分断
最後の通路を進んでいくと、僕達はまた少し開けた場所に出た。
「どの道も同じようなパターンね」
「うん、でも今回はちょっと敵の数が多いみたいだよ!」
シルヴィは一歩前に出て武器を構えた、エリシアはドラゴンの姿に変わる。
こちらの存在に気づいたのか、バケモノたちは奇声をあげて襲いかかってくる。
それを皆が今までのように倒し始めた時、僕は今までこの場所で聞いたことのなかった音を耳にした。
ガラガラガラと、何かを動かすような音が聞こえるのだ。
そして、その音を探して辺りに目を配ると前方の先へ続いているはずの通路についた分厚そうな金属出てきた格子が降りてきていたのだ。
「…皆! あれ!!」
あれが閉まりきったら、先に進めなくなるかもしれない。
そしたらここに居る敵を倒したところで何にもならない…。
「けど、この量の敵じゃ近づけないです!」
「…でも、道を開くことは出来そうだね。ゼアス!」
「あ?」
「君と君のパーティメンバーは、先に行ってくれ。私達もここを突破したらあとを追う」
「…。ジル、エリシア、シルヴィ! 行くぞ!」
…一瞬、ゼアスさんは迷うような表情をしてた気がする。
…もしかしたら、他の人たちのことが心配なのかも…。
ただ、全員がここで足止めを食うわけには行かない。
先立って走り出したゼアスさんに、シルヴィと人間の姿になったエリシアが続いていく。
もう格子は半分くらい閉まり、ドラゴンの姿のエリシアは入れなくなっていた。
「ジル! ソフィアは連れてきて! エリシアの目の届くところに居て欲しいの!」
エリシアは走りながら、振り向きざまにそう言った。
それを聞いて、僕はソフィアさんを連れて走り出す。
だが、格子の内側に入る前に、ゼアスさんの目の前の空間が微かに歪んだ。
「…! ゼアスさん!! 止まって!!」
そんな僕の声を受けて、ゼアスさんは驚いてその場に止まる。
その次の瞬間、ゼアスの目の前で歪んだ空間から白い外套を羽織ったバケモノが出てきた。
「ちっ…」
「蹴散らすわよ!」
そうシルヴィが杖を振りかざした瞬間、空間魔法を使う白い外套のバケモノは吹き飛んだ。
「うっわー、シルヴィ何したの?」
「まだ何もしてないわよ!」
「…ヴィッタさんだ…。皆、進もう!」
空間魔法を使うバケモノが吹き飛んだ先に立っていたのはヴィッタさんで、今までに無いほど真剣な表情をしていた。
そして、ヴィッタさんは僕と目が合うと小さく頷く。
…先にいけってことかな…。
僕も一度は、あんな風に格好つけてみたいものだ。
ゼアスさんとシルヴィ、エリシアは難なく格子の内側に入ったが、少し遅れていた僕は殆どうつ伏せに滑り込むような状態で格子の内側に入った。
「いてて…」
ソフィアさんを支えるのに両手がほとんど塞がった状態だったため、膝を強打してしまった。
本当に何をしても僕は格好つかない…。
格好つかないけど、ダサいやつはダサいヤツなりに、先に進ませてくれたみんなのために頑張らなくちゃ。
僕は痛みを我慢して立ち上がり、ソフィアさんの体をおぶり直す。
そして、前の方で待ってくれていた皆に向かって歩き出した。
皆と通路を先に進んでいけば、突然前方から白い外套のバケモノが二人、飛び降りてきた。
そのバケモノをゼアスさんが押しのけて歩いて行こうとした瞬間、そのバケモノの外套のフードが取れて、顔があらわになる。
その瞬間、ゼアスさんの表情が固まった。
「ゼアスさん?」
動きを止めたゼアスさんを、シルヴィは不思議そうに見つめた。
すると、ゼアスさんは怒りに声を震わせながら言葉を紡いだ。
「本当に神ってのは胸糞悪い野郎だぜ…」
そういいながら、ゼアスさんはいつも魔法を使う時のように両手を前に突き出した。
そして、口早に
「お前たちは先に行け! 俺はこいつらを片付けてから行く!」
と叫ぶ。
いつものゼアスさんとは、何か違う…。
そう、僕もシルヴィもエリシアも感じ取り、ゼアスさんの横を通り過ぎて、バケモノの側を通過した。
にも関わらず、バケモノたちは僕たちに見向きもしなかった。
ゼアスさんが標的ってことなんだろうか…。
もしかしたらヴィッタさんみたいに、あのバケモノたちはゼアスさんにとって大切な人だったのかもしれない。
すれ違った直後、ゼアスさんの、
「すぐに楽にしてやる、アシュ、メリヌ…」
というつぶやきが聞こえた。
「ゼアスさんを一人で残してきちゃって大丈夫かしら…」
シルヴィは先を走りながらそんな風に言う。
確かに、あれが知り合いだったとしたら少し危険かもしれない…。
僕はそう思ったけど、エリシアはシルヴィの言葉に即答した。
「大丈夫だよ、ゼアスさんはやるときはやるしね!」
にっこりとエリシアは笑いながらそういう。
本人が居ないときはしっかりゼアスさんと呼ぶのに、本人が居る時はおじさん呼びなのはなんなのだろうか…。
ゼアスさんの言っていた通り、いやがらせのような気がするが…。
とりあえず、今そんなことはどうでもいいだろう。
「…そうね、信じるしかないわよね」
シルヴィはそんな風にエリシアに言葉をかえして前を向いた。
…多くの敵を足止めしてくれてる仲間たちが居る。
僕たちは、とにかく今は進むことしかできないんだ。
暫く三人で走っていた時、僕の背中でソフィアさんが動く気配がした。
僕がくるりと振り返ってソフィアさんの方に視線を向ければ、ソフィアさんは一瞬目をこすったかと思うとすぐにハッとしたかのように僕の背中から飛び降りた。
急にソフィアさんの重みが無くなったことで、僕は一瞬よろける。
そしてその一瞬でドラゴンの姿になろうとしたソフィアさんのことをエリシアが止めた。
ソフィアさんの腕を掴んで、首を横に振る。
そして、一瞬だけ僕たちの方に視線を向けると、エリシアは
「二人とも、先に行って! すぐに追っかけるから!」
と声をあげた。
その後すぐにソフィアさんが声をあげたが、僕とシルヴィは先へと止まることなく進んでいった。
僕はともかく、シルヴィがいたらエリシアが居てもソフィアさんをなだめられないかもしれない。
シルヴィ自身もそのことがわかっていたのか、一度も後ろを振り返ることはなかった。
そこからしばらく行ったところは、もう行き止まりになっていた。
「なによ…これ…もう先に進めないってこと…?」
「…だとしても、引き返すのは無理だよ…」
「でも、道がないなんて…」
…あんな仕掛けを作ってまでこっちに進ませたくなさそうだったのに、何もないなんてそんなことがあるのか…?
あんなにバケモノたちを配置してた意味は?
カモフラージュのためにそんな無駄なことをするとは思えない。
だとすると…。
僕は一歩踏み出し、行き止まりになっている通路の壁に手をついてみた。
すると、壁ががぱっと外れて、穴が現れた。
「これは…」
「隠し通路…? 下につながってるみたいだけど…」
「進むしか、なさそうだね」
僕がそういうと、シルヴィは力強く頷いた。
「えぇ、戦ってくれてるみんなのためにも、行きましょう」
そう言ってくれるシルヴィに、僕はこくりと頷く。
そして、意を決して穴の中に飛び込んだ。
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