約束を果たすために
僕の目の前で、神はにこりと楽しそうに笑う。
「思い出したくなかったという顔だね。でも駄目だよ、現実から目を背けたら」
そう言いながらこちらに一歩詰めてくる。
…また、僕を操るつもりか…?
もしかしたら神は、他人の過去のトラウマを利用して幻覚を見せて操っているのかもしれない。
だとしたら…僕の過去のトラウマといえば…数え切れないけど…。
もはやトラウマしか無いような気がするけど…。
でも、やっぱり一番胸に突き刺さるようにして残っている記憶は、やっぱり母さんの死についてだった。
母さんの死に、やっぱり直接僕が関与しているのだと神はいう。
それがどういう事なのか、これから否応もなく聞かされることになるのだろう。
だけど…僕は一度、幻覚に惑わされて操られ、シルヴィに相当な迷惑をかけてしまった。
それはどうしようもなく、僕の心が弱かったせいだ。
…もう…迷惑は掛けたくない。
もう、神のいいように操られたりはしない。
そう決意し、気持ちを強く固めた。
僕の今の仕事は、神の相手だ。
「…その決意に燃えた瞳…気に入らないな。君の母親が死んだのは、君の溢れ出す魔力を押さえつけるために魔力を吸い取られていたからだ。元々魔力を持たない人間なんていない。魔力が無くなれば、それは死に直結するんだよ」
「…僕が、母さんの魔力を吸い取った…?」
「君のそばにいた人間全ての魔力を、君は吸い取っていたんだよ。あの忌々しい女神に接触した後もね。まぁ、今君のそばにいる人間たちはちょっとやそっと魔力を吸い取られたくらいじゃ何ともないだろうけど」
…じゃあ…あの白の教会で行われた儀式のあとから、僕はずっと母さんや村の人たちから魔力を吸い取り続けていたというのか。
それで、母さんは魔力が不足して弱っている時に病にかかり、死に至った…ということか…。
それにしても、僕の魔力を押さえつけるのに、他人の魔力を利用していたというのか。
そう思うと、僕の眉間に自然としわが寄る。
「なにも僕のせいじゃない。全ては君が生まれてきたが故に起こったこと。そうだろう?」
…確かに、そうかもしれない。
僕は、生まれてきてはいけなかったのかもしれない。
だって、僕は周りの人間たちに不幸しか与えていないのだから。
でも…それでも僕は、今は生まれてきてよかったと、少しは思ってるんだ。
だって、生まれてきたおかげで、僕は今、たくさんの仲間たちに恵まれることができたのだから。
「確かに僕は、周りに迷惑しかかけてこなかった。でも…でも、こんな僕でも、受け入れてくれる仲間たちが居た。僕の存在ごと、あなたみたいなやつに否定されたくない」
「へぇ…強気になっちゃって…気に食わないな。君は今までに僕が封印してきた人間のなかでもずば抜けて高い魔力の持ち主だった。出来れば殺さずに操り続けたかったけど…。ま、イライラしてきたしそろそろ殺しちゃってもいいかな」
「そう簡単には殺されないですよ」
シルヴィがこの場にいないことで、全力で魔力を放出しながら戦うことが出来る。
もうこの場の床や壁は凍りつき始めており、普通の人間がここにいたら凍死してしまうのではないかというくらいに気温が下がっていた。
もちろん、僕自身は寒さなどほとんど感じず、そして神の方は元々もうただの人間ではない。
寒さで死ぬような体の作りにはなっていないのだろう。
直接的にこの寒さが戦いの行方を左右する訳では無いが、これくらい冷気が溜まっていれば、僕も氷を作りやすい。
少しだけでも、僕が優位に立ち回れるかもしれない。
そう思った時だった。
「君は戦う気満々みたいだけど…彼女を放っておいていいのかな?」
その企むような笑みに、僕は目を見開いた。
「シルヴィに…なにを…!?」
「別に僕は何もしていないよ、あの子が勝手に破滅の一途を辿って行っているだけだよ」
「っ…!!」
僕はシルヴィが何をしに行ったのか全く知らない。
それが、シルヴィの身を滅ぼすという事になるのだろうか。
とにかく止めに行かなきゃ…!!
そう一歩を踏み出そうとした僕の肩にズキンと鋭い痛みが走る。
方に視線を向ければ、そこからは治まることなく血が溢れ出していた。
痛みが走っているせいもあるのか、僕の左腕は殆ど動かせなかった。
「君はその肩では彼女がいる場所には辿り着けないよ。少し特殊な場所にあるから」
「シルヴィは今何処にいるの!?」
「僕の心臓がある場所」
心臓…。
さっき神が言っていたものが、この近くにあるのか…。
そして、それにシルヴィが何らかの形で気づき、それを破壊しに行った…。
それでシルヴィが身を滅ぼすということは…。
「心臓を守るために、何か細工を…?」
「お察しの通りだよ。心臓の周りには結界が張ってあるのだけどこれが特殊でね。結界に攻撃をした本人にその攻撃を倍にして返すというほぼ鉄壁の結界なんだ」
「なっ…!!」
神と僕の会話の最中、僕達がいる部屋が一瞬赤く光った。
「彼女、僕の心臓がある場所にたどり着いたみたいだ。きっと君のためにと無茶するよ。死んじゃうよ? さぁどうする? 僕は死なないし、君の大切な人は危ないし、でも君はその大切な人のところへはいけない」
シルヴィは、もうほとんど動く力は残していなかった…。
そこに自分の攻撃が2倍になって帰ってきたら…耐えられるはずがない。
助けに…行かなきゃ…。
…でも、神を野放しにしておいていい気もしない。
「…僕は……」
ぐっと唇を噛み締めて、前を向いた。
「シルヴィを信じて、あなたと戦う」
シルヴィは、死なないと約束してくれた。
だから僕も、それを信じて…。
僕の仕事を果たす。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
よければブックマークなど、よろしくお願い致します。




