…本当に面白いやつだな」
ゼアスさんがそう僕の白い髪をぐしゃぐしゃと撫でる。
髪がぼっさぼさになったが、そんなのはどうでもいい。
どうせ髪なんかどうなっていても僕が冴えないのは変わらないのだから。
とにかく、僕はシルヴィに無茶させたこの人を許せない。
なんとしてでも謝らせたい…!
「まぁ、俺は、途中で変わるかちゃんと聞いたぜ」
「嘘だ、僕たまに見てましたけど、ずっと寝転がりながらお茶啜ってましたよね…!」
「や、一回だけ聞いてたよ、シルヴィに交代するかどうか」
「…エリシア……君どっちの味方なの…」
「ほれ見ろ。お前にはほーんのちょっと悪いことしちまったかと思ってたがシルヴィには悪いことしてねぇぞ! 最初だってやらせてくれっつったのはシルヴィだからな」
「…!!」
僕に関しては、ほとんど最初から最後まで自分の仕事でこき使ったんだから、ほんのちょっとじゃなく大いに反省してほしいところだが、これではシルヴィのことに関してもう言い返せない。
…ごめんシルヴィ…。
僕の交渉術がなってないばっかりに、君の敵をとれなかった…。
「ま、おめぇらは随分よく頑張ったじゃねぇか。依頼書が、何段階にランク分けされるか知ってるか?」
「…EからS級までって聞きましたけど…」
「まぁ、正確にはSの上もあるんだがよ。それは置いといてだ。この依頼、ランクはどこだったと思う?」
「…B…とか…?」
「Sだ」
「……!?」
「初仕事で高難易度のやつをクリアしちまったんだ。喜べ」
ゼアスさんはそういい、エリシアは嬉しそうに
「すごいね! ジルもシルヴィも!」
とはしゃいでいるが、それよりも疑問なことが一つ…。
「そんなS級の依頼書を、こんな初心者が受けていいものなんですか?」
「…気にすんな」
…間があったぞ…。
これ絶対ダメなやつだ…。
そりゃあそうだよ、掲示板の下の方には、何々を討伐してくださいって、魔物一体を指定してる依頼書がいっぱいあったにも関わらず、今回の仕事内容はどうだろう。
約二時間耐久魔物討伐だ。
確かに難易度が違い過ぎる。
「さぁ、細けぇことは後だ後! 面倒なことはレインにやりゃせりゃいいしな!」
…最低なこと言ってる…。
「帰るぞ、シルヴィと荷物持ってこい」
ゼアスさんは、寝転がって肘をつき、その上に頭を乗せた状態で僕とエリシアに言う。
…なんていうだらしなさ…。
こんなテキトーでも、仕事とはできるものなのか…。
僕が荷物を持ち、エリシアがシルヴィをおぶってゼアスさんのところまで行くと、ゼアスさんはあくびをしながら詠唱を始める。
…途中言えてなかったけど、大丈夫なのかな…。
変なところに飛んじゃったりしないよね…。
僕たちの足元が光りだし、僕は目を閉じる。
そして、次に目を開くと、目の前には巨大な冒険者ギルドの本部が立ちはだかっていた。
冒険者ギルドの前に思いっきり寝転がっている二十代前半の男が一人…。
この光景もなかなかシュールだ。
ゼアスさんはのそのそと起き上がり、あくびをしながらギルド本部のなかに入っていく。
…今回の一件から学んだことは、転移魔法は人を駄目にする…ということぐらいかな。
あぁ…あと、ゼアスさんと一緒にいるといいように使われる、とか。
とにかく、あまりいいことがない一日だった気がする。
そうため息をつきながら、僕とエリシアはゼアスさんの後を追う。
「…そういえば、どうして僕がドラゴンってわかったんですか?」
「シルヴィが援護魔法の使い手な割に、おめぇら二人は近距離での戦闘が得意そうには見えなかったんでな」
「…それだけですか…?」
「あぁ、言ってみたら当たっちまっただけだ。てめぇも誤魔化すのがへったくそ過ぎんだよ」
「……」
いつも気怠そうな割に、考えているところは考えているのか…。
なんだかわからない人だな…。
僕はゼアスさんから視線を外し、正面を向く。
すると、そこに立っていたのは、初めて会った時の優しそうな顔はどこへやら。
鬼の形相をしながら書類の山を抱えたレインさんの姿だった。
「兄上!!」
そんな声も、心なしかさっきよりも低い。
「何やらかしたんだ、レイン」
そうゼアスさんは誤魔化そうとしているけど…さすがに無理でしょ…。
「全部あんたの始末書だろうが!!!」
というようなレインさんの怒号がギルド内に響いたのは言うまでもない。
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