幻と声
僕は神に向かって猛攻を仕掛けていく。
いくら斬っても斬っても、神の動きはなかなか鈍らなかった。
絶対に…絶対に殺してやる…!!!
そう思いながら氷で作り出した武器を振り続けるけど、そんな時、僕の横で聞いたことのある声がした。
その声は、僕に語りかける。
「ジル…。他人を憎んではいけないわ」
その声は、だんだんと近づいてきたかと思うと、僕のすぐ横に女の人の姿が現れた。
それは、僕の今の白髪とは似ても似つかない黒髪を持つ母さんの姿だった。
母さんは、そっと立ち止まった僕の頬に手を伸ばす。
そして、ニッコリと微笑む。
「もう誰かを憎むのはやめなさい、ジル」
「…っでも…!」
でも、僕は絶対に、あいつを殺さなきゃならないんだ…!!
あいつを……。
どうして…殺すんだっけ…?
今さっきまで明確な目的があったはずなのに、それは僕の頭の中から綺麗さっぱり抜け落ちてしまったかのように思い出せなかった。
どうして…どうしてだ…?
僕は、絶対に……。
「混乱しているのね。でも大丈夫よ、全ては…あなたが悪いのだから」
「…!?」
僕が…?
「私が死んだのもあなたのせい、シルヴィという少女が死んだのも、あなたが弱いせい」
「…っ……!!」
シルヴィが…死んだ…。
そうだ…!
それで僕は、神に復讐を…。
でも…でも、シルヴィが死んだのは、僕のせい…?
頭の中がごちゃごちゃして、何が真実かわからなくなる。
それに、立ち止まっているはずなのに、息が荒くなる。
足や腕の筋肉も、使いすぎた時のように痛み、動かしづらくなる。
「あなたの大切な人は、全員あなたが、あなたの手によって殺すのよ」
母さんは、にこやかにそう僕に言った。
「…僕は……」
「あなたは、生まれてきてはいけなかったの」
母さんの言葉に、血の気がさっと引いた。
僕のせいで、僕がいるだけで周りのみんなが不幸になる。
そう、わかっていたはずなのに…。
僕は自分のわがままで、皆の側に居続けた。
みんなの優しさに甘えて、ここが僕の居場所だと、そう勘違いしてた。
確かに、僕にとっては居心地のいい居場所だったかもしれない。
けど…他のみんなからしたらいい迷惑だ。
僕がいるだけで、不幸が訪れる。
…僕は…やっぱり、生まれてきちゃいけなかった。
僕と出会わなければ、シルヴィは死ななかった。
そう思った僕の目から、涙がこぼれ落ちる。
僕は…死んだ方がいい。
こんな時でも僕はろくでなしで、死んだら、シルヴィにもう一度会えるかな、なんて考えてる。
僕がシルヴィと同じ、天国のような場所に行けるはずがないのに。
そしてもう会えたとしても、笑いかけてもらえるはずがないのに。
そんな時、僕の体が何か温かいものに包まれる感覚がした。
…なんだ…?
……とても、心地いい…。
そう思った瞬間、聞き慣れた、僕が一番求めている人の声がすぐ側から聞こえた。
「目ぇ覚ましなさい!! ジル!!!」
そんな大きな声とともに、頬に激痛が走る。
その痛みを感じるのと同時に、僕のすぐそばにいた母さんの姿は消え失せ、代わりに僕の目の前にシルヴィの姿が現れた。
最も、シルヴィの姿が見えたのはシルヴィの拳がぼくの頬に直撃してから僕の体が吹き飛ぶまでの一瞬間だけだけど。
僕はそのまま随分と長距離を吹っ飛び、壁に打ち付けられて止まった。
一瞬で脳震盪のようになり、僕は動くことが出来なかった。
そして次の瞬間顔を上げると、なぜだか血だらけなシルヴィに、神が短剣を振りかざしている。
今の状況は全くと言っていいほどに理解できない。
けど…何もわからなくたって僕はシルヴィを助けなきゃ…!!
そう思った僕の視界に映る髪が、いつもの白色ではなく、黒く染まっていった。
それが何を意味するのかは、僕にはまだ分からなかったが、僕は地を蹴り、シルヴィの元へと走り出した。
力強く地面を足で踏みつけて神に狙いを定めると、地面から先端の尖った氷の柱が立ち上る。
そしてその柱は神を仰け反らせ、神はシルヴィへの攻撃を外した。
その間に僕は神とシルヴィの間に入ると、神を力いっぱい殴り飛ばした。
僕が触れた部分の神の体が一部凍りつき、神は地面に叩きつけられる。
そして倒れた神に僕は追い打ちのように作り出した氷のナイフを投げつけ、神はごろごろと転がっていくと壁にぶつかって止まった。
そんな神を無視して、僕はその場に座り込んでいるシルヴィに駆け寄る。
あちこち怪我をしているようだけど、シルヴィの意識はしっかりとしていた。
僕のことを見て嬉しそうに笑うと、僕の頬に手を添えた。
そして澄んだ声で、
「おかえり」
と呟くように言う。
…そうか……やっぱり僕は、操られてたのか…。
それを、シルヴィが引き戻してくれた。
…シルヴィが生きていて、僕に笑いかけてくれている。
…それにひどく安堵して、今までに感じたことのない感情がどうしょうもなく湧き上がってきた。
僕が、シルヴィを失いたくないと、そう思うのは…。
ただ仲間だからというだけではないみたいだ…。
僕は…。
「…ただいま…」
小さく呟いて、僕はシルヴィを抱きしめた。
「…ジル…?」
「本当に、ごめん。次は絶対、守るから」
不思議そうな表情を浮かべたシルヴィから僕は離れ、黒く染まった前髪を払って前を向く。
体から溢れ出す冷気が、強くなっていくのを感じる。
…母さんがなんと言おうと、僕は…。
神を倒す。
世界のためだとか、ギルドのみんなのためだとか、そんな綺麗事を言いたいわけじゃない。
ただ僕が、神が許せないだけだ。
僕だけのために…僕は、神を倒すんだ。
一歩、また一歩と、僕は前に踏み出した。
僕の冷気で、地面に霜が降る。
そんな強烈な冷気を纏いながら、地面にうずくまったままの神に近づいていく。
「…負けたふりは、もういいです」
僕の静かな口調がその場に響く。
その声は、氷のように冷たかった。
「はは。こんなにひどい怪我をしてるんだ、死んだと思ってもいいだろ?」
そういいながら、神は起き上がる。
神も相当あちこちを怪我していた。
普通の人間なら、もう立つことも出来ないくらいだろう。
そう、普通の人間ならば。
だが神は、まるで痛みなど感じていないかのように立ち上がる。
そしてこちらを向いて、にやりと笑った。
「そろそろ飽きてきた。君たちはいい人形になってくれそうだし…早くくたばってよ」
そう言いながら、神は手を上から下へと振り下ろした。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
ブックマークなど、よろしくお願い致します!




