ソフィアとエリシア
俺は懐かしい顔ぶれの二人と退治することとなった。
メリヌとアシュは、俺が17歳の時に組んでいたパーティメンバーだ。
あの時、確かにふたりは死んだ。
まさかこんな形で再開するとは思ってもみなかったが。
このふたりを死なせてしまってから、俺は何度もふたりが生き返ってくれたらと思った。
だが、こんな形で再開したいと願った覚えはねぇんだがな…。
神の狙いが、俺がこのふたりに足止めされるという事なら、そうはいかねぇ。
一度は操られて今の仲間に迷惑をかけちまった俺だが、偽物とわかってる奴らに惑わされたりはしない。
二人の見た目が全く同じで、二人の本当の体を操って動かしているのだとしても、二人の意識がなければ、それはもう俺が知ってるメリヌとアシュじゃねぇ。
そう、俺は自分に言い聞かせた。
いくら言い聞かせても、辛いもんは辛いがな。
本当に、神ってのは卑怯なやつだ。
俺は両手を自身の前に構えた。
「二人共…今度こそ安らかに眠れよ」
飛びかかってくる赤く光る目を持つふたりを、俺は魔法で蹴散らした。
いつか、俺が死んでもう一度ちゃんと会えた時には、俺はあいつらの恨みを受け止める。
けどまだ、今はその時じゃない。
現実から目を背けていたいわけじゃない。
ただ、今は、今の俺の仲間達のために全力を尽くしたい。
そう強く思う。
俺は、傷は最小限に抑えて倒した二人を一瞥し、少しかがみ込んで二人の瞼をそっと下ろした。
二人の姿を見るだけで、胸が痛む。
それを堪えて、俺は立ち上がり、駆け出した。
こんなくそ気味悪い所、さっさと抜け出してやる…!
全員揃ってな!
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どれ位の時間走っていたのだろう。
俺はジルたちの元へ急いでいた。
もしかしたら、もう神と接触してるかもしれねぇ。
親父からの連絡もまだ来ねぇし、ジルとエリシアとシルヴィしか、俺よりも先に進んでる奴はいねぇ。
神をあの三人だけでどうにかできるか…。
そう問われれば、できない気がする。
今までずっと、誰にも倒されることなく神として君臨し続けた奴だ。
何かしらの細工で自身を守っている可能性が高い。
とにかく、今三人の助けにいち早く行けるのは俺だ。
急がねぇと…。
そう足を早めた時、前方から話し声が聞こえて俺はとっさに柱の陰に隠れた。
「ソフィア、人間はみんながみんなソフィアが思ってるような酷い人間ばっかりじゃないんだよ。ドラゴンを助けてくれる人間だっている」
…エリシアの声…か…?
俺はその声に耳を傾けた。
「そんなのは、ごく少数」
エリシアの声に静かな声が答える。
その声にはこころなしか鋭い怒りを含んでいるようにも聞こえる。
…そうか、あのドラゴンの族長が目を覚ましたってことか。
となると、シルヴィとジルはふたりで先に進んだか…?
俺はどうしたらいい…?
ここはエリシアに任せた方がいいとして、ジルとシルヴィのところに行きたいが、先に進んだとなればソフィアに気づかれないようにこの場を通り過ぎなければならない。
俺はちらりと柱の陰からエリシア達のいる方を覗き込んだ。
そこには、人間の姿をしたドラゴンがふたり。
向かい合って立っていた。
まだどちらもお互いを攻撃しようとはしていないみたいだ。
なら、俺が入っていって事を荒らげる訳にはいかねぇな。
俺はエリシアたちを無視して先に進むことを諦めて、その場に腰を下ろして息を潜めた。
盗み聞きなんて趣味が悪ぃが仕方がねぇ。
下手に戻ろうとしてバレたらそれこそ阿呆らしいからな。
幸い、俺がすぐ側で話を盗み聞いていることはふたりには気づかれていないようだ。
「確かにちょっと前ならそうだったかもしれないけど、今は違うんだよ! ギルドの皆だって、エリシアがドラゴンってわかっても親切にしてくれた!」
「…ドラゴンと人間は、分かり合えない。人間はドラゴンを殺し、ドラゴンは人間を殺す」
「みんながやられたことをやり返すってしてたら、そうなっちゃうよ。でも、ここで区切りをつけようよ。人間達も変わってきてる。ドラゴンと仲直りしたいと思ってる人達がいっぱい居るんだよ!」
「…それは、痛い目を見たから媚を売ってきているだけでしょう」
エリシアの必死な言葉に、ソフィアは冷静にそう返した。
確かに、段々と人間達の考えは変わってきている。
ドラゴンを皆殺しにしようなんて考えも無くなり、ギルドへのドラゴンの討伐依頼も排除された。
だがドラゴンの方から見たら、それはレゾリア大陸での出来事への恐怖から、人間がドラゴンにいい顔をしているように見えるのかもしれない。
正直な所、あの1件があったから皆が意見を変えた訳では無い。
今までだって、人間もドラゴンとのいがみ合いをやめたいと思っていたはずだ。
しかし、それができない理由というのは、人間もドラゴンと同じだった。
ギルドがドラゴンの討伐依頼を排除してからも、どうしてもドラゴンを討伐してほしいという依頼を直接ギルド本部に持ってきている人も居た。
それを、レインが困り顔で対応していたのを覚えている。
その人は、ドラゴンに大切な人を殺されたというのだ。
でも自分ではドラゴンなんて倒せないからと、そう依頼を持ってきていた。
…ドラゴンと人間は恨み合い、憎しみあっている。
誰もがこのままではいけないと思いながら、誰もこの争いに終止符が打てない。
エリシアなら、そんな今の状況に終止符を打ってくれるような、そんな気がした。
「…エリシアは、ソフィアの気持ちの全部はわかんないよ。でもね、ソフィアが子供を亡くして、すごく悲しんでたのは知ってるの。ソフィアと同じ思いをしてる人間だって沢山いるんだよ。ドラゴンとの争いに何も関わってないのに、人間だからって攻撃されて、自分の大切な存在を亡くした人間もいるの。その人間達の気持ち、ソフィアもわかるよね」
エリシアが、いつになく優しく、穏やかな声で語りかけるように話している。
諭すようなその口調は、いつものような幼さは感じられなかった。
「だけど…!」
「もう、やめようよソフィア。もう、ソフィアの子を殺した人間は居ないんだよ。」
エリシアの悲しそうな声が聞こえる。
「全員、殺したじゃん。もうこれ以上、無関係な人間は殺させない」
「…エリシア、退いて」
「エリシアはドラゴンも人間も笑顔になれる世界を作りたいの!! ソフィアの子だって、きっとそれを望んで…!!」
「うるさいっ!!』
途中で、ソフィアの声がドラゴンの声に変わる。
それに、驚いて俺は物陰から顔を覗かせた。
すると、金色の鱗に覆われたドラゴンが人間の姿のままのエリシアに向かって前足を振り上げていた。
エリシアは涙を浮かべながらドラゴンの姿になること無くソフィアを見上げている。
そして両腕を広げて言った。
「エリシアはもうこれソフィアに苦しんで欲しくない!」
「っ…バカ野郎…!」
俺は地面を蹴って、柱の陰から飛び出した。
くそっ、間に合え…!!
ソフィアの前足が振り下ろされるのが、スローモーションにすら見える。
そんな中、俺は全力で走った。
そして、ソフィアの前足がエリシアに当たる寸前、俺はふたりの間に入りエリシアを抱きしめた。
次の瞬間、俺の体に凄まじい衝撃が走る。
背中を引き裂かれるような痛みと、前足で横合いから殴られたために床と壁に体を強打しそれも激痛が走る。
やっと壁にぶつかって止まったが、その時点で俺はほとんど顔もあげられない状態だった。
「ゼアスさんっ!!」
エリシアが俺を呼ぶ声がする。
けど、聞き慣れない。
おじさんを取って呼ばれたのは、これが初めてだったかもしれない。
俺がうっすらと目を開けると、泣きそうな表情をしたエリシアが俺を見下ろしていた。
そのエリシアの額を、作った拳でコツンと小突く。
「…頑張れ」
特に気の利く言葉は浮かばなかった。
俺はただそうエリシアに言う。
そしてすぐに、俺の意識は暗闇に落ちていった。
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