トラップだらけの道
向こう側についたとき、僕は地面に座り込み、真っ青な顔色で口元を押さえていた。
「ジル、大丈夫?」
そんなエリシアの声に、僕はゆるゆると首を横に振った。
エリシアの背中に乗って途切れた道を渡ることができたはいいものの、強い風の中を飛んだせいでエリシアは何度も大きく煽られて、乗っている側としては気持ちが悪くなってきてしまったのだ。
他に乗っていた人たちがけろっとしているのがなかなかに納得がいかない。
未だに足下が揺れている気がするし、吐き気もする。
「なかなかに体が弱いですね…ジル君」
そんなエリンさんの心配そうな声が聞こえる。
心配してその言葉をかけてくれているのかはわからないけど、全然嬉しくない。
でも、確かに僕は何度も倒れたこともあるし、体はあんまり強くない方なのかもしれない。
「ジル、歩ける?」
シルヴィが僕の横に屈みこみながらそんな風に聞いてくるが、僕は首を横に振った。
今立ち上がったらめまいですぐさま倒れそうだ。
「ちょっと…皆先に行ってて…」
僕がそう言えば、皆は考えるような表情をする。
…さっきまではずっと置いて行かれていたから、多分この先も暫くは一人で大丈夫だと思うんだけど…。
僕のそんな思考を遮るように、近付いてきたマアヤさんが何やら呪文を唱えると、僕の体が緑色の光に包まれる。
そして次の瞬間、重苦しい感覚のしていた胸の辺りがすっきりとし、グラグラと揺れているような感じがした足元もそんな感覚はきれいさっぱり無くなってしまった。
「治りましたか?」
マアヤさんは無表情で僕にそんなふうに聞く。
「はい、スッキリしました…。流石ですね…ありがとうございます…」
言葉を返した僕に、マアヤさんはコクリと頷くと通路の方へ先に歩き始めた。
僕も立ち上がってみるが、足元がぐらぐらしている感覚や、吐き気は無くなっていた。
マアヤさんは治癒魔法に特化してる人なんだっけ…。
すごいな…。
僕も、治癒魔法は使えないけど、他の方法で皆を助けられるようになりたい…。
そう考えている僕の横でかがみ込んでいたシルヴィが微動だにしないのに気づいて、僕はシルヴィに視線を向けた。
するとシルヴィは、じっとマアヤさんの後ろ姿を見つめている。
「…シルヴィ…?」
「…」
シルヴィは、無言でその場から立ち上がる。
そして、小さな声でマアヤさんに視線を向けたまま呟いた。
「…私も、頑張らなくちゃ…」
と。
そしてシルヴィは皆の後を追って、通路の方へと歩いて行った。
僕も彼女に続いて歩き出し、久々に今まで一度も足を踏み入れていない場所に入っていった。
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数刻後、僕たちはげっそりとした顔で通路から出てきた。
元の場所に戻ってきてしまったのだ。
「…だから私にしておけば良かったんだよジル君…」
「僕のせいですか…? だってあんなにトラップだらけだなんて、予想できるわけないじゃないですか…!」
大きな岩でできた球体に追いかけられたり、床のある場所を踏むと地面の底が抜けたり、ある場所を通過しようとすると刃物が飛んできたり…その他いろいろ、相当なレパートリーだった。
…神様って暇なのかな…。
しかもこの道はどこにも続いていないと来てる。
一周ぐるりと回ったかと思うと、元の道に戻ってきてしまっていた。
…正直、遊ばれているとしか思えないくらいだ。
皆疲労がたまって来てるみたいで、口数も少なくなってきている。
これでは、いざ神様と戦うってなったとしても力の半分も出せないだろう。
「…皆…少し休みませんか?」
僕がそう声をかけると、皆は嬉しそうにうなずいた。
「いやぁ…にしても、今の通路は長かったね…」
そう、ヴィッタさんは地面に座り込みながら言った。
「そうですね…なのにどこにも繋がって無いっていう…」
「本当、迷惑な話だよ。神って暇なんだね」
…僕と同じようなことを、ヴィッタさんも考えていたようだ。
僕たちは少しの間、途切れた通路の横で休んでいた。
するとしばらくすると、途切れた通路の向こう側に誰かが現れた。
「お! やっと見つけた!!」
そんな声に僕たちが驚いて視線を向けると、そこに居たのはゼアスさんだった。
ゼアスさんの後ろには、エマさんとレインさんとランディットさんが居た。
三人も誰も大きな怪我はしていなさそうで、僕は安心した。
「全員無事か?」
こちら側に渡ってきたゼアスさんが、そんな風に聞く。
分かれてから数刻しか経っていないにも関わらず、なんだか懐かしい感じがした。
「あぁ、こっちは全員無事だよ」
そうヴィッタさんがごろりと横になりながら答えると、ゼアスさんは呆れたようにため息をついた。
「おめぇはリラックスし過ぎだ」
「そうかな? ちょっと疲れちゃってね…」
結局、マスター以外の全員がこの場所に集まって、少しの間の休息を取った。
そして、その後に元来た道をもう一度引き返し、今度こそ一番最後の通路である、右側の通路の前にたどり着いた。
今までの通路と見た目は何ら変わらないにもかかわらず、皆の表情は真剣だった。
ここに何かがある。
そう、みんな予感しているのかもしれない。
神だって、僕たちを殺したくてここに連れてきているはずなのだ。
となれば、何かしらここで仕掛けてくるはず…。
僕たちは気を引き締めて、その通路の中へと乗り込んだ。
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