仲間達の力
エリシアは、ゼアスさんを背負った状態で、ソフィアと共に通路の奥へと進むべく走っていた。
「ジルとシルヴィ、大丈夫かな」
エリシアは走りながら呟いた。
もう道は絞られてて、進むべき道はここしか無い。
神様が居るんだとしたら、この先にいる可能性が一番高いんだけど…。
ギルドの皆が一斉にかかって行っても倒せるかはわからないような相手に、今二人だけで立ち向かっているかもしれないと思うと、エリシアはふたりが心配でならなかった。
エリシアの呟きが聞こえたのか、ソフィアはちらりとこちらを見ると、小さな声でエリシアの言葉に答えた。
「あのふたりは、とても強い。きっと大丈夫」
ソフィアはそう言いながら一瞬腹を抑えた。
…もしかして、ソフィアを気絶させたのはジルとシルヴィだったのかな…。
強いってところは確信に満ちた感じで言ってたけど…。
しばらく進んでいけば、ずっと進んできた真っ直ぐな通路が壁に突き当たる。
「…行き止まり…?」
ジルとシルヴィの姿はここまで来るのに見ていない。
エリシアがふたりの姿を見落とすはずないし…。
じゃあ、ふたりは何処に…?
エリシアの隣で、ソフィアは目を細めてその壁を見つめた。
そして、壁を力強く殴った。
するとその壁は崩れ落ち、下へと続く細い通路が現れた。
「ソフィア、手、大丈夫?」
そう聞くと、ソフィアは小さく頷きながら、壁を殴った方の手をぷらぷらとさせた。
…多少は痛かったみたいだ。
ジルとシルヴィも、ここを進んだのかな…?
それにしては、きっちりと壁で通路が塞がれてたけど…。
まぁでも、ここで起こることは不思議なことばかりだから、壊された壁がもう一度現れることくらいそんなに不思議でもないか…。
エリシアはそう割り切って下へと続く通路を覗き込んだ。
その先は暗くて、滑り台の様に下へと続いていた。
「…この先に進みたいけど、ゼアスさんを背負ったままじゃ滑り降りられないよね…」
エリシアの言葉に、ソフィアも横で頷いた。
エリシアはうーんと首をかしげながら考えてみる。
背負ったままでダメなら…。
「…転がす?」
「怪我してもいいなら」
「やっぱり怪我するかなぁ、ゼアスさんなら大丈夫じゃないかなぁ?」
「…やってみたら?」
…ソフィアの言葉に、ゼアスさんを転げ落とそうと背中から下ろしたものの、あまりの急斜面に、確実に怪我するだろうと思い直し、ゼアスさんを安全な場所に寝かせた。
「…やめるの?」
「うん、起きた時に怒られるの嫌だし」
「……」
ソフィアはじっとゼアスさんのことを見ると、少し考えるような表情をしてからかがみ込み、ゼアスさんの頬をぺしぺしと軽く、早く叩いた。
すると、段々ゼアスさんの表情が変わってくる。
眉間にシワを寄せ、一瞬呻き声のようなものをあげたかと思うと、ぱちっと目を開きソフィアの手を掴んだ。
「…」
「…あ…?」
状況が理解出来ていないように目をぱちくりとさせるゼアスさんの手を振り払って、ソフィアはエリシアの後ろに隠れた。
もっとも、ソフィアの方がエリシアよりも背が高いため完全には隠れられないが、ソフィアはエリシアの両肩を掴んで肩を竦めている。
少なからず、大怪我を負わせたことを申し訳なく思っているみたいだ。
「あ、起きたんだね、ゼアスさん! よかったぁ…。」
エリシアがそう言いながらゼアスさんの目の前にかがみ込むと、ソフィアもエリシアの後ろで縮こまった。
「…エリシア…?」
ゼアスさんはエリシアの顔を見て瞬きしてから、エリシアの後ろで気まずそうにしているソフィアに視線を向けた。
そして、思いだしたかのように目を見ひらき、小さく笑う。
「…頑張ったな」
小さな声でゼアスさんはそう言うと、拳を作って軽くエリシアの額を小突いた。
「…ゼアスさんのおかげだよ。ソフィアがゼアスさんの怪我なおしてくれたんだよ!」
エリシアがそう言えば、ゼアスさんは驚いたように目を見開いた。
そして、ソフィアの方に一度視線を向ける。
けれど、ソフィアは一瞬ゼアスさんと目を合わせたあとすぐに気まずそうに目を逸らしてしまった。
「…ありがとな」
ゼアスさんのその声に、ソフィアは驚いたように目を見開く。
「どうして…お礼…」
「ま、怪我はお前にやられたんだし治してもらったことにゃそんなに感謝してねぇが、俺を助けたってことは、ちょっとくらいは人間を信じてくれたってことだろ?」
「ね、ソフィア! ゼアスさん、すっごくいい人でしょ?」
エリシアの弾んだ言葉に、ソフィアも小さく頷いた。
「…お前にゼアスさんって呼ばれるともはや違和感しかなくて気持ち悪くなるな」
折角いい感じの空気が流れてたのに、ゼアスさんのその言葉で一瞬で台無しになる。
ちょっとだけカチンときたエリシアは、ゼアスさんの横で立ち上がると、
「じゃあ空気読めないおじさん! 丁度起きたんだし、先に行って!」
と、にこにこ笑って言いながらゼアスさんの背中を軽くとんっと押す。
すると、ゼアスは体勢を崩し、下へと続く通路に吸い込まれるように入っていく。
「わ、ちょっおまっ…!!」
「エリシアとソフィアもすぐ行くから〜!」
「ざっ…けんなー!!!」
というゼアスさんの声が遠ざかっていく。
随分勢いのある速さで滑り降りて行ってるみたいだ。
ゼアスさんの声が小さくなり、聞こえなくなってから、エリシアはソフィアの方に視線を向けて言った。
「んじゃ、エリシアもゼアスさんを追っかけて行くね! ソフィアも来てくれる?」
ソフィアは、エリシアと目を合わせてからコクリと頷いた。
「ありがと! よーし、行っくぞー!」
エリシアはそんなふうに声を出して気合を入れると、下へと向かう急な通路へと飛び込んだ。
暗くて長い通路を、すごい勢いで滑り降りていく。
どれだけ滑り降りて行っても、周りの景色は全く変わらずに、本当に下へと降りていっているのか分からなくなる。
そんな時、エリシアの前方に、誰かの影が見えた。
そして、その人にエリシアは思い切り速度を落とせずに突っ込んだ。
「わぁ!?」
「だぁっ! エリシアてめぇ入ってくんの早ぇよ!!」
「仕方ないじゃん、先の方全然見えないし、ゼアスさんが下に着いたかなんてわかんないよ」
そう言いながらゼアスさんの方に視線を向けると、ゼアスさんのさんは右手で壁にある小さめなくぼみに手をかけていた。
「でも、何でこんな中途半端なところで止まってるの? 最後まで行っちゃえばいいのに」
「そこに、ちっせぇ扉があるのが見えるか?」
「え? 扉…?」
エリシアはほぼゼアスさんに乗っかるようにして止まったまま、上の方を見上げた。
するとそこには確かに、ゼアスさんの言う通り小さな扉があった。
しかも、その扉はもう既に開いているようだ。
「あれがどうかしたの?」
「あの中で、誰か倒れてるのが見えた」
「滑り降りてく途中でよく見えたね…じゃあちょっとエリシアが見てくるよ!」
エリシアはゼアスさんを踏み台にして急な斜面を這い上がると、小さめな扉に手をかけた。
その瞬間、音もなく無表情でソフィアが上から滑り落ちてきたかと思うと、エリシアにぶつかる。
「…あ」
その衝撃で、エリシアの手が扉から離れ、ふたたび斜面を転げ落ちていく。
そして再びゼアスさんに勢いよくぶつかった。
「あっ、てめっ…」
が、今回はそこで留まることなく、三人ともごろごろと下へと転げ落ちていった。
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